飛べない天使は堕ちるだけ
前回のあらすじ
係長、ニートになる。
人物紹介
ショタ かつてエンジェルとして田中さんを追い詰めた笑顔を絶やさぬ少年。実験サンプルとして捕まっている間にCBKSに感染されられていたが、本人からは不思議とその兆候が見られない。
係長 一度何もかも失ってしまった男。現在はニートなのでニートとキャラが被ってしまい、ニートのアイデンティティが脅威にさらされている。補足として述べておくが、娘の名前はモトコ、パツキンのことである。
アパレル かつては親が作った借金に苦しめられていたが、デスゲームの過程でその借金は帳消しとなり、いまは自由に暮らすことができる身。しかし、自分が関わったデスゲームがまだ続いていることが他人事とは思えず、ショタ達と行動を共にすることにした。現在はほとんど記憶を取り戻している。
ビッチ イケメンのためにショタ達と共に行動をすることにしたビッチ。ビッチとヴィッチの二つの人格を持ち、記憶も個別扱いなのか、ビッチの記憶は失ったはずだが、ヴィッチの記憶は元通りのままであった。それと、ヴィッチはイケメンの正体に気が付いていたが、ビッチはおそらく気が付いていない。
由紀 田中さんの忘れ形見でCBKSの感染者。政府から逃げるためにショタ達と行動を共にすることになった。彼女については話を掘り下げる機会が無いのでキャラが有耶無耶のままになってしまってる。そのうちもっと掘り下げたいなとは思う…思うだけ。
ボス 登場時は強キャラ感に溢れていたが…最近は小者臭が滲み出て来てしまった。…うーん…なにか名誉挽回の機会があればいいのだが…。
警備兵「先日の逃亡者ですが…いまだに何一つとして、その消息を掴むことはできません」
ピリピリと張り詰めた空気の中、ボスを目の前に警備兵は逃げ出したショタ達の捜査報告を行っていた。
ボス「そうですか…。正直、子供だと思って甘く見てましたよ、エンジェル」
そう言うとボスはしばらく黙って何かを考えるような仕草をした後、重く閉ざされたその口を開いてこう言った。
ボス「いまから記者会見を行います。CBKS、および兎歩町の封鎖の理由を公開し、逃げ出した感染者を指名手配して、情報を仰ぎましょう」
警備兵「…よろしいのですか?」
ボス「噂ももう世間に広まってしまっています。封鎖の理由の説明を求めて毎日のようにデモも続いています。…これ以上隠し続けることはできないでしょう」
警備兵「かしこまりました」
ボス「それと、兎歩町の中にはこの情報は流さないように手を回しておいてください」
警備兵「なぜですか?」
ボス「知らない方がいいこともあります…たとえ彼らが一番の当事者だとしても…」
警備兵「かしこまりました。それと、もう一つ報告したいことがありまして…」
ボス「なんですか?」
警備兵「おそらく、逃亡者が意図的に置いて行った携帯がありまして…」
ボス「意図的に携帯を?」
警備兵「はい、例のデスゲームで使われていた黒いガラパゴス携帯なのですが…残っていた8個の内、7個を持って行き、一つだけ取らずに置いて行ったものがありまして…」
ボス「…わかりました、一応私の方で預かりましょう」
ボスはそう言って部下から携帯を受け取った。
ボス「翼をもがれた天使の末路…あまり良い予感はしませんね」
数日後、政府によって公開されたCBKSの情報に国中が驚愕していた。
感染する殺人衝動の存在に恐れ、震える日々を過ごす人は少なくなかった。
中には感染者をみすみす逃したこと、兎歩町を犠牲にしていること、そしていままでこの情報を隠していたことに怒りを露わにし、兎歩町の周辺では暴動を起こすものが後を絶たなかった。
そんな最中、全国に感染者として指名手配されたショタと由紀は国をあげての捜索活動をかいくぐり、なんとか逃亡を続けることが出来ていた。
しかし、この逃亡劇も時間の問題…いずれは捕まってしまうのは目に見えていた。
ショタ「と、いうわけで僕達はこれから兎歩町に向かおう!!」
だが、そんなことを気にする様子もないショタは係長、アパレル、ビッチ、そして田中さんの娘にしてCBKSの感染者の由紀の4人を前に無邪気にそんな提案をした。
