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つまり末永く養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
学園じゃないラブコメ編
35/57

バカな姉とクズな弟

前回のあらすじ


シリアス「ちょっと通りますよ」




人物紹介


萩山レンジ 言わずと知れたクズニート。


薫 ニートのバカ姉。


魔王 唯一にして絶対なる魔族の王。



魔王「ガハハ、よくぞここまで来た、勇者よ」


薫「今日こそ決着をつける時だ!!魔王よ!!」


それっぽいお城の玉座に腰掛けて勇者を待ち受ける魔王とそれっぽい鎧に身を包んだ勇者薫はそれっぽい決戦の場で対峙した。


世界をなんやかんやで支配しようと目論む魔王となんか光っぽい勇者に選ばれた薫の壮絶そうな最後だと思う戦いがいま幕を開けようとしていた。


レンジ「負けないで、お姉ちゃん」


まだ齢10にも満たない幼い弟のレンジは陰ながら姉の勇者を応援した。


薫「おう、お姉ちゃんに任せとけや」


魔王「完膚無きまで粉砕してやろう。来い、勇者よ」


薫「勝つのは私だ!!魔王!!」


強そうな剣を掲げてそれっぽい事を口にした薫は『ウオオー!!』という叫び声と共に飛び出した。


薫「祝福されし天よりの光を携え、いま伝説の剣としての真の姿で輝きたまえ!!」


そう言って薫が剣を天へと掲げると、それに呼応するように剣は強い輝きを放った。


それもただの光ではなく、なんかすごく神聖そうな光である。


魔王「ま、まさかその剣は…伝説の剣【河童の手】!!」


薫「そうだ。お前を倒すためにYah○oオークションに出展されていたのを苦労して購入したものだ!!」


レンジ「お姉ちゃんがパソコンの前に四六時中張り付いて、ようやく見つけた品だもんね」


魔王「なるほど…だとしたら、私も本気を出さざるを得ないな」


薫「なんだと?」


魔王「深淵より這い寄る混沌たる闇よ、邪悪なる力を持ってして争うものを破滅せよ!!」


魔王がそう言うとどこからともなくなんかすごい邪悪っぽい闇的なアレから一本の大きな鎌を取り出した。


薫「その鎌はまさか…魔神の鎌【カルアミルク】!!」


魔王「その通り。先代魔王が『この鎌を買わないとあなたは不幸になる』と脅されてしぶしぶ高値で借金までして購入した鎌だ」


薫「くっ、まさかあの魔神の鎌が魔王の手に渡っていたとは…」


レンジ「気をつけて!お姉ちゃん!。この前DAIS○に同じもの売ってるの見たけど、物凄い切れ味だったよ!!」


薫「なんてことだ!!。最近の100円ショップの商品は侮れないからな…」


魔王「くっくっく、潔く負けを認めたらどうだ?勇者よ」


薫「そんなわけにはいかない!!世界の平和のためにも、私は戦わなきゃいけないんだ!!」


その時、100円ショップの商品を手にした魔王を前にして追い詰められた薫の平和を望む強い心が伝説の剣【河童の手】になんやかんやで反応し、さらに強い輝きを得た。


魔王「ま、まぶちー!!」


レンジ「アレは…河童の手がお姉ちゃんの強い心に反応して光っているのか…」


薫「この全身を包み込むような温かい光はなんなんだ?。まるで誰かが私の手を握ってくれているかのような心強さ。少しヌルッとしていてエラのようなものが付いているかのようなこの生温かい手はまさか…河童の手か!?」


レンジ「聞いたことがある。伝説の剣はその持ち主の強い心に反応して発光し、少しヌルッとしていてエラのようなものが付いている河童の手で持ち主に勇気を分けてくれる…そのことから付いた二つ名は【河童の手】」


