ハロウィン?いいえ、お墓参りです
前回のあらすじ
タケシ、お前の席ねえから
ショタ「お母さんのお墓参りに行かない?」
カグヤ「ショタ君のお母さんっていうと…薫お姉ちゃんのお墓参りってこと?」
ショタ「そうだよ」
ニート「どういうことだ?」
ショタ「僕、この町のこと見たことあるなって思ってたんだけど、よく考えたら最初のデスゲームが終わった後におじいちゃんに最初に連れて来てくれたのがこの町で、この町にお母さんのお墓を作ったんだ」
ニート「なるほど、この町にお姉ちゃんのお墓があるわけだ」
ショタ「うん、そういうわけで一緒にお墓参りに行かない?」
ニート「もちろん行くぜ、行ってやらないとお姉ちゃんに祟られる」
カグヤ「私も行くよ。顔見せてやらないと薫お姉ちゃんスネちゃいそうだし」
ショタ「じゃあ、いろいろ準備があるだろうから、明日またここで集合ね」
翌日
腐女子「へぇ、お墓参りに行くんだ…」
ニート「そういうことだ。見て分かるだろ?」
お墓参り当日、ニートは洗面台の鏡の前にたって髪型を整えていた。
お墓参りなだけあって、いつもとは違い正装を身にまとっているニート。おまけに髪型はもちろん、細部にまで手入れをしていた。
しかし、腐女子にはどうしてもお墓参りに行くにしては気になる点が一つあった。
腐女子「…で、なんで顔に鼻眼鏡付けてるの?」
そう、ニートはなぜが100円ショップで売ってそうなパーティーグッズの鼻眼鏡を付けていたのだ。
ニート「そりゃあお墓参りだからな」
腐女子「いや、普通に考えてそれは死者への冒涜じゃないの?」
ニート「ただの墓参りじゃねえぞ?お姉ちゃんのお墓参りなんだぞ?。お姉ちゃんは暗いのは基本的に嫌いだらな。それなのに辛気臭い顔見せたら末代まで祟られちまうよ」
腐女子「身内を末代まで祟るとか、その仏さん頭悪いね」
ニート「ははは、まったくその通りだ。…バカな姉だよ」
腐女子「ほんとお姉ちゃんのことが好きだったんだね、ニート」
ニートが一瞬だけ間を空けて発した『バカな姉だよ』に込められた思いが腐女子にはひしひしと伝わったようだ。
ニート「まぁな。昔はお姉ちゃん子だったしな…」
腐女子「シスコンだったんだね」
ニート「それはそうと、七三分けかオールバック、どっちの方が面白いかな?」
腐女子「どっちが面白いかって…お墓参りにあるまじき裁定基準だな」
ニート「鼻眼鏡なら七三分けの方が似合いそうだけど、オールバックの方がギャップがあるし…」
腐女子「じゃあリーゼントで」
ニート「それだ」
その後、腐女子の手伝いもあって小一時間ほどでなんとかリーゼントを完成させたニート。
ショタ「準備できた?」
そう言って死装束を身にまとったショタが顔を出してきた。
腐女子「…その格好でお墓参りするの?」
ショタ「うん、そうだよ。さっきカグヤお姉ちゃんから連絡があって、もうこっちに着くって言ってたよ」
ニート「よし、じゃあ俺たちも家の前で待ちますか。…あ、そうだ、腐女子も来るか?」
腐女子「遠慮しとく。身内だけで積もる話もあるだろうしさ…」
ニート「それもそうか。…じゃ、行ってくる」
ショタ「行ってきます」
腐女子「行ってらっしゃい」
二人を見送った後、ひょっこり顔を出した腐女子の母が訪ねてきた。
母「あら?今日ってハロウィンだったかしら?」
腐女子「いや、お墓参りだってさ」
母「なるほど。…なるほど?」
カグヤ「ごめん、お待たせ」
ニート達が家の前で待っていると箒とリンゴを持った魔女のコスプレをしたカグヤが現れた。
ショタ「すごーい、魔法使いみたい」
カグヤ「ふっふっふ、『魔法使いみたい』じゃなくて、今の私は本当に魔法が使える正真正銘の魔法使いさ」
ショタ「どんな魔法が使えるの?」
カグヤ「ふっふっふ、それはね…えっとね…そ、空を青く染める魔法とか…」
ニート「元々じゃねえか」
カグヤ「他にも季節を秋にする魔法とか…」
ニート「だから元々じゃねえか」
カグヤ「いや、それは違うよ。空が青いのは私がかつて魔法を使ったからであって、今の季節が秋なのも私の魔法のおかげであって…」
ニート「それなら、秋が過ぎて冬になった時にもう一回秋に戻してくれよ」
カグヤ「いや、一個人の私欲で勝手に季節を書き換えるのは良くないよ」
ニート「それじゃあその魔法はいつ使うんだよ?」
カグヤ「それにこの魔法が使えるのは夏が終わった時だけだからね」
ニート「それはただの自然の摂理だろ」
カグヤ「まぁまぁ、それはさておき、早くお墓参りに行こうよ」
ショタ「うん、それじゃあ出発!」
ショタに連れられてやって来たのは病院の施設内に設けられている公園であった。
ショタ「この公園だよ」
ニート「公園?」
カグヤ「こんな近所の公園に薫お姉ちゃんのお墓が?」
ショタ「こっちに来て」
ショタはそう言って、公園内の林の中を歩いて行った。
