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つまり末永く養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
学園じゃないラブコメ編
30/57

あの人の笑顔と泣き顔と…

前回のあらすじ


とうとう念願の感染者を発見してしまった。…タケシ?知らない子ですね。

腐女子「…カグヤが…CBKSの感染者?」


ニート「まだ確証は無いが…おそらくは…」


腐女子「しかも12年前から感染者してたってことは…他にも感染者が…」


ニート「可能性はある。だが、カグヤが人を襲ったことがあるのは聞いた限りでは父親だけだ。それ以来、カグヤは人を避けて一人で生きて来た。だから感染者がいたとしてもそんなに多くは無いはずだ」


腐女子「そっか…カグヤも本能でわかってたんだね、人と関わってはいけないって。だから引きこもってたのか…。だったら悪いことしたかもな」


人と関わらずに引きこもることを覚悟していたカグヤを無理やり外に出した張本人である腐女子は多少の罪悪感を感じているようだ。


田中「…今思えば、島でのデスゲームで月宮カグヤが最初に出会ったのがニートだったことは大きな分岐点だったのだろうな。もし出会ったのが他のプレイヤーだったら…あのデスゲームはもっと違った結果になっていたかもしれん」


ニート「実はギリギリの綱渡りをしてたってことだな…」


腐女子「でも、カグヤが感染者ってことは…カグヤの病気をなんとかすれば兎歩町は救われるってこと?」


田中「いや、政府が兎歩町を封鎖しているのはまた別の感染者が兎歩町に逃げ込んだからだ。今回の月宮カグヤの感染者である可能性の発覚は偶然に過ぎない。だから、カグヤの他にも少なくとももう一人は感染者がいるはずだ」


ニート「とにかく、まずはカグヤが他に感染させた奴がいないかを確認しよう」


腐女子「そうだね、まずはカグヤに話を聞こう」






カグヤの病室に戻ったニートと腐女子。そんな二人を不思議そうに見つめるカグヤ。


カグヤ「あれ?どうしたの?お見舞い?」


田中「久しぶりだな、JK。…いや、いまは月宮カグヤと呼ばせてもらおう」


ニートが手にしていた携帯から田中さんの声が漏れてきた。


カグヤ「もしかしてその声…田中さん!?。うわぁ!久しぶりだね!」


楽しい仲良しかわいそうの田中さんとの電話越しの再会に歓喜の声をかけるカグヤ。しかし、その笑顔にはどこか無理しているようにも見えた。


そんなカグヤを目の当たりにしてニート達は思わずうかない顔をしてしまった。、


カグヤ「…二人とも、どうかしたの?」


ただならぬ雰囲気に不思議そうに声をかけるカグヤ。そんなカグヤにこの事実をどこまで明かすべきなのか…。全てを知ってしまったら町の封鎖に関わる感染者としての責任を感じて重荷になってしまわないか…。


そういうことを考えて話すことをためらってしまったニートは隣にいた腐女子の方を見てアイコンタクトを図る。


ニートが感じている不安を察した腐女子は何も言わずにニートの目を見ながらただ黙って頷いた。

腐女子の頷きによる後押しを得たニートは満を持して口を開いた。


ニート「カグヤ、聞いて欲しい話がある」


腐女子「ちょっと洒落にならない話だけど…落ち着いて聞いて欲しい」


カグヤ「…うん、わかった。


ニートと腐女子と徹夜5日目の田中さんによる長い説明が始まった。


人に感染する精神病CBKS、そのパンデミックを防ぐための兎歩町の封鎖、12年前に兎歩町で起きた通り魔事件、それによるカグヤの感染の可能性、そして…カグヤが父親を殺した事件にそれが関与したという可能性。