薫「凄い…なんて心強いエラのついた手なんだ…。もう誰にも負ける気はしない、もう何も恐れることはない、もう何も怖くない」


魔王「ふっふっふ、なるほどな。それが伝説の剣【河童の手】の真の姿というわけか…」


笑い方が『ガハハ』だったり『くっくっく』だったり『ふっふっふ』だったりで全く統一感のない魔王は伝説の剣の真の姿を目の当たりにしても余裕があるように見えた。


薫「魔王よ、余裕をこいていられるのも今のうちだぞ?。なぜなら今の私には河童の手がついているのだからな」


魔王「どうやら私も真の姿を見せる時が来たようだ。とくと見るがいい、私の真の姿を!!。そして…絶望するがいい!!」


そう言うと魔王の全身が震え出し、『ゴキッ』とか『グシャッ』とかっていう音とともにその姿を徐々に変化させ始めた。


魔王「これが…私の…真の姿だ」


やがて姿を見せたのは、全身が緑に染められ、甲羅を背負い、頭に光り輝く皿を乗せ、そしてエラのようなものを付けた手だった。


薫「その姿は…まさか…河童!?」


魔王「そう、私は河童だ」


レンジ「そんな…魔王が河童だったなんて…。それじゃあ伝説の剣【河童の手】っていうのは…」


魔王「その通り。その剣は私の腕を素材として作られた剣だ!!」


そう言うと魔王は肩から先をスッパリ切り落とされた自分の右半身を見せて来た。


薫「そんな…剣から伝わる温かな河童の手のベタベタした感触は…お前の手から作られていたなんて…」


魔王「絶望したか?勇者よ」


薫「でも、どうしてお前の腕からこんなにも優しくて生温かい光が見えるんだ?。こんなにも生温かなエラのついた手を持っているお前がどうして魔王になんてなっているんだ?」


魔王「…私はかつては人間と共存を望んだ河童だった。決して豊かではない小さな村で、私の家族はそこで人と共に歩み、良い関係を築き上げていた」


レンジ「そんな…かつては人間と一緒に暮らしていたなんて…」


薫「それなのに…どうして?」


魔王「理由はこいつさ」


魔王はそう言うと100円ショップに陳列されてある魔神の鎌【カルアミルク】を見せて来た。


魔王「もう何十年も前に、人間と共に暮らしていた私の父は悪徳商人に騙されて、高額でこの鎌を購入して借金を作った。その時の恨みを忘れられなかった父は人間を憎むようになり、そしてなんやかんやで魔王となり、子供の私に魔王を継承し、今に至るというわけだ」


