俺、頑張ってニートする
前回のあらすじ
兎歩町はCBKSに感染するか…それともニートに感染するか…。
腐女子「ただいま」
この町の住人をニートにするという突拍子もない目的を前に、一同はひとまず腐女子の発酵室を拠点とすべく、塩入家に帰って来た。
母「あら、おかえりなさい。…後ろの方々は?」
帰って来た腐女子を出迎えた腐女子母は腐女子の後ろにいた犯罪者となぜかイケメンの姿をしたスミレが気になっていた。
…まぁ、イケメンの姿をしていたのは彼女なりの仲間になった証みたいなものなのだろう。
腐女子「しばらくこの二人もこの家に住むことになったから、よろしく」
犯罪者「厄介になるぞ」
イケメン「不束者ですが、よろしくお願いします、母君」
母「え?…えぇ…」
突然娘が誰かを連れてくることに慣れてきたとはいえ、ニートに置物に加え、新たにいい年したおっさんと謎のイケメンが加わったことに多少困惑気味の腐女子母。
しかし、そんな母を尻目に一同はぞろぞろと家に上がり、二階にある発酵室へと階段を上がっていった。
父「どうしたんだ?お母さん」
母「娘が今度は新たにおっさんとイケメンを養い始めたわ」
父「えぇ…男4人と娘が同じ部屋だなんて…。娘が着実に乙女ゲーの主人公になりつつある」
母「それは大丈夫よ。娘はすでに消費期限が切れてるもの」
父「えぇ…自分の娘を消費期限切れ扱いとかどうなのさ?」
そう言う塩入家の父だが、この状況に少しずつ慣れつつあることに気がつくのはまだ先の話である。
一方、こちらはニートとカグヤとスカーレット。
日も暮れ、辺りがすでに暗くなっていたため、カグヤを家まで送って来いと腐女子に命令されたニートはカグヤを家まで送っていたのだ。
カグヤ「右手、ごめんね…」
家に帰る途中、カグヤがぼそりとニートの右手を怪我させてしまったことを謝った。
ニート「あぁ、これ?。大丈夫大丈夫、かすり傷だからさ」
ニートはそういうと包帯の巻かれた右手をプラプラさせながら平気アピールをした。
カグヤ「ごめんね、本当に…」
そんなニートを見て、余計に心が痛んだカグヤ。
父親の殺害、逮捕された母、この町を封鎖する原因となったCBKSの感染、そして今回のニートの右手の怪我。
他人の足を引っ張ってばかりで何もできないどころか、自分のせいで大勢の人が苦難に巻き込まれていることにカグヤは自責の念に苛まれていたのだ。
『やはり自分なんていない方が…』
四六時中、暗示のようにその言葉が心にのしかかる。
そんなカグヤの心情を察したのか、それともたまたまなのか、ニートは突然にこんなことを話し始めた。
ニート「…いまでも、時々お姉ちゃんのことが夢に出て来るんだ」
カグヤ「薫お姉ちゃんが?」
ニート「うん、目の前で自殺したお姉ちゃんの光景がね…いまでも…。あれからもう何年も経ってるのにね」
最初のデスゲームで自らの子供であるショウタを守るためにその命を犠牲にしたニートの姉、そんな姉の最後がいまでもニートのトラウマとなって心を侵食していたのである。
ニート「お願いだから、カグヤはそんなバカのマネをしないでくれよ。大好きな人が二人も目の前で死んじゃったら…さすがの俺ももう立ち上がれない」
カグヤに背を向けながらそう語るニートの表情をカグヤは知ることは出来なかった。
だが、その痛みは苦しいほどに伝わっていた。
カグヤ「ごめんね…。それでも私は…」
『私はいない方がいい』
カグヤがそう言おうとした時、突然ニートに腕を引っ張られ、全身が温かい何かに包まれた。
ニート「それでも生きてくれ。他の誰でもない…俺のために生きてくれ」
カグヤを抱きしめながら必死の思いをニートは訴えた。
ニート「俺が必ずみんなが幸せになれるようにするから…だから、だから…自分を責めないでくれ。必ずみんなを養わせてみせるから…みんなが笑えるようにするから…。俺、頑張るからさ…」
もう二度と大切な人を失いたくない、その思いがニートの声を震わせた。
カグヤが自分を包む温かい何かがニートの体温であることにようやく気がつくと、瞳にうっすらと涙を浮かべ、ニートの胸元に顔を沈め、一言だけ返事をした。
カグヤ「うん…信じる」
空に星が一つ、また一つ煌めき、やがて満天の星空となるまで二人はそのまま動かなかった。
楽しく、みんなが幸せになるように終われたら…全部が茶番で終われたら…。
それはきっと誰もが望んだ素敵で、そしてもっとも儚い馬鹿げた夢。
ただそれを、馬鹿げた夢で終わらぬようにと切に願った。
カグヤ「…いろいろありがとうね」
長い時間をかけてようやく家の前まで辿り着いたカグヤはニートに改めてお礼の言葉を述べた。
ニート「別に…全部自分のためだから…」
改めてお礼を言われたことに少し照れ臭そうにするニート。
カグヤ「それでも、嬉しかったからさ…」
そう言うカグヤも照れ臭そうに笑っていた。
ニート「じゃ、じゃあ俺そろそろ帰るわ」
そんな照れ臭い空間に居た堪れなくなったのか、そそくさとカグヤに背を向けてニートはその場を去ろうとした。
カグヤ「あっ…」
突然その場を去ろうとするニートを見て、カグヤは思わずニートの背中の服を手で握ってしまった。
ニート「えっと…なに?」
カグヤ「いや、えっと…その…」