『ニートのお兄ちゃん達が助けを求めている』ということを聞いてアパレルとビッチはショタに呼ばれて来たのだが…ショタからの説明はそれだけだった。
アパレル「えっと…ニートが私達に助けを求めてるって聞いたけど…具体的にはどういうことなの?」
ショタ「僕、子供だからよく分からない」
説明不足で状況がイマイチ把握できないアパレルの質問にショタはただただ無邪気な笑顔を返した。
ビッチ「でも、イケメンさんも兎歩町にいて助けを求めてるんでしょ?」
ショタ「うん、そうだよ」
ビッチ「それなら行かなくちゃね、イケメンさんの助けになるために」
ショタ「流石だよ、ビッチお姉ちゃん。話が早くて助かるよ」
由紀「あの…それって私も行く必要があるの?」
田中さんの忘れ形見である由紀が少々遠慮がちに手を挙げた。
ショタ「由紀お姉ちゃんは感染者だから政府に狙われてるから、一緒に兎歩町に行った方が安全だよ?。あの中なら偉い人もなかなか手を出せないし」
由紀「それもそうね…」
ショタ「だから、みんな一緒に来てくれる?」
ビッチ「私は行くわ、イケメンさんのために」
係長「僕も行くよ。みんなの役に立ちたいし、もしかしたら娘と会えるかもしれないし」
由紀「もちろん行くよ。私はどの道兎歩町に逃げるしか選択肢は無いし…」
アパレル「私も行くわ。状況は分からないけどこれは他人事だとは思えないし、最後までこのと行く末を見守ってあげなきゃね」
ショタ「わぁーい!!みんな来てくれるんだね!!」
係長「でも…問題はどうやって兎歩町の中に侵入するかだよ?。人も通信も政府の厳重な警備に封鎖されているところにどうやって侵入するんだい?おまけに今、兎歩町を取り囲むように建てられた大きな壁のせいで余計に侵入しにくくなっているし…」
アパレル「どこかこっそり侵入できる抜け道とか知ってるの?」
ショタ「いや、そんなのは知らないよ。難しいこと考えないで、堂々と正面から入れてもらおうよ」
由紀「正面から?」
するとショタは何やら見覚えのある黒い携帯を取り出した。
ビッチ「その携帯って…島で使ってたやつ?」
ショタ「うん、施設から脱出するときにおじいちゃんの携帯以外の残ってた携帯は全部回収して来たから、係長のおじちゃんの分をあげる」
そう言ってショタは係長に携帯を渡した。
係長「ありがとう。…でも携帯なんか持ってたら政府に場所を特定とかされたりしないの?」
ショタ「大丈夫だよ。この携帯は場所を特定されないために特別な細工が施されてるからさ」
アパレル「なんでそんなこと知ってるの?」
ショタ「前に田中のおじちゃんが話してくれたんだ。もしこの携帯がなんらかの形で場所を特定できる物だとしたら、島でのデスゲームの最中に関係無い誰かに島に人がいることがバレちゃってやりにくくなるから、この携帯は場所を特定出来ないようにされてるんだって」
係長「なるほど。確かに誰かに間違って場所を特定されたら面倒だもんね」
ショタ「だからこの携帯は持ってても大丈夫なんだ。そもそも場所が特定できるんだったら、島で携帯を二つ持ってた僕がエンジェルだってバレちゃってたし…」
由紀「それで、どうやって兎歩町に入るの?」
ショタ「待ってて、今お願いしてみるからさ…」
そう言うとショタはどこかに携帯をかけた。
アパレル「どこに電話をかけてるの?」
ショタ「わざと施設に残していったおじいちゃんの携帯にかけてるよ。きっと偉い人が出てくれるからさ」
ショタがそう言ってしばらく電話をかけていると、重々しい声のボスの声が聞こえてきた。
ボス「…エンジェルか?」
まさかショタの方から電話をかけてくるとは思わなかったのか、声から多少の動揺が見られた。
ショタ「もしもし?お願いがあるんだけど、僕たちを兎歩町の中に入れてくれないかな?」
ボス「…兎歩町にだと?」
ショタ「悪い話じゃ無いと思うんだ。感染者の僕たちにその辺をうろちょろされるより、兎歩町に閉じ込めておいた方が安全だと思うし…」
ボス「確かにそうだ。だが兎歩町の封鎖は絶対で例外など認められない。そしてあなた達を捕まえるのはもはや時間の問題…わざわざ要求を聞く理由など…」
