この戦いにおいて意識高い奴は敵
前回のあらすじ
君を守るために、僕は全力でニートをしよう
腐女子「いやぁ〜、それにしても養われてる男ってカッコいいよねぇ〜」
カグヤ「そ、そうだよねぇ、カッコいいよねぇ…」
学校の教室のお昼休み、腐女子とカグヤは大きめの声でわざとらくそんな会話をしていた。
腐女子「養われることへのあのヒモ根性…女の子として惚れざるを得ないよねぇ」
カグヤ「そ、そうだよねぇ、カッコいいよねぇ…」
まるでわざと周りに会話を聞かせているかのように棒読みで会話をする二人。
腐女子「このクラスの男共ももっと養われるように努力すればもっとモテて彼女もできるのにねぇ…」
モブ島「なに?」
モブ山「彼女ができるだと?」
腐女子とカグヤの少し声の大き目の会話に聞き耳を立てていたモブ共が『彼女ができる』という言葉に反応を示し始めた。
カグヤ「そ、そうだよねぇ。養われるってほんと尊敬するよねぇ」
腐女子「みんなもっとニートになる努力をすれば、彼女も出来るはずなのにねぇ」
モブ島「ニートになれば彼女が出来るって聞いたんだが…それは真か?」
腐女子のカグヤの会話に興味を示したモブ島が二人の元に寄ってきて声をかけてきた。
腐女子「え!?もしかしてモブ島は知らなかったの!?。ニートがモテモテなのも知らないなんて遅れてない!?」
カグヤ「ウソォ!?そんなことも知らないなんて、モブ島ともあろう人が流行に遅れてるよぉ!?」
モブ島「いやいやいや!俺だってそのくらい知ってるよ!。アレだろ?最新のモテ術だろ?ニューヨークとかで流行ってるとか聞いたことあるぞ!」
知らないことをバカにされたくなかったのか、モブ島は知ったかぶってそんなデタラメなことを述べた。
モブ山「へぇ、ニューヨークではニートなんかがモテてるんだ。…世も末だな」
モブ木「いや、あながちデタラメというわけでもないだろ?。俺らのクラスにいるニートが腐女子と同居まで進んでいるのはニートがモテるからっていう可能性もあるだろ?」
モブ山「なるほど、そういう裏があったのか。おかしいと思ってたんだ、あんなどクズが彼女持ちでさらには同居まで発展してるっていうのは…」
モブ藤「そういえばこの前の文化祭でニートのやつ、月宮さんと二人で文化祭を回ってるのを見たぞ?」
モブ崎「なんだと!?腐女子だけに飽き足らず、月宮さんにまで手をかけていたというのか!?」
ボブ沢「あんななんの取り柄もないどクズがなぜそんなハーレム展開になっているというのだ!?」
モブ橋「まさか…ニートがモテるというのは本当だったということか?」
モブ田「バカな…ありえない…。だが、あんなどクズでもモテてるんだから、そうとしか考えられん…」
モブ山「ニートがモテるというのは…事実だったということか…」
モブ木「納得がいかない!。もっと女性の意見を聞いてみよう!。シロたんはどう思いますか?」
ニートがモテるというデマに納得がいかないモブ木は教室にいたスミレもとい、イケメンもとい、担任のシロたんに問いただした。
シロたん「かっこいいと思うわよ。それに別にニートがモテるのは今に始まった事ではないわよ?。ニートっていえば聞こえは悪いけど、明治の末期には定職につかないで自由気ままに暮らしている人のことを高等遊民と呼んでいたくらいだもの」
モブ藤「高等…遊民だと?」
モブ崎「強そう」
ボブ沢「かっこいい」
腐女子とカグヤとシロたんによって次第にニートに対する価値観が変えられつつあるモブ共。
腐女子「いやぁ、やっぱり養ってあげなきゃっていう母性本能をくすぐるところに魅力があるんだろうなぁ…」
カグヤ「お金がなくても時間が有り余ってるから、彼女のために時間を使ってあげられるところも魅力的だよね」
