ヒーローを願う人達
前回のあらすじ
イケメンなんてこの世に存在しなかったんや。
…正直、この展開は賛否両論あると思う。
夜も更け、陽の光などはなく、月明かりだけがわずかに辺りを照らす部屋に、一人の少女が布団にくるまって固まっていた。
そんな少女に出会うがため、部屋に入って来たのは一人の人物。
普段見せている雰囲気とは違い、その人物は気品が溢れる立ち振舞と紳士的な声で少女に声をかけた。
シロたん「こんばんは、殺し屋です。あなたを殺しに来ました」
月夜に紛れて現れ、殺し屋を名乗るその死神は、紳士的に笑いながら死を届けにやって来て、そして続けてこんなことを言った。
シロたん「私にはターゲットが望む殺し方をしてあげるという殺しのポリシーがありまして…ですから、あなたの好みの死に方を教えてください。月宮さん…いや、JK」
そしてまた、紳士的に微笑んだ。
しかし、布団にくるまった少女は突然現れた殺し屋に反応することなく、殺し屋に背を向けて机に向かってなにかの作業に一心腐乱に没頭していた。
シロたん「…聞こえてますか?JK」
殺し屋の二度目の問いかけに、その少女はこんな言葉を返した。
少女「私の好みの死に方か…そうだな、やっぱり最後まで腐敗して死にたいね。もちろん…」
そして、被っていた布団をバサッと取り外し、その正体を露わにした。
腐女子「BLエロ同人に囲まれてね!!」
シロたん「お前は…腐女子!?」
姿を現したのはターゲットのカグヤではなく、腐活動に勤しんでいた腐女子であった。
シロたん「どうしてお前がここに!?」
腐女子「それはこっちのセリフですよ、先生。…いや、テイラーD!!」
その瞬間、部屋の明かりがパッと付き、シロたんの背後からニートと犯罪者が姿を現した。
ニート「初めまして、テイラーD。…いや、久しぶりと言うべきか?イケメン」
シロたん「…ふっ、どうやら僕は嵌められたようだね」
腐女子とニートと犯罪者に取り囲まれたシロたん…いや、イケメンは何かを観念するかのように目を閉じて、両手を上げて、降伏の意を示した。
犯罪者「何かの冗談だと思っていたが…まさか本当に女だったとは…」
ニート「あぁ、俺もまさかだったぜ。…そのくせにあだ名がイケメンとか皮肉だよな」
イケメン「言っておくけど、このあだ名を付けたのは君だからね」
ニート「そういえばそうだったな」
イケメン「でも不思議だね。よく白木美香がテイラーDだって分かったわね」
ニート「シロたんと会った時から既視感を感じていたからな。…ただ、まさかあのイケメンが女性だったとは思わなかったから、少し前までならあんたがテイラーDだとはまるで思わなかった。みんなで銭湯に行ったこともあるから、あんたが実は男という線も消えていたから、完璧に容疑者からは外れていたよ」
腐女子「あの温泉回って、物語上ではそんな意味もあったんだね」
イケメン「それで、どうして僕が…いや、テイラーDが女であると分かったんだい?」
ニート「ヒントはあんたのコードネームさ。最初は『tailor』と『D』の二つの言葉で成り立っているものかと思った。…だが、本当はそうじゃない。この前、アパレルと電話して知ったんだが、ファッション用語に『tailored』という言葉がある。意味は…紳士服仕立ての女性服。まさにイケメンを装っていたあんたにぴったりな言葉だよ。おそらくお前は性別の壁を超えてありとあらゆる人物に変装できるプロフェッショナルなんだろ?だからお前のコードネームの『テイラーD』はそういう意味を込めて『tailored』って単語から来てるんだろ?。そして『tailored』から『e』を取って『tailor D』。つまりこのコードネームはテイラーDが女性だってことを暗に示しているのさ」
イケメン「…なるほど、『tailor D』の秘密を見破ったってわけだね。…まさかニートに正体がバレるなんて、僕もまだまだだね」
犯罪者「なんでお前が…お前まで人殺しなんてことを…」
