何か起きそうで特になにも起きない話
前回のあらすじ
タケシは庭に放置されたまま
ショタ「王手」
木を打ち付ける音と共にショタの声が発酵室にこだまする。
ニート「………」
ショタと対局中のニートは将棋盤を目の前にしばらく無言で思考を巡らし、やがてある結論に達する。
ニート「これ、詰んでない?」
ショタ「うん、詰んでるよ。8手前くらいから」
ニート「…早く言えよ」
ショタ「ニートのお兄ちゃんが逃げ惑う姿を見るのが楽しくて…」
ニート「…悪趣味だな」
兎歩町に集まった一同はテレビ電話組、CBKSの解読組、待機組の3チームに分かれたが、やることのない待機組は将棋で暇を潰していたのだ。
腐女子「また負けちゃったの?ニート」
ニート「俺が弱いんじゃねえぞ、ショウタが強いんだよ」
腐女子「へぇ、ショウタは強いんだ。将棋でも習ってたの?」
ショタ「ううん、そういうわけじゃないよ」
ニート「よし、将棋がダメなら次はオセロで勝負だ」
そう言ってどこからともなくオセロを持って来たニート。この家の中ならなにがどこにあるかを熟知しているようだ。
腐女子「どうせニートじゃ勝てないでしょ?」
ニート「いやいや、オセロなら何回かやれば一回くらい勝てる気がする」
腐女子「すでに負ける前提なんだね」
一方、そのころテレビ電話組である犯罪者、イケメン、ビッチ、係長は、兎歩高校の空き教室でテレビを一台借りてなにやら作業をしていた。
犯罪者「携帯のカメラで撮っている映像をリアルタイムで送受信っていうのは流石に難しいか…」
イケメン「いや、多分いけるんじゃないかな?この携帯、意外にスペックも高いし…」
係長「この線とこの線を繋げばいいの?」
そんな感じで作業をしていると、校庭の方からヘリの音が聞こえてきた。
係長「ヘリコプター?なんでここに?」
犯罪者「物資の補給だな」
係長が気になって校庭の方を覗くと生徒に指示を送ってヘリから投下される物資を校舎に運んでいる金髪の少女の姿が見えた。
イケメン「どうかしたのかい?」
金髪の少女の姿に釘付けになっていた係長に気が付いたイケメンが声をかけた。
係長「…いや、なんでもないよ」
犯罪者「もしかして、知り合いでもいたのか?」
係長「知り合いというか…娘を見つけてね」
犯罪者「娘さん?…それは会いに行かなくていいのか?」
係長「いいんだ。今の僕に会いに行く資格もないし、元気な姿を見れればそれで…」
係長はそう言ってさっさと作業に戻ってしまった。
イケメン「係長の娘さんって…もしかしてモトコちゃんかい?」
一応、パツキンの担任という顔を持つイケメンは苗字からそう判断したのだろう。
係長「娘を知っているのかい?」
犯罪者「モトコって…あぁ、パツキンのことか…。なかなか賢い子だと思うぞ」
イケメン「生徒会会長として、この町のために頑張ってる良い子だよ」
係長「そっか…頑張ってるんだな、モトコ」
係長はそう言って少し嬉しそうな顔をした。
ビッチ「イケメンさーん!!私こういうの作ってきたんですけどぉ…」
ビッチがそう言って持って来たのはタッパーに入れられたレモンの蜂蜜つけだった。
ビッチ「疲れた時にはぁ、やっぱりぃ、これが良いかなぁって…」
イケメン「ありがとね。でもまだ疲れてないから…後でいただくよ」
犯罪者「一昔前の運動部のマネージャーのような配慮だな」
係長「でも僕は実際に作って持って来たは人は見たことないけどね」
一方、ニート達の待機組は…。
ニート「あああああああああああ!!!!!!勝てない!!!勝てない勝てない勝てない勝てないぃぃぃぃ!!!!!」
真っ白に染められたオセロ盤を目の前にニートが嘆いていた。
腐女子「うわぁ…こんな綺麗な白一色を見たのは初めてだ」
ショタ「また僕の勝ちだね」
腐女子「やっぱり強いんだね、ショウタ」
ショタ「ううん、ニートのお兄ちゃんが弱いだけだよ」
ニート「クソ!将棋もオセロもダメとなると…今度は人生ゲームで勝負だ!!」
腐女子「とうとう運ゲーに走り出したか…」
ニート「ふっふっふ、人生ゲームならそう簡単に負けはせんぞ?」
腐女子「人生ゲームなら私もやろうかな、大人数の方がいいでしょ?。…あ、そうだ、せっかくだからタケシも参加させよう」
そう言って腐女子は庭に放置されていたタケシを連れてきた。
タケシ「サナエェ…サナエェ…」
こうして、4人の人生ゲームが幕を開けた。
一方、こちらは図書館に来ていたCBKSの解読組のカグヤ、アパレル、由紀の3人。
ノートに敷き詰められていた象形文字を目の前にカグヤが頭を抱えていた。
カグヤ「少なくともこれは日本語とは思えない…」
由紀「ごめんね、父の字が下手で…」
カグヤ「別に由紀さんが悪いわけじゃないですし…」
由紀「由紀さんじゃなくて、由紀でいいよ」