シロたん「扶養家族、居候、食客…ニートにだっていろんな言い回しがあるんだから、それだけ凄い存在なんだって歴史的観点からも簡単にわかるわ」
あの手この手でニートに対する魅力をアピールを延々と繰り返す3人。
次第にクラスのモブ共のニートに対する価値観も変化しつつあった。
モブ島「うっ…ニートハスゴイ、カッコイイ…」
モブ山「ニートナッタラ…オレモカノジョデキル…」
モブ木「ニートハスゴイ、イダイ…モテモテ…」
モブ藤「オレ、ニート、ナル…」
頭を抱えながら虚ろな瞳でそんなことをぼやき始めるモブ達。もはや洗脳の領域である。
女の子にモテたい、彼女が欲しい、そういう欲望に漬け込んだカグヤ達のニートがカッコイイアピールは効果覿面であった。
ニート「ふっふっふ…ひとまずこのクラスの奴らはニートに堕ちたな…。チョロいチョロい」
クラスメートが次々とニートに感染していく様子を見てニートは一人でほくそ笑んでいた。
そう、これはこの町の奴らを皆、一人残らずニートに染め上げるための最初の一歩としてまずはこのクラスをニートに染めることにしたニート達の作戦。
女の子に飢えているモブ共の心理に漬け込み、カグヤと腐女子とシロたんの女の子による3方向からの囲い込み攻撃…女性の魅力を生かしたニートによる狡猾な罠。名付けて…ハニートトラップ。
モブ崎「ウッ…ニートツヨイ…ニートモテル」
ボブ沢「ニートコソガコノヨノカミデ…モットモイダイ…」
思いの外、うまく行ってしまったこの作戦により、ニートの感染はクラス内に瞬く間に広まっていった。
パツキン「………」
しかし、ただ一人、この様子を見て何か危機感を感じていた金髪がいたとさ。
パツキン「一体どういうつもりなの?」
放課後、ニートとカグヤと腐女子はパツキンに昼間のハニートトラップについて言及して来た。
パツキン「ニートがモテるだなんてデマカセを広めて…このクラスの奴らを全員ニートにでもする気なの?」
ニート「いやいや、このクラスだけじゃねえよ。この町の奴ら全員ニートにする気だぞ」
パツキン「…は?」
腐女子「まぁ、そうなるのも無理は無いけど、そういうことだから」
パツキン「いや、ふざけないで!。そんなことをして一体何が目的だっていうのさ!?」
ニート「そりゃあ、養ってもらうためさ」
パツキン「そんなことのためにこの町を巻き込もうっていうの!?」
珍しくパツキンが怒りの声をあげていた。
まぁ、当然と言えば当然だが…。
ニート「そんなに怒ることないだろ?。養ってもらうっていうのは何も悪いことじゃないだろ?」
パツキン「確かに今は国から物資を援助してもらってるから養ってもらうことは可能だよ?。でもそれがいつまでも続く保証なんてないんだよ?。この町の人達が全員ニートになって、援助が終わったらどうするのさ?」
ニート「心配するな、この国には一生俺たちを養わせてやるからさ」
パツキン「そんな言葉でこんなカルト教団じみたことに納得ができるわけないでしょ?。そもそも上手くいくはずがないよ。うちらのクラスのやつはチョロいから説得はできるかもしれないけど、他の人はまず納得いかないよ?」
腐女子「まぁ、そう思うのが普通だよね。こういう話ってフィクションではバッドエンドか自立エンドしかないし、イメージは良くないよね」
ニート「でも上手くいけば人生バラ色だぞ?」
パツキン「上手くいくはずがないよ。養ってもらって生きていくなんてそんな先行きも見通せない不安定な状態にみんな納得するはずがないよ」
ニート「まぁまぁ、黙って俺を信用しろ。絶対に養わせてやるからさ」
パツキン「『信用しろ』って…。保証も何もない信用だけじゃあこの世界は回らないんだよ?」