イケメン「大それた理由は無いよ。それでも、強いて言うならばその選択肢しか残っていなかったからかな」
犯罪者「だからって、カグヤまでその手にかけるつもりだったのか!?」
イケメン「それが命令だからね。組織の命令は絶対…任務が失敗すれば、僕は見せしめに殺される。それが嫌だっただけさ」
ニート「とりあえず…アレだ。島では仲間だったんだし、悪いようにはしねえよ。だから神妙にお縄についてくれねえかな?話はそれからゆっくりしようじゃないか」
イケメン「そうだね、僕の正体を見破ったことは褒めてあげるよう。でもね…僕を捕まえるにはまだまだほど遠いよ」
そう呟いたイケメンのスカートの裾からなにやら球体のようなものがポロリと落ちた。
その球体は地面に衝突するや否や、目を焼きつけるかのような強い光を放ち、ニート達の視力を一瞬にして奪ってしまった。
腐女子「キャッ!?」
ニート「ま、まぶちー!!」
犯罪者「くっ、閃光弾か!?」
光が消えた後もニート達はまともに目が見えず、その場をオロオロしていた。
ニート「くそっ、ニートに対して閃光弾とか容赦なさ過ぎだろ!!」
犯罪者「おい!二人とも無事か!?」
ニート「無事じゃねえ!全然目が見えねえ!」
しばらく二人は騒ぎまくっていたが、しばらくするとようやくぼんやりとだが目が見えて来た。
犯罪者「くっ…逃げられたか…」
目が見えるようになった犯罪者は辺りを見渡したが、イケメンの姿はなかった。
ニート「…あれ?腐女子はどこ行ったんだ?」
ニートが辺りをキョロキョロと見渡したが、腐女子の姿も見えなかった。
ニート「まさか…」
犯罪者「…攫われたな」
部屋に取り残された男達はしばらく放心してただただ立ち尽くしていた。
カグヤ「あ!おかえりなさい!」
闇夜に紛れ、腐女子と共に姿を晦ましたイケメンを追跡することは不可能と考えたニート達はとりあえずカグヤを匿っていた塩入家の発酵室に戻った。
カグヤ「みんな怪我はない!?イケメンさんはどうなったの!?腐女子の姿が見えないけど、なにかあったの!?」
自分を守るために危険を冒してイケメンと対峙していたニート達が心配で仕方がなかったカグヤはニートに顔を近づけて問い詰めてきた。
ニート「と、ととととととりあえず落ち着いて」
意外にもカグヤの顔が近かったので、少し顔を赤くして動揺するニート。こんな非常事態に何やってんだか…。
犯罪者「俺から事の顛末を話そう」
気恥ずかしさで顔を赤くして慌てふためき、使い物にならないニートに代わって犯罪者がカグヤに説明をした。
カグヤ「そんな…腐女子が攫われたなんて…」
犯罪者「すまない、全部俺のせいだ。俺が不甲斐ないばかりに…」
カグヤ「いや、犯罪者は悪くないよ。悪いのは私の方だ、そもそも私がいなければ…」
ニート「…やめようぜ、誰が悪いとかそういう話は」
ニートにも責任の一端はあるはずだが、自分のことは棚に上げてニートはそう言って話を逸らした。
カグヤ「でも…そもそもどうしてイケメンさんは殺し屋なんか…」
犯罪者「全くだ。人殺しなんて俺一人で十分なはずなのにな」
カグヤ「…っていうか、私も人のこと言えないか」
改めて状況を考えると、かつての島の仲間達の経歴は酷いものだ。9人中、3人が人を殺したことがあることになるのだから…。
ニート「…誰だって、殺したくて殺してるんじゃないんだ。みんなそれなりの理由と、それなりの同情の余地があるはずさ。今は許す許さないより、出来ることをやろう」
そう言うニートもかつては自分の姉を自分で殺してしまったんじゃないかと疑っていた時期があった。
だが、事実はそれとは少しだが違っており、最愛の姉を傷付けてしまったことにもそれなりに納得のできる理由があった。
…なにより、アレは彼の姉自身が望んだことだ。
だけどニートだってそれをまるで気にしていないわけではない。
彼だって彼なりの罪滅ぼしをしているのだ…今だって。
だからニートの言った言葉はどこか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