薫「そんな…全て悪徳商人が悪いんじゃない…」


魔王「父から魔王を継承した私は、もう二度と父のように悪徳商人に騙されて一家まとめて路頭にさまようなんてことのないようにするため、世界を支配することを誓ったのだ」


レンジ「じゃあ魔王が世界を支配しようとしていたのは…この世の悪徳商法を全てなくすために…」


魔王「そうだ」


レンジ「それだけのために…魔王になったなんて…」


薫「あなたは、可哀想な人…じゃなくて河童ね。そんなに悪徳商法を無くしたいなら、とりあえず署名活動とかでもしてコツコツやっていけばよかったのに…」


魔王「ふっ、当時の私にはそんな発想なんて無かったのさ」


薫「あなたにも理由があるのは分かった。でも、だからと言って魔王が許されるわけではない。私は勇者でお前は魔王…だから私達は戦う運命にあるんだ」


魔王「そうだな。勇者と魔王、この二人が対峙するのは古来からの定めだ」


薫「悲しい運命だ。お前とは、立場が違えば分かり合えたかもしれないのに…」


魔王「全くだ。戦いが終わった暁には、オシャレなカフェで一緒にお茶でもしたいものだ」


薫「オシャレなカフェはご遠慮願おうか。私的には安い居酒屋で一緒にイモ焼酎で乾杯するなら付き合ってやるぜ」


魔王「すまないが私は下戸でな。だからここはオシャレなカフェでゆったりとアールグレイでも囲もうじゃないか」


薫「勘弁してくれ、オシャレなカフェなんて私には女子力が足らなさ過ぎて蕁麻疹を発症しそうだ。だからここは安い居酒屋で…」


魔王「いや、やはりここはオシャレなカフェで…」


薫「いやいや、やっぱり安い居酒屋で…」


魔王「オシャレなカフェ」


薫「安い居酒屋」


魔王「オシャレなカフェ!!」


薫「安い居酒屋!!」


魔王「オシャレなカフェって言ってるだろうがああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


魔王がそう叫ぶと全身からどす黒い闇を吹き出し、辺りを闇へと染めた。


薫「安い居酒屋で十分だろうがああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


薫がそう叫ぶと薫の安い居酒屋を望む強い心に反応して、【河童の手】が輝きだした。


魔王「ウオオオオオ!!!!!勇者あああああああああ!!!!」


薫「いくぞおおおおおお!!!魔王ううううううう!!!!」


激しい叫び声をあげながらとうとう二人はぶつかった。


光と闇のぶつかり合い。魔王と勇者の逃れられぬ戦い。


かつてないほどの激しいエネルギー同士のぶつかり合いの影響なのか、大気は震え、大地は揺れ始めた。


レンジ「お姉ちゃああああああああん!!!!!!」


レンジが叫んだその瞬間、辺りはまばゆい光に包まれ、そして世界を包み込んだ。







数日後、まばゆいばかりに光り輝く大聖堂に勇者薫とレンジ、そして魔王の姿があった。


神父「魔王よ、汝は勇者薫を妻としてその生涯を共に暮らすことを誓いますか?」


魔王「はい、誓います」


レンジ「………」


神父「勇者薫よ、汝は魔王を夫としてその生涯を共に暮らすことを誓いますか?」


薫「はい、誓います」


レンジ「………」


神父「よろしい。では誓いのキスを…」


レンジ「いや!待って待って待って!!!!ちょっと待って!!!!」


神父の前にタキシードに身を包んだ魔王と、純白のドレスを身に纏ってその腕に掴まる薫の姿を目の前に、レンジは思わず待ったの声をかけた。


薫「そんなに慌ててどうしたんだ?」


レンジ「どうしたはこっちのセリフだよ!?これはなんなんだよ!?」


魔王「なにって…結婚式じゃないか、義弟よ」


レンジ「いやいやいやいや!!えっ!?なんで!?なにこれ!?どうしてこうなったの!?」


薫「どうしてって…話し合った結果、勇者と魔王が結婚すれば世界は平和に丸く収まるんじゃないかってなっただけだよ」


レンジ「いやいやいやいやいや!!!!えっ!?なにそれ!?バカなの!?」


薫「まぁ、なっちまったもんは仕方ないさ。そこでおとなしく見てなさい」


レンジ「いやいやいや!!!バカでしょ!?やっぱりバカでしょ!?」


薫「はっはっは、別にいいじゃないか。バカでも世界が平和になるならさ」


レンジ「いや、そうだけど!…そうだけど…」


レンジはやかましく騒ぐが、薫の言う通り、勇者と魔王ではなく夫と妻となった二人ならもはや争う必要も無く、世界には平穏が訪れる。


発想はバカだが、合理的な選択なのかもしれない…。少なくとも、こんなクズな自分には出来ない選択だ。


レンジがそんなことを考えていたその時、魔王と薫の前にいた神父が不気味に笑いだした。


神父「くっくっく、まさか魔王と勇者が結婚してしまうとは…全く予想だにしなかった」


魔王「神父様?」


神父「くっくっく、魔王ともあろうものが呑気なものだ。まだ私の正体に気がついていないというのか?」


魔王「正体?。そう言われれば…お前のその顔にどこかで見たような。…そうだ!思い出したぞ!お前はあの時、父を騙して魔神の鎌を高額で購入させた悪徳商人!!」


神父「くっくっく、今更気がついたか?。だが、時すでに遅し。この世の全ての商売を悪徳商法にする準備は整ってある」


神父がそう言うと、先ほどまで大聖堂にいたはずだったが、その大聖堂は唐突に綺麗さっぱり消え去り、代わりに空に吸引力の変わらないただ一つの掃除機の如く、全てを飲み込まんとする黒い渦のようなものが現れた。