ショタ「えぇー!入れてくれないの!?。困ったなぁ…入れてくれないんだ…。じゃあ、こういうのはどうかな?」
ショタは無邪気に、どこかわざとっぽくそんな言葉を零し、笑顔でこんな提案を持ちかけた。
ショタ「兎歩町に入れてくれないなら、感染広めちゃうよ?」
ショタの放ったその一言はもはやお願いなどではなく、立派な脅しであった。
それもただの脅しなどでは無い。国民を人質に国に対して要求をするその様は紛れもなく…。
ボス「それは…テロリストに成り下がったということか?エンジェル」
ショタ「え?僕子供だからよく分からない」
ボス「…少し時間をいただけませんか?。今この場で決めるのは難しいことなので…」
ショタ「うん、わかった。5分あげる」
ボス「5分!?」
ショタ「うん。5分後に兎歩町を覆う壁の正門の前に行くから、その時に門を開けておいてね」
ボス「待ってください!!もう少し時間を…」
ボスが時間の延長を要求するが、ショタはそれを無視して通話を切り、携帯の電源をオフにした。
ショタ「それじゃあ、兎歩町にレッツゴー!!」
通話を終えたショタは係長達に向かって無邪気にそう告げた。
係長「これって…一種のテロだよね?」
ショタ「さあ?僕子供だからよく分かんない」
とんでも無いことに足を突っ込んでいるんじゃないかと心配する係長を尻目に、ショタは笑顔でそう答えた。
警備員「5分あれば、正門前に警察を手配して、感染者の身柄を拘束することも可能ですがいかがなさいましょう?」
ボス「いえ、その必要はありません。感染者を確保した者が感染するリスクがありますから…なるべく感染者との接触は避けましょう」
警備員「直接接触しなくても、狙撃することは可能だと思われますが?」
ボス「やめておきましょう。正門前にはデモ活動中の市民が殺到してます。そんな中で射殺するのは…火に油を注ぐようなものです」
警備員「では、おとなしく感染者達を門の中に入れるということですか?」
ボス「そうですね。本来、国がテロリストに屈することなどあってはならないことですが、内密に、そして穏便にことをすませば公になることでもありません。ですが、警備員は多めに配置しておいてください。門が開いた時に、デモ活動中の市民がなにするか分かりませんから…」
警備員「かしこまりました、手配します」
警備員がそう言って出て行った後、ボスは独り言を呟いた。
ボス「果たして、翼をもがれた天使はどこまで堕ちていくのか…」
一方、こちらは兎歩町を覆う壁に設置された巨大な正門の前。
たくさんのデモ活動中の市民で溢れる中、その重々しい巨大な門は開かれた。
今まで一度として開かれなかったその門が開いたことに市民は動揺し、中には門の中に入ろうと近づく者も現れた。
しかし、警備員によって阻止され、誰一人として開いた門に近づけない中、警備員によって開かれたデモ活動中のたくさんの市民の間を堂々と歩く5人の人影があった。
その正体はもちろん、ショタ達であった。
係長「なんだか…大事になってない?」
ビッチ「警備員に守られながら大勢の人の間を練り歩く…気分はハリウッド女優ね」
アパレル「そうね、悪い気はしないわね」
由紀「…随分と呑気な人たちね」
各々感想を口にする中、ショタは周りの人たちに笑顔で手を振りながら歩いていた。
そして、五人が無事に兎歩町への第一歩を踏み入れると、巨大な門はゆっくりと閉じ始めた。
重々しく、そして仰々しく音を立ててしまるその門を背に係長はショタにこんな質問をぶつけた。
係長「…もしかして、僕たちってここからもう一生出れなかったりする?」
ショタ「さあ?僕子供だからよく分かんない」
ショタは確信犯的な笑顔でそう答えたとさ。
こうして、兎歩町のデスゲームに新たに5人のプレイヤーが加わった…かのように見えたが、一つだけ、誰もが予期しなかったイレギュラーが発生した。
兎歩町の外と中をつなぐ唯一の架け橋である巨大な門が完全にしまる直前、一人の男がデモ活動中の市民と警備員の間をすり抜け、門が完全に閉まる間一髪のところで兎歩町に入り込んだ男がいた。
その男は白いスーツをビッシリと決めたいかにもなインテリヤクザであったとさ。