ニート「それでイケメンが殺し屋をやっている詳しい理由は分からなかったけど、『それしか選択肢がなかった』って言ってた」
犯罪者「少なくとも、望んで人を殺してるわけではないようだな」
ニート「…そういえば、任務が失敗した時は殺されるって言ってたっけ?」
カグヤ「…任務が失敗した時は殺される?。それって…私は死ななきゃイケメンさんが助からないってこと?」
ニート「………」
犯罪者「………」
カグヤの言葉に二人はなにも返事をすることができなかった。
任務の失敗は死…それは殺害のターゲットである感染者のカグヤを殺されなければ、今度はイケメンが殺されるということである。
カグヤか、イケメンか…命をかけた二者択一の選択を迫られていることに改めて気付かされ、二人ともかけるべき言葉が分からなかったからだ。
そういうわけで二人が押し黙っていると、カグヤがこんなことをボソッと口にした。
カグヤ「逆に言えば…私が死ねばイケメンさんは助かるのか…」
ニート「それはダメだ!!」
なにかを悟ってしまったようなカグヤの言葉にニートがすぐさま反論をする。
カグヤ「うん、そうだよね、それはダメだよね。でもさ、思っちゃうんだ…こんな私の命で誰かを助けられるならって…」
犯罪者「感染者は他にもいるはずなんだ。いまカグヤが死んだところで、結局は他の誰かが犠牲になることには変わりない」
カグヤ「…それもそうか」
ニート「腐女子のやつも無事だといいけど…」
犯罪者「いまのところは心配無い。おそらく腐女子を攫ったのは後々カグヤと交換するための人質として利用するためだろう。大切な人質をわざわざ粗末に扱わないさ」
ニート「だけど、相手は殺し屋だぞ?今頃どんな目にあってるか…」
カグヤ「それについてはきっと大丈夫だよ。だって…イケメンさんが好き好んで人を傷付ける人だったら、あの夏のあの島での出来事はきっと無かったよ」
カグヤの言った通り、もしイケメンが快楽的な殺人鬼であったならば、罪に取られることなく、合法的に人を殺すことが許されたあの島でデスゲームがデスゲーム(笑)になったはずが無い。
犯罪者「それもそうだな。島でのイケメンが嘘であれ本当であれ、あのデスゲーム(笑)の勝利はみんなで築き上げたものだ。それだけは揺るぎない事実だ」
ニート「確かにその通りだな。たった1ヶ月くらいの出来事だったけど、あいつは仲間だもんな」
犯罪者「さて、とりあえず今日はもう遅いから寝るとしよう。一応、交代で見張りを付けて用心して眠ろう」
こうして、3人は交代で見張りを付けて発酵室で寝ることになった。(ちなみにタケシはすでに寝てます)
一方、兎歩町のとある倉庫のような場所で腐女子は椅子に縛られ監禁されていた。
殺し屋に誘拐され、何の抵抗もできない状況に陥った腐女子。
腐っていること以外はいたって普通の女子高生であった彼女にとって、それはかつて無いほど追い詰められた絶体絶命の状況であった。
そんないつ殺されてもおかしくない危険な状況で、腐女子は覚悟を決めて殺し屋に向かって口を開いた。
腐女子「せんせー、トイレー」
シロたん「先生はトイレじゃありません」
まるで授業中にトイレに行きたくなった小学生のような呑気な発言をかます腐女子。
実際、彼女の膀胱は限りなく限界に近かった。
腐女子「先生、私はトイレに行きたいんです」
シロたん「悪いけど我慢してもらえるかしら?人質にはなるべくおとなしくしてもらって欲しいのよ」
腐女子「先生、トイレは生理現象なので我慢するにも限界はあると思います」
シロたん「…あなたは図太いのね。こんな状況になっても、まだ私のことを先生と呼ぶなんて」
腐女子「まぁ、それでも私にとって先生は先生だからね」
ニート達にとってはテイラーDは島で共に暮らしたイケメンとしての印象が強いであろうが、腐女子にとっては彼女は担任として、シロたんとしての印象の方が強かった。
そもそも腐女子はイケメンとしての彼女を知らないのだ。だから今でも彼女のことは先生と呼んでいるのだろう。