アパレル「わたし、飲み物持ってくるけど、二人ともいる?」
由紀「いただくわ」
カグヤ「わたしも欲しい、オカン」
アパレル「誰がオカンやねん」
そう言ってアパレルはその場を後にした。
しばらく由紀とカグヤは黙って象形文字と向き合っていたが、突然由紀がこんなことを尋ねてきた。
由紀「ねぇ、カグヤもCBKSの感染者なんでしょ?」
カグヤ「そうだよ」
由紀「いつ感染したの?」
カグヤ「もうずっと前からだね…確か、4歳の時からだったかな…」
由紀「そんなに前から?。それなのにいままで無事に暮らせてたの?」
カグヤ「…ううん、無事ではなかったよ。わたしは自分のお父さんを…」
由紀「そっか…ごめんね、嫌なこと聞いちゃったね」
カグヤ「気にしないで。自分でやってしまったことだから、しっかり向き合わなきゃいけないし…」
由紀「カグヤは強いね。ちゃんと向き合おうとしてる。それは簡単にできることじゃないよ」
カグヤ「それは多分、わたしを支えてくれた人のおかげだよ」
由紀「そっか、良かったね」
カグヤ「それでも、ときどき思っちゃうんだよね、お父さんが私を恨んでいるんじゃないかって…」
由紀「恨まれてるの?」
カグヤ「…お父さんはきっと私の幸せを願ってくれてる。でも、それは私の勝手な妄想でしかなくて、私は恨まれてもおかしくなくて…。それが分からないから、私はどうしたらいいのか分からない。お父さんが願っているのは、私が幸せになることなのか、それとも自分の仇である私に同じ目にあって欲しいのか…」
由紀「どちらにせよ、カグヤは幸せになっていいと思うよ」
カグヤ「お父さんが私を恨んでいて、同じ目にあって欲しいと思っていても?」
由紀「うん。だって、娘の幸せを願えないような奴のために、死んでやることないでしょ?」
カグヤ「それは…なんだが自分勝手な考えじゃないかな?」
由紀「そうかな?。自分のことをよく思ってない人間より、自分のことを思ってくれてる人のために生きたいと思うのは当然のことだと思わない?」
カグヤ「………」
由紀「とにかく、死ぬなんてことは考えるもんじゃないよ」
カグヤ「…うん、ありがとう、由紀」
そんな二人の様子をお茶を持って影から見守っていたアパレル。どうやら入るタイミングをうかがっていたようだ。
アパレル「お茶、冷めちゃったわね。…温めなおさなきゃね」
そう呟いて、再びどこかに行ってしまった。
一方、こちらは発酵室の人生ゲーム組…。
ニート(サラリーマン)「ふっふっふ、やはり堅実な生き方こそ一番だろ」
腐女子(漫画家)「どの口が言うか?」
ショタ(スポーツ選手)「次、タケシお兄ちゃんの番だよ?」
タケシ(フリーター)「サナエェ…サナエェ…」
腐女子「っていうか、ニートはそんな堅実な生き方で満足できるの?」
ニート「仕方ないだろ?職業を選択しなくとも最終的にフリーターに強制ジョブチェンジさせられるし、人生ゲームにニートという生き方はないんだからさ」
腐女子「そりゃそうでしょ。ニートでどうやって生きるのさ?親がお金持ちでもない限り、働かなきゃ生きていけないでしょ?」
ニート「それなんだよな、みんな働かなきゃ生きていけないと思ってるからニートという生き方を選択肢の一つとして考えないんだよな。まずはその働かなきゃ生きていけないっていう考えを改めなきゃいけないんだよ」
腐女子「改めるってそんなこと言われてもな…」
ニート「例えば、今流行りの人工知能。一説によれば2045年辺りには技術的特異点を迎え、人工知能が人間の知能を凌駕すると言われている。これによって人間は人工知能に仕事を奪われるとか言われてるが、逆に考えれば人間は仕事をする必要が無くなるというわけだ。するとどうだろう?働かなきゃ生きていけないという概念は崩れ、選択肢の一つとしてニートという生き方が当たり前のようにある社会になるわけだ」
腐女子「なんの話をしてるんだよ?お前は」
ニート「とにかく、『働かなきゃいけない』という考えは古いのだよ。もっとみんな先を見据えるべきだと思う」
腐女子「そんなこと言って、あんたはニートを正当化させたいだけでしょ?」
ニート「仕方ないだろ?。それこそが俺の使命なんだからさ…」
チンピラ「あんたが町の外から来たっていうやつか?」
兎歩町の一角で、元生徒会長のチンピラはとある男に出会った。
アニキ「そうですが…私に何かご用で?」
チンピラ「もし知っていたら教えてほしいんや。なんでこの町が封鎖されとるのか、なにがこの町を蝕んでおるのか…」
アニキ「なるほど…教えてあげても構いませんよ。ですが、その代わりに知っているなら教えていただきたいことがあります」
チンピラ「なんや?」
アニキ「とある男の…鬼塚ケイという男の居場所です」