真剣な表情で明かされる驚愕の事実を、カグヤはただただ黙って聞いていた。


そして、一通り話が済んだあと、ずっと口を閉ざしていたカグヤの口が開かれた。


カグヤ「…いまの話、本当なの?」


ニート「…あぁ」


カグヤ「…だよね、やっぱり嘘でしたとはならないよね…」


こんな突拍子の無い事実の連続にさすがのカグヤも動揺してしまったのか、そのあとはしばらく黙って病室の窓から外を眺めていた。


ニート達もどう声をかけてよいか分からず、その行く末を見守るしかなかった。


カグヤ「あはは…私、ただのトラブルメーカーだね。みんなに迷惑かけてばっかりだ…」


居た堪れないくらい力の無い笑顔を引きつらせてカグヤはそう言った。


ニート「違う!そんなつもりで言ったわけじゃ…」


カグヤ「うん、分かってる。私だって自分としっかり向き合いたいから、教えてくれて良かったよ」


腐女子「でも…」


カグヤ「いいのいいの。それに…こんなこと言うのもなんだけど、正直言うと少しだけ気が楽になったんだ」


ニート「気が楽に?」


カグヤ「うん。私があの時お父さんを殺してしまったのは…なにも私だけが悪いんじゃ無いんだって分かったから。…でも、だからと言って許されることではないよね」


そう言ってまた笑顔を引きつらせるカグヤ。そんなカグヤを見かねた腐女子がこんな言葉をかけた。


腐女子「過ぎたことをクヨクヨしても仕方ない…なんて、言うのは簡単なんだけどね」


カグヤ「………」


腐女子「確かにカグヤのしたことはいかなる理由があったとはいえど、簡単に許せるようなことでは無いと思う。だからと言って、カグヤが嬉しい時に笑って、辛い時に泣いて…そういう当たり前のことを放棄する義務は無いと思う。だから、辛かったら泣いてもいいと思う」


カグヤ「…うん、ありがと。でも、やっぱり私は…」


腐女子「あぁ!もう!焦れったいなぁ!」


腐女子はカグヤの言葉を遮るようにジレンマを口にし、その場から立ち上がり、親指を立てて自分のことを指差しながら堂々と、勇ましくこう宣言した。


腐女子「私が許す!泣け!」


理論と理屈をねじ伏せるかのような腐女子の男勝りな発言に思わず涙腺が緩んでしまったのか、カグヤは両目からポロポロと涙を流し始めた。


そして腐女子の意外と大きな胸に顔を埋め、ワンワンと泣き出した。


この涙は当然と言えば当然なのだろう。たった10代半ばの女の子が一人で抱えるには重すぎる過去と事実がカグヤの背にはのしかかっていたのだから。


ようやく解き放たれたその荷はよほど重かったのだろう、カグヤは腐女子の胸の中でずっと泣き続けていた。


自分を愛してくれた父と母への愛情と感謝と懺悔の言葉を何度もこぼし、いまの自分に課せられた運命と因縁と宿命に辛酸の言葉を投げかけた。


そんなカグヤをただ抱きしめて、何度も頷き慰める腐女子。…そしてなにをするでもなく居場所と目のやりどころに困り一人で勝手にソワソワしているニート。


そんなニートに携帯から田中さんが声をかけてきた。


田中「電話越しだから、いまの状況を音声でしか判断できていないのだが…カグヤを慰めるのはお前の役目じゃないのか?」


ニート「別に、カグヤがそれでいいなら誰でもいいだろ。…別に俺じゃなくても」


田中「まぁ、確かに…女を泣かせられるほどの器量がお前にあるとは思えないしな」


ニート「そこは慰めるところだろ。終いには泣くぞ、コラ」


結局、カグヤが泣き疲れて眠るまでニートは隅で固まってるだけだったとさ。







シロたん「月宮さん、元気?」


カグヤが泣き疲れて寝付いた頃、頃合いを見計らったかのように病室にはシロたんが入って来た。


ニート「アレ?なんでシロたんがここに?」


シロたん「月宮さんが入院したって聞いたからさ…お見舞いに来たの」


ニート「それは…わざわざご苦労様」


シロたん「まだ赴任して1ヶ月くらいだけど、一応担任だからね。生徒の様子が心配で学校が始まる前に来ちゃった」


腐女子「でも残念ながら、カグヤは今寝ちゃったところだから…」


シロたん「そっかそっか、いいのいいの、別に様子を見に来ただけだからさ。…お花だけ添えさせてもらうね」


そう言って花と花瓶をカグヤのベットの窓辺に飾った。


シロたん「もうすぐ学校に行かなきゃいけないし…無駄足になっちゃったかな。二人はこれから学校に行くの?」


腐女子「あー…学校かぁ…。正直、今ってそれどころじゃ無いんだよねぇ」


ニート「それに…昨日のことがあるから、俺はもうあそこに居場所は無いしな」


全生徒から信頼されていた前生徒会長の陰謀を阻止してしまったニートはそのことで恨みを買っているんじゃ無いかと心配をしていた。


シロたん「話は聞いたけど、なんだか色々あったみたいだね。でも、恨みとかそういうのは多分大丈夫だと思うよ。でも、いろいろあってゴタゴタしてるし、今日くらいは休んでいいんじゃない?…担任がこんなこというのもなんだけどさ」