シロたん「ふふふ、傑作ね。まだ私のことを先生だなんて…」
腐女子「でも、裏切られたって感じるところもあるよ?。良い先生だと思ってたけど、それも全部演技だったって思うとさ…」
シロたん「そう?残念だったわね」
腐女子「ホント残念だよ。良い人だと思ったのにさ…」
シロたん「良い人も出来ないようじゃ、殺し屋なんて出来ないもの。殺し屋になるにあたって最初に教え込まれたことが良い人の振り、だもの」
腐女子「教え込まれたって誰に?」
シロたん「あなたには関係無いわ」
腐女子「そもそもなんで殺し屋なんてやってるのさ?」
シロたん「それもあなたには関係無い」
腐女子「カグヤは先生の仲間だったんでしょ?それなのに殺す気でいたの?」
シロたん「ターゲットが誰とか、そんなものは関係無いわ」
どこか投げやりな返答で、まるでわざと冷たい人間であると思わせるように答えるシロたん。
自分は平気で許されないことをやっていて、同情される余地など無い極悪人…腐女子にはまるでそう自分に言い聞かせるように聞こえるのだ。
だが、腐女子が知りたいのはその壁の内側にある本心。
腐女子「いや、私が聞きたいのはそうじゃなくて…なんて言えば良いのかな…」
なにか心の隙間を垣間見れるような質問は無いのか?。
そう考えた腐女子はシロたんに向かってこんな質問をぶつけた。
腐女子「人を殺すのは、楽しい?」
シロたん「………」
腐女子の唐突な質問に一瞬顔の表情が歪んだシロたんはなにも言い返すことが出来なかった。
腐女子「やっぱり、好きでやってるわけでは無いんだね」
シロたんの反応から無言の否定を感じた腐女子は続け様に口を開いた。
腐女子「好きで人を殺してるわけじゃ無くて、何か理由があって仕方無く人を殺す」
シロたん「…黙りなさい」
腐女子「望んでやっていることでは無い、だけど人殺しなんて許されないことだから、自分に救われる資格なんて無い、同情される資格なんて無い、助けを請う資格など無い」
シロたん「黙りなさい」
腐女子「ただただ感情を押し殺し、無機質に、平気なフリして人を殺そうとする。本当は…助けてって心が叫んでるくせに…」
シロたん「黙りなさい!!」
腐女子の言葉をかき消すかのように感情をむき出しにしてシロたんは恫喝した。
シロたん「分かったような口を聞かないで。あなたに何がわかるっていうの?」
腐女子「別に分かり合いたいわけじゃない。ただそんなあなたを助けたいって思うだけだよ」
シロたん「助けたい?笑わせないで。あなたごときが私を助けられるとでも思ってるの!?ただの一女子高生なだけのあなたに一体何が出来るって言うのさ?」
腐女子「…び、BL同人を書くくらいのことなら…」
助けたいとは思っていても、所詮はただの腐女子である彼女に出来ることなど何も無かった腐女子は申し訳なさそうにそう答えた。
シロたん「…所詮は口先だけなのね」
腐女子「も、申し訳ない」
シロたん「別に期待してたわけじゃないから構わないわ。どうせ私を助けることなんて誰にも出来ないのだから。だって…私にはヒーローなんていないんだもの」
そう呟く彼女の潤んだ瞳は、どこか寂しそうだった。
そんな彼女を目の前に無力な腐女子は思ってしまった。
『私では、決してヒーローになんてなれない』と…。
一方、こちらは腐女子の家である塩入家。
腐女子が不在であるにもかかわらず、その関係者が好き勝手に出入りしていることに塩入家の父はいささか疑問を感じていることはさて置き、その家の前で見張りをしているニートがいた。
ニート「さすがに夜は冷えるな…」
もう10月も中旬を過ぎ、少しずつだけ冬へと近づく秋の夜は冷えていた。
そんな寒夜にニートが一人で見張りをしていると、玄関からカグヤが姿を現した。
カグヤ「見張りお疲れ様、レンジ」
ニート「あれ?どうしたの?」
カグヤ「なんか眠れなくてさ…」
ニート「そっか…」
カグヤ「隣、座っていいかな?」
ニート「い、いいけど…」
ニートの了解を得たカグヤはニートの隣に座り込んだ。