神父「さあ!ブラックホールよ!この世の全ての良い相互利益の関係の商売を飲み込み、悪徳商法に変えてしまうのだ!!」


神父の声に呼応するように、黒い渦はあたりにある全てのものをダイソンし始めた。


神父「はっはっは!!こうなってしまえばもはや何者も止められまい!!」


神父は高笑いをすると空に漂う黒い渦の中にダイソンされた。


魔王「マズイ、早くあの渦をなんとかしなければ…」


薫「行こう。私たち二人ならきっとなんとか出来るはず」


二人は顔を見合わせて、頷いた。


レンジ「行っちゃうの!?お姉ちゃん!!」


薫「うん。だから、後のことは任せたよ」


レンジ「そんな!!無理だよ!!だって僕は…」


薫「大丈夫大丈夫、あんたなら出来るよ」


レンジ「そんなこと無い!!。だって僕はただのニートで…ただのクズでしかないんだよ!?そんなクズな僕に出来ることなんて…」


そう言うとレンジは顔を伏せた。


レンジ「誰がどれだけ僕に期待しているかは分からないけど、そんな期待に応える自信も能力も僕には無いんだ!!。余裕そうに見えたって、いつだってギリギリの崖っぷちに立たされてるんだ!!。そんな僕に期待されたって応えられないんだ!!。だって僕はニートだ…ただのニートだ。養われるしか能の無いクズなんだ!!」


幼い姿のレンジは涙ながらにそう語った。


期待ばかりがその背にのしかかり、今にも潰されそうな心で…それでも必死に平然を装って、強がりだけでなんとか今日まで生きてきて…。


余裕そうに見えても、本当は不安で仕方が無いその小さな少年の本音を垣間見た薫はニッコリと微笑んで、レンジの頭の上に手を置いて、その頭を優しく撫でながら口を開いた。








薫「まぁ、ニートがクズであることは否定出来ないよね」




レンジ「…そこは嘘でも慰めようよ、バカ姉」


薫「はっはっは、生憎だが私はお世辞とかは言えないからね」


レンジ「社会人にもなって世辞の一つも言えないバカな姉…」


薫「でも大丈夫さ…」


レンジ「どうして?」


薫「クズはクズでも、星屑なら輝けるからさ」


レンジ「星…屑?」


魔王「薫、そろそろ時間だ」


薫「悪いね、お姉ちゃんもう行かないと」


レンジ「待って…待ってよ!!お姉ちゃん!!」


レンジが薫を追いかけようとするが、薫は空に漂うブラックホールに吸い込まれるかのようにふわりと宙に舞い、手の届かないところまで上がってしまった。


レンジ「いやだ…行かないで…行かないで!!お姉ちゃん!!」


必死に手を伸ばすレンジだが、その幼い身体では姉のところまで届くことは決して無かった。


そんなレンジを見兼ねてか、薫はレンジの方を振り返り、親指を立てて最後にこう言った。


薫「後はお願いね…ニート」








ニート「お姉ちゃん!!」


ニートは姉を呼ぶ声と共に上半身を起こして目が覚めた。


しかし、辺りを見渡しても姉の姿は無い。


少しして寝ぼけた頭がようやくこの世にもう姉はいないという事実をニートに再認識させると同時に、ようやく先ほどまでの出来事が全部夢であったことにニートは気が付いた。


ニート「ははっ、バカみたいな夢だったな」


乾いた笑い声でニートはクスリと笑った。


ニート「ほんと…お姉ちゃんらしい、バカみたいな夢だった…」


そして姉がいないこの世界に少しずつ虚しさだけが込み上げてきた。


やがて積もる虚しさに我慢できなくなったニートはその場に再び仰向けに横になり、独り言を呟いた。


ニート「やっぱりお姉ちゃんはバカだな。星屑って…それじゃあ燃え尽きちゃうじゃん」


そして寂しくなったから、両目を腕で覆い隠し、誰にも見られないように少し…ほんの少しだけ…泣いた。

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