兎歩に生きる人達 中の下編
前回のあらすじ
お化け屋敷を目の前に怖がるニート。
ミニスカサンタでお化け屋敷に挑むニート。
…これはポロリもありますね、はい。
人物紹介
萩山レンジ(ニート) クズニート。現在はミニスカサンタ。
月宮カグヤ たぶんヒロイン。現在はメイド服。
塩入凪沙 保護者。同じくメイド服。
タケシ ふっふっふ、いままで黙っていたけど、実はやつは感染者だったのだよ。
水島 下ネタしか話せない不憫な美少女。
そこは昼間の校舎にはあるまじき光を閉ざされた異世界。
窓から溢れる日光は遮られ、足元を照らす程度にしか無い薄暗い照明と不協和音で構成された奇怪な音楽によっていまにもなにか出そうな雰囲気を醸し出す。
そんな薄暗く、細長い道のりを二人は少しずつ歩いて行く。
ニート「ヤダヤダヤダ!!!怖い怖い怖い!!!」
あまりの恐怖にカグヤの腕をがっしりと掴むニート。
カグヤ「レンジ、歩きにくいよ」
腕をがっしりと掴まれて少し恥ずかしそうなカグヤ。
男女二人でお化け屋敷に入り、片方がもう片方の腕をがっしりと掴むというコテコテの典型的なカップルをやっている二人。…え?なんかおかしいところある?。
そんな二人がおずおずと歩いていると、前方に何やら四角い物が吊るされているのが見えた。
薄暗くてその正体はよく分からなかったが、触ってみるとひんやりとしていてそれでいて弾力感があったことから、その正体がコンニャクであることがわかった。
カグヤ「これ、コンニャクだね」
ニート「いやああああああ!!!!コンニャクゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
カグヤ「…え?そこビビるところ?」
道端にコンニャクが吊るされていたことにかつて無い恐怖を感じたニートは膝から崩れ落ち、地面にペタンと女の子座りで座り込んでしまった。…ちなみに彼の格好はミニスカサンタだ。
カグヤ「…え?道端にコンニャクが吊るされていただけでこれ?」
ニート「うぅ…失禁しそう」
カグヤ「やめてよ、コンニャクで失禁されたら後が怖いよ」
ニート「やっぱり帰ろうよ!ねぇ!お願いだから帰ろうよ!」
ニートは女の子座りのままカグヤのメイド服のスカートの裾を引っ張った。
可愛い女の子がそれをやるなら絵になるだろうが…なぜそれをやるのがクズニートなのか…これが分からない。
カグヤ「ちょっと…まだコンニャクだよ?。普段食べ親しんでるものだよ?」
ニート「無理無理無理無理!!!!もう金輪際コンニャクとか食えない!!!!」
カグヤ「えぇ…」
あまりのビビリっぷりに呆れてドン引きするカグヤ。
そんな風にカグヤが頑張ってニートを励ましていると、ペチッという音と共にカグヤの頬になにかひんやりとして弾力があるものが当たった。
カグヤ「え?なに?。…コンニャク?なんで?」
突然現れた二つ目のコンニャクに困惑していると、どこからともなく無数のコンニャクが現れてカグヤの顔面をペチペチし始めた。…あと、どうでも良いけど『コンニャクに困惑』って語呂が良いよね。
カグヤ「え?なにこれ?コンニャク臭!」
無数のコンニャクに顔面レイプされているカグヤを尻目に、ニートは無数のコンニャクにたまらずその場を逃げ出した。
ニート「コンニャクなんてイヤアアアアアアアアアアア!!!!!」
カグヤ「え?レンジ!?ちょっと待ってよ!…コンニャク臭!」
1コンニャクで失禁寸前までビビってたんだから、無数のコンニャクだったらそりゃあこうなるよね。
少し進んだところで少し冷静になったニートを捕まえたカグヤ。
カグヤ「大丈夫?レンジ」
ニート「無理、もう無理、もうコンニャクとか食えない」
カグヤ「焼きそばに続いてコンニャクまでトラウマになるとは…」
トラウマを増やしていくニートを心配しているとカグヤの頬になにかひんやりとしていてしっとりとした弾力のあるものがペチッっと当たった。
カグヤ「え?今度はなに?」
カグヤがその正体を確かめるため、指でそれを触ると感触からそれがハンペンであることが分かった。
カグヤ「…今度はハンペンだ」
ニート「イヤアアアアアアアアアアア!!!!!ハンペンイヤアアアアアアアアアアア!!!!!」
暗闇から突然現れたハンペンに心底ビビリ、あまりの恐怖に再び逃げ出すニート。
カグヤ「えぇ…またなの…」
ハンペンに恐れ慄くニートに呆れながらもカグヤはニートを追いかけた。
そして先陣切るニートの頬になにかひんやりとしていてしっとりとした弾力があるものがペチッと当たった。
恐る恐る指で触ってその正体を確かめたニートはそれがガンモであることが分かった。