秋のカラッとした空に輝く星が二人を見守るように散らばる夜に二人は並んで座ってしばらく何を言うでもなく黙っていた。
ニートが思っていたよりも近いところにカグヤが腰を下ろしたため、時々当たる肩から体温が伝わってきた。
人気のない夜、満天の星空、並んで座る若い男女。
『これはラブコメですね、間違いない』と、誰もが思ってしまうような雰囲気の中、ここでようやくカグヤが口を開いた。
カグヤ「腐女子、大丈夫かな…」
ニート「なんやかんや頼りになるやつだからさ、きっと大丈夫だよ」
カグヤ「…そうだよね、腐女子は頼りになるもんね」
ニート「うん、あいつなら問題ないだろ、上手くやってくれるさ」
カグヤ「ねぇ、レンジはさ…どうするつもりなの?」
ニート「なにが?」
カグヤ「私かイケメンさん、どちらかしか助けられないってなったら、どうするの?」
ニート「それは…分かんないよ」
カグヤ「私もイケメンさんも…どちらも救う方法って無いのかな…」
ニート「どうなんだろうね」
カグヤ「レンジなら、なんとかできたりしないかな?」
ニート「なんで俺が?」
カグヤ「だって…レンジは私にとってヒーローなんだもん」
ニート「ヒーローって言っても、そんなの昔の話だろ?」
カグヤ「そんな事ないよ!いつだってレンジは私にとってのヒーローだったよ!」
ニート「そんな期待しないでくれよ」
カグヤ「お願い!レンジなら…レンジならきっと!!」
何かを期待した眼差しでカグヤはニートを見つめた。
そんなカグヤの眼差しに…背にのしかかる期待に耐えきれなくなったニートはカグヤの瞳から視線をそらしてこう言った。
ニート「あんまり期待しないでくれよ。俺は所詮、クズニートなんだから…」
カグヤ「…ゴメン、そうだよね」
ニートの返答に一瞬、落胆したような表情をカグヤは見せた。
カグヤ「私、ヒーローに甘え過ぎてたかもしれないね。少しくらい自立して、自分の力でなんとかしなきゃいけないよね。私も何かできる事をやらなきゃいけないよね」
そう言うとカグヤはその場を立ち上がった。
ニート「…カグヤ?」
カグヤ「見張り、今度は私がするよ」
ニート「え?。いや、狙われてるカグヤが見張りをするのはちょっと…」
カグヤ「大丈夫、私にだってこれくらい出来るよ!。いざとなれば大声出して助けを呼ぶからさ!」
そう言うとカグヤはニートの背中を押して、ニートを無理やり家の中に押し入れようとした。
ニート「ちょ、カグヤ!?」
カグヤ「いいからいいから、ニートは明日に備えてゆっくり寝てて」
ニート「本当に一人で大丈夫なのか!?」
カグヤ「大丈夫、大丈夫」
ようやくニートを玄関に押し込めたカグヤは玄関の扉を閉めつつ、最後にニートにこう告げた。
カグヤ「おやすみ、レンジ」
そして、扉はバタリと閉められた。
無事にニートを家に押し込めたカグヤはその後、自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。
カグヤ「…大丈夫。ヒーローがいなくても大丈夫」
そして、一人で夜の町へと消えていった。
一方、発酵室に戻ったニートは寝床に横になって考え事をしていた。
カグヤかイケメンか。
選びようもない二者択一の選択を目の前に、考えても考えても途方にくれるばかりであった。
結局自分はなにもできない無力なクズニートでしかなくて、こんなものを自分でどうにかしようだなんておこがましい事で…。
誰かがどうにかしてくれたら…結局はそんなどうしようもない事を願うしか出来なかった。
誰かもっと頼りになる人はいないかと考えていると、ふと姉の顔が浮かんできた。
バカな姉ではあったが、彼女がいればなんとかなると思ってしまうほどニートにとっては頼りになる存在であった。
『すべてを茶番に変える』
そんな姉とした最後の約束をニートは思い出し、そして一言呟いた。
ニート「やっぱり、俺には荷が重すぎるよ、お姉ちゃん」
そして、考えも行き詰まり、なにも思いつく事なく、重たい瞼を閉じた。