2、3分ほど林の中を歩いて行くとそこだけ木が生えてない小さな広場のような場所にたどり着き、その広場の真ん中の石を前に手を合わせてショタは言った。
ショタ「…久しぶり、お母さん。ようやくここまで来れたよ」
それは墓と呼ぶにはあまりにみすぼらしいただの石であった。
ショタ「待たせてごめんね。お兄ちゃんとカグヤお姉ちゃんを連れて来たよ」
そんなただの石を目の前にショタは嬉しそうにそう語った。
ニート「久しぶりだな、お姉ちゃん」
カグヤ「ふっふっふ、リンゴは要らんかねぇ。美味しい美味しいリンゴだよぉ」
墓を目の前になぜが怪しげな魔女のようにリンゴを勧めるカグヤはそのままお墓の前にリンゴをお供えした。
その後、お墓を前に手を合わせてこんなことを言い出した。
カグヤ「今年も私の魔法のおかげで無事に秋を迎えることができました」
ニート「いや、それは自然の摂理だけどな」
カグヤ「冬を前に木の実は生い茂り、動物達は肥え、みんな各々、充実した秋を過ごすことができています。これも全て生前に師匠が私に魔法を教えてくださった賜物です」
ニート「いつからお姉ちゃんは師匠になったんだよ?」
カグヤ「師匠には…まだまだご報告せねばならないことはたくさんありますが…どうやら…私の方は…これが限界のようです…」
突然、カグヤの声が震え始めたのがニートにはわかった。
見た目では決して伝わらないだろうが、大切な人のお墓を目の前に悲しまない…なんて簡単にはできないものだ。
カグヤ「だから…最後に一言だけ…。いままでありがとう…薫お姉ちゃん…」
そう言うとカグヤは腕で目元を覆ってその場から駆け出した。
…きっと、泣き顔を見せたくなかったのだろう。
ショタ「僕、カグヤお姉ちゃんを見てくるから、お兄ちゃんはお母さんの話し相手になってあげてよ」
ニート「ショウタはもういいのか?」
ショタ「うん、僕は昨日いっぱいお話ししたし、もういいんだ」
そう言ってショタはカグヤを追いかけて行った。
姉のお墓を前に一人になったニートはお墓を前に座り込み、しばらく黙り込んでいた。
ニート「面と向かって会えたなら、言いたいことはいっぱいあるんだけどな…」
石を目の前に、ニートは言葉が出てこなかったのだ。
ニート「そういえば、お供え物の花は忘れちゃったんだよな。…まぁ、花なんてお姉ちゃんのガラに似合わないだろうし、これで勘弁してくれよ」
ニートはそう言って付けていた鼻眼鏡をお供えした。
ニート「花なんかよりお姉ちゃんにはそっちの方が似合ってるよ。…一応言っとくけど、これは褒め言葉だからな。…それじゃあ、俺も行くよ。なんか言いたい文句が思いついたらまた来る」
ニートはそれだけ言って、その場を去って行った。
ニートが林を抜けると、目を赤く腫らしたカグヤが座り込んでいた。
ニート「もう泣き止んだのか?」
カグヤ「うん、心配させてごめん。適当な話をしてなんとか気を逸らそうとしてたんだけどさ…いざお墓を目の前にすると…本当に薫お姉ちゃんは死んじゃったんだなって…」
ニート「仕方ねえさ。大切な人がいなくなるって、そりゃあ悲しいことだもんな。それを笑って迎えろなんて言うお姉ちゃんはワガママだ」
カグヤ「うん、ありがとう。それと改めてごめんね、レンジ」
ニート「なんの話だ?」
カグヤ「ほら、私、以前に死のうとしたことあったじゃん?。もしあの時あのまま死んじゃったら、レンジにこんな思いさせちゃうところだったから…」
ニート「それは別に良いんだよ。こうやって生きてくれてるんだからさ…」
カグヤ「うん。…だから…レンジも死なないでね」
ニート「変なこと言うなよ。数々のデスゲームを制してきた俺がそう簡単に死ぬわけないだろ」
カグヤ「うん、それもそうだね」
ニート「もう誰も死なせやしないさ。俺が全部茶番にしてやるからさ」
カグヤ「…本当に、レンジは頼もしいね」
すっきりとした秋空の下、そんなニートの姿を見てカグヤはそっと笑って見せた。
だが…。
一方、汐入家では…
父「ただいま」
母「おかえりなさい。…なにか分かったことある?」
いつものように町の調査を行っていた腐女子の父の顔は曇っていた。
父「この町が閉鎖された理由が分かったかもしれない」
母「本当に?」
父「とは言っても、まだ噂レベルの信用性しかないんだけど…その対策のために動き始めてる団体もある」
母「それで、どうして兎歩町は封鎖されてるの?」
父「…ある危険な感染病の感染者がこの町に紛れ込んでいるらしい」
兎歩町に暗雲が立ち込めていたことを、今はまだ誰も知らない。
実はもう物語は終盤を迎えていまして、その気になればあと5話くらいで終わらせられますが…次の展開を書くともうエンディングまで後戻りは出来なくて、何かやり残したことはないかと考えている状態です。
ゲームでいうならラスダンを目の前に『ここから先に進むともう後戻りは出来ない。それでも進みますか?』と聞かれている状態です。