犯罪者「いや、それはどうだろうな?」
パツキンとニート達が言い合っているとどこからともなくひょっこりと現れた犯罪者が口を出してきた。
犯罪者「お前が思っているよりもずっと、この世界は信用で回ってるもんだぞ?」
パツキン「どういうこと?」
犯罪者「例えば銀行だ。銀行を支えているシステムとして信用創造というシステムがある。…ほら、預金してる人が全員全部の金額を一斉に引き下ろそうとしても銀行はそれを払えないっていう話を聞いたこと無いか?。それは銀行が預金以上の金額を貸し付けに回しているからだ。本当はそんなにたくさんのお金は無いくせにそれ以上の額を貸して利益を上げているんだ。それでも銀行が機能しているのは信用があるからだ」
パツキン「確かにそういう話は聞いたことがあるけど…」
犯罪者「それに、この国だって信用で成り立っているんだ。いまや何十兆と膨れ上がって完済できる見込みの無いほどに借金しているこの国がデフォルトしないのは信用があるからだ。本当はぶっ壊れてもおかしく無いほど危機的な現状だが、信用のおかげで難なく成り立ってる。そのくせ、当の国民はこんな現状のくせに危機感すら感じていない。この国の国民が政治に興味が無いのは選挙率を見れば明らかだろ?。…要するに、信用さえあればどんなに不安定なことでも国民は納得して、それが成立させることができるんだよ。おまけにこの国の国民は危機感が軽薄だから、操作しやすいし…」
パツキン「この町の信用さえ集められれば、国にずっと養ってもらうことも可能だと?」
犯罪者「そういうことだ。お前が言っていた先行きの見えない不安定な状態っていうのは、別にこれからもこれまでも変わらないってことさ」
パツキン「…話はよくわかったよ。でも、あんた達の言っているこの国に養ってもらうっていうのはその信用すらできないものなんだよ」
犯罪者「そうだな。現段階では信用されることさえも難しいだろうな…」
パツキンの言葉に反論できなくなった犯罪者が口を塞ぎこんだ。
信用さえ得られれば…。だが、その信用を集めるのが難しい。その術もノウハウもあるはずが無いのだから…。
そう考え、何も言えなくなってしまった犯罪者達は沈黙することしかできなくなった。
やはり、ずっとこの国に養ってもらうことなど不可能なのか…。
そんなことが頭の中によぎってしまう。
だが、それでも一人、不敵に笑う男がいた。
ニート「おいおい、みんなそんな顔するんじゃねえよ」
まるで俺について来いと言わんばかりに胸を張ってニートは堂々としていた。
ニート「何も心配することはねえよ、こっちにはプロのニートがついてんだぜ?」
腐女子「…プロのニートってなんだよ?」
犯罪者「だが、この状況下でこんなにも頼もしい奴が他にいないのが悔しい」
カグヤ「そうだよね。私達にはレンジがいるもんね」
ニート「まぁ、黙って見てなよ、全てが茶番になる様をさ」
ニートは自信に満ちた目でまっすぐにパツキンにそう告げた。
いったいどこからそんな自信が湧いてくるのか…。
そんな底が見えないニートに対して、とうとうパツキンが折れた。
パツキン「はぁ…分かったよ、とりあえず見守ってみることにするよ」
ニート「おう、しっかり見ててくれ」
パツキン「でも、私が無理だと判断したら…その時は全力で阻止させてもらうからね」
ニート「心配するな、ちゃんとみんなニートにしてみせるさ」
パツキン「はぁ、なんかあんた達のせいで分かんなくなってきちゃったよ…なにが良くて、なにが悪いのか…」
こうして、ニート達によるニート感染作戦ははじめの一歩を進み出したとさ。
果たして、この決断が吉と出るか凶と出るか…それとも…。