ニート「イヤアアアアアアアアアアア!!!!!ガンモイヤアアアアアアアアアアア!!!!!」
突然のガンモにたまらず逃げ出すニート。そんなニートの頬に今度はチクワがペチッっと当たった。
ニート「イヤアアアアアアアアアアア!!!!!チクワイヤアアアアアアアアアアア!!!!!」
そんな光景を後ろから見ていたカグヤは『このままではレンジがおでんで卵と大根しか食べられなくなる』ということを危惧し、急いで追いかけ始めた。
…っていうか、このお化け屋敷は食べ物しか出て来ないのか。
ようやくカグヤがニートに追いつくとニートは涙を流しながら地面に打ちひしがれていた。
カグヤ「…大丈夫?」
ニート「もう無理、もうおでん食べられない」
カグヤ「…ご愁傷様です」
ニート「…昔からこうだったよな」
カグヤ「どうしたの?」
ニート「カグヤとお化け屋敷に来たら、毎回毎回俺が一人で怖がって、カグヤがそれを笑っててさ…」
カグヤ「うん、記憶は無いけど、そんな気はする」
ニート「カグヤは怖くないのか?」
カグヤ「うん、怖くないよ…レンジがいるから」
そう言ってカグヤはにっこりと微笑みかけた。
そんな感じで一息ついた二人に、新たなる試練が襲いかかる。
どこからか暗闇に紛れてボソボソとなにかをつぶやく女性の声が聞こえてくるのだ。
ゆっくりと時間をかけ、徐々に近づいて来て大きくなる声に思わずニートは戦慄し、固まってしまった。
「チ…チ…」
少しずつハッキリと聞こえてくる声とゆっくりだが確実に迫り来る見えない脅威は暗闇からぼんやりとその姿が垣間見えた。
それは白い衣装を身にまとった髪の長い女性。暗闇と髪で隠れた顔がその恐怖をさらに掻き立てる。
一歩一歩迫る恐怖の根源から目が離せなくなり動けないニートはここでようやくその正体に気が付いた。
そして、いままでボソボソと聞こえていたその声がいま…ハッキリと聞こえたのだ。
水島「チンチン…」
そう、彼女は生徒会会計の水島さんである。
小学生が好き好んで言いそうな下品な単語しか話せない水島さんは『チンチン』を連呼して着実に近づいて来るのだ。
普段はおしとやかで美人な彼女だが、白い衣装を身にまとったその異形の姿は某有名映画のアレにソックリであった。
やがて、ニート達との距離が6チンチンくらいにまで近づいたところで水島さんはその動きをピタリと止めた。
『いったいどうしたんだ?』と、しばらく二人が不思議に思っているじっと見ていると水島さんは『チンチン』を連呼しながら急に猛ダッシュでこちらに近づいて来たのである。
水島「チンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチン」
暗闇で『チンチン』を連呼しながら襲いかかるという字面だけでもアウトな水島さんにニートはただただ恐怖し、カグヤの手を握って猛ダッシュで逃げ出した。
カグヤ「ちょっ…レンジ!?」
急なことに驚くカグヤ。
水島「チンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチン」
しかし、後ろから迫り来る脅威でそれどころではないニートは逃げることに全力を注いで聞く耳を持ってなかった。
一心不乱に逃げ出すニート、追いかける水島さん…そんな二人の間でカグヤは『チンチン』の声に紛れてこのシュールな絵面にただただ笑っていたとさ。
一方、こちらはいろいろあって二人でお化け屋敷にやって来た腐女子とタケシ。
二人は入り口付近のコンニャクペチペチの嵐にあっていた。
腐女子「臭っ!!コンニャク臭っ!!」
タケシ「サナエェ…サナエェ…」
二人がコンニャクに打ちひしがれていると今度はすかさずハンペンが襲いかかってきた。
腐女子「え!?なに!?今度はハンペン!?」
タケシ「サナエェ…サナエェ…」
さらにガンモによる追撃が加わる。
腐女子「ガンモォォォォ!!!!」
タケシ「サナエェ…サナエェ…」
最後になけなしのチクワ。
腐女子「このお化け屋敷一体何なんだよ!?食いモンばっかじゃねえか!!」
タケシ「サナエェ…サナエェ…」
怒涛のフードアタックを乗り越えた二人の耳に今度は例の女性の声が聞こえて来た。
水島「チンチン…チンチン…」
心なしか息が切れているように聞こえるその声の主は徐々に、二人の方に距離を詰めていく。
暗闇に紛れて見えないところから聞こえてくる水島さんの声にほんの少しばかり不気味さを感じる腐女子。度重なるフードペチペチアタックによって少しずつ恐怖を募らすタケシ。
足取りを止めることなく着実に近づいてくる水島さんを目の前に、突然タケシはその場に座り込んで頭を抱えて叫びだした。
タケシ「サナエ!サナエ