まだ伝えたいことはあった。
だが、それを伝えるのはさすがに甘えすぎだ…。
そう考えたカグヤは握った手をスッと離し、ニッコリと何かをごまかすかのように笑って口を開いた。
カグヤ「ごめん、なんでもない。…おやすみ」
ニート「…うん、おやすみ」
なにか違和感を感じながらも、カグヤの意図を汲み取れなかったニートはそう言ってその場を後にしてしまった。
ニートが少し歩くと、突然どこからともなく婦女子の声が聞こえて来た。
腐女子「ダメだなぁ…やっぱり童貞にはここらが限界か…」
ニートを待ち伏せするかのように壁に寄っかかって腐女子はそんなことをぼやいた。
ニート「なんの話だ?」
腐女子「気にするな。君にはまだレベルの高い話だから…」
ニート「っていうか、なんでこんなところにいるんだ?」
腐女子「ニートの帰りが遅かったからさ…どこかでしっぽりやってるのかなと思って様子を見に来たんだよ」
ニート「…もしかして、後をつけてたのか?」
腐女子「まぁね。ニートがカグヤに『大好き』って告白したあたりから見てたよ」
ニート「は?俺そんなこと言ったっけ?」
腐女子「直接言ったわけじゃないけど…自覚は無いのか…。ニートって意識してると絶対に『好き』って言わないくせに、無意識のうちにボロボロと告るよね」
ニート「そうか?」
腐女子「そうだよ、タチが悪いったらありゃしない…。まぁ、それはそうと…ニートも一途だね」
ニート「なにが?」
腐女子「大切な人を守るために、この世界に喧嘩売るとか…アニメのヒーローかなにかかな?。まぁ、その方法はクズいんだけど…」
ニート「そういうことか。…でもそう言う腐女子も人のことは言えないだろ?。なんせBLのために生まれ育った町を売るくらいなんだからさ」
腐女子「まぁまぁ、BLはついでみたいなもんな。本当の理由は他にもあってさ…」
ニート「なんだよ?」
腐女子「悲劇を悲しいで終わらすのは簡単なことさ。なにもせずともそうなるからね」
ニート「急になんの話してるんだよ?」
腐女子「まぁ、黙って聞け。でもその悲劇を喜劇に変えるっていうのはとても大変で困難なことだ。並大抵のやつならまず不可能だ。だからそんな物語、なかなか観れるものじゃ無い」
ニート「つまりどういうことだよ?」
腐女子「要するに、私はあんたの茶番を見てみたいんだよ。クズなニートによる天地をひっくり返す番狂わせをね」
ニート「でも…そんなの出来るかどうかも分からないのに…」
腐女子「はっはっは、面白いことを言うじゃないか」
自信なさげに話すニートをあざ笑い、腐女子は胸を張って自分に向かって親指を立ててこう言い切った。
腐女子「この私に養わせてるくせに、世界に養わせるくらいわけないだよ?」
自信満々にそう宣言した腐女子。
そんな腐女子を見てニートは思わず吹き出し、ケタケタと笑い出した。
腐女子「おいおい、笑うなよ。そんな変なことを言ったか?」
ニート「いや、腐女子の言う通りだ。腐女子に養わせることが出来たんだから、世界に養わせるくらいわけないわな」
腐女子「じゃあ笑わなくてもいいだろ?」
ニート「いや、なんで俺って腐女子に対して免疫があるのかよく分かったよ」
腐女子「なんでだ?」
ニート「似てんだよ、俺のお姉ちゃんに」
腐女子「そっか。姉が腐ってるとか、可哀想に…」
ニート「いや、腐ってはなかったさ。ただ…バカなだけさ」
腐女子「…それって、暗に私のことバカだと言ってるのか?」
ニート「褒めてるんだから喜べよ」
腐女子「なんかその言い方だと全然褒められてる気がしないわ」
ニート「いいから喜べよ。こんなに頼もしいやつは他にはいないぞ?」
こうして、ニートの決意の日が終わろうとしていた。
この日を境にニートは成長し、より一層ニートとなるだろう。…いや、ダメじゃねえか
おまけ
腐女子が主人公の乙女ゲームの宣伝。
突然、自分の部屋で養うことになった4人の男性。そんな彼らとの胸がときめくシェアルームストーリー。
一緒に住むことになった四人とは…
ニート「もう、お前無しじゃあ生きていけないんだ」
ニート あなたと同い年の肥溜め。もう四六時中あなたに負んぶに抱っこであなたから離れなれない母性本能を擽る卑しい少年。
タケシ「サナエェ…サナエェ…」
タケシ 四六時中他の女の名前を連呼するしか能のないインコ系男子。失恋で凹む彼をあなた色に染めてあげませんか?。
犯罪者「しばらく厄介になる」
犯罪者 年上の少しダンディなおっさん。過去に殺人を犯し、警察とヤクザから追われていたこともあった。彼と共にスリル満点な人生はどうですか?。
イケメン「仕方ないさ、なぜなら僕がイケメンだからね」
イケメン 身も心もイケメンな人物。性別が女とかでも気にせず彼にゾッコンしよう。
こんな彼らと共に一つ屋根の下で過ごす共同生活。募り行く思いと出費、膨らむ夢と出費。
さぁ、あなたも今すぐ彼らを養おう。
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きっと…素敵な日々があなたを待っている。
腐女子「これ、クリア特典で主人公を男に変更できるとかあるなら買うわ」
ニート「やめてください、お願いします