ニート「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」


腐女子「私も、今日はサボります」


シロたん「はいはい、二人とも今日は欠席と…。それじゃあ、月宮さんのことお願いね」


それだけ言うと、時間が無かったのか、シロたんはそそくさと病室から出て行ってしまった。


それを見送った後、ニートはボソリと口を開いた。


ニート「学校、か…」


腐女子「どうしたの?」


ニート「いや、そもそも俺は学校に行くのは文化祭までってパツキンと約束してたからさ…もう行く必要はないんだよね」


腐女子「じゃあ、もう学校に行くのはやめるの?」


ニート「ちょっとやるべきことが出来ちゃったからな。しばらくは休学ってことで」


腐女子「休学ってことは…戻る気はあるんだね」


ニート「まぁな。少なくとも…引きこもってるよりは楽しかったし」


腐女子「せやな」


ニート「腐女子はどうするんだ?」


腐女子「私もあんたのやるべきことに付き合うよ。カグヤのことは責任取るって約束しちゃったし、それにニートとカグヤが学校にいなかったら、私学校に友達いなくなっちゃうし」


ニート「寂しいやつだなぁ」


腐女子「なかなか趣味の合うやつがいなくてね…。それでも友達作るってなると、まずは布教作業から始めなきゃいけないし…」


ニート「それは布教作業じゃなくて腐教作業の間違いだろ」


腐女子「なかなか上手いことをおっしゃる。まぁ、自宅はまだしも、学校まで腐海に沈めるわけにはいかないからね。友達も作れないし、とりあえずニート達の手伝いをするさ」


ニート「そうか…正直、腐女子が一緒だと心強いわ」


腐女子「おいおい、なにを期待してるか知らないが、私はただの腐った一般人だからな?。出来ることなんて高が知れてるぞ?」


ニート「それでもさ…カグヤを泣かせてくれたのは腐女子だからさ」


腐女子「まぁ…カグヤを泣かせるのはこれで二回目だからね。このくらいお手の物よ」


ニート「女泣かせはお手の物か…」


腐女子「言い方が酷いな」


ニート「とにかく…俺にはカグヤを泣かせられなかったからさ、腐女子がいるのは心強いよ」


腐女子「まぁ、カグヤを泣かすのは私の仕事みたいなもんだからさ。…でも、カグヤを笑わせるのはニートの役目だからね」


ニート「…自信無いわ」


腐女子「自信を持て、お前は存在自体が茶番みたいなもんだから大丈夫だ」


ニート「…それ、以前に7歳児にも言われたことがあるわ」


田中「話し込んでる最中に割り込んで悪いが…」


ニートと腐女子がダラダラと会話している間、通話が続いているにもかかわらず終始無視されっぱなしだった田中さんがここでようやく口を開いた。


ニート「…嘘だろ?。まだ通話中だったのか?」


田中「そのうち気がつくだろうとタカをくくっていたが…まさか2時間も通話中のまま放置されるとは…」


ニート「2時間も待ってくれてるなんて…なんて親切な暇人なんだ…」


田中「暇人じゃねえよ、こっちは徹夜5日目で一瞬でも気を抜いたら卒倒しそうなくらい忙しいんだよ」


腐女子「そんな疲労困憊状態の中で2時間も待ってくれてる辺りに良い人って感じが滲み出てる…」


田中「それで…感染者の月宮カグヤの保護にあたってだが…2つほど気をつけることがある」


ニート「なんだ?」


田中「一つは…CBKSをうつされないこと。ミイラ取りがミイラになるなんてよく言われることだしな」


ニート「うん、それは気をつけるよ。…もう一つは?」


田中「二つ目は…カグヤの命を狙う存在がいるということだ」


ニート「カグヤの命を狙う存在?一体なんのことだ?」


田中「兎歩町に広まりつつある感染を止めるために、政府から感染者の撲滅を命じられた殺し屋がいるだろ?」


ニート「…なるほど、『テイラーD』のことか?」


田中「そう、月宮カグヤを守るには…やつに真っ向から立ち向かう必要がある。やつに…そう、お前がかつて島で共に過ごした仲間であるイケメンにな」


おまけ


田中さんを未だによく知らない腐女子の疑問。




腐女子「徹夜5日目の疲労困憊状態で2時間も待ってくれてるあたり、田中さんってめっちゃ良い人だね」


ニート「そりゃあ我らが田中さんですから」


腐女子「そういえばさ、田中さんって結局どういう関係で知り合った人なの?」


ニート「島でデスゲームをやってた時にゲームマスターをしてたのが田中さんだよ」


腐女子「デスゲームのゲームマスター…あっ」


なにかを察してしまった腐女子であった。

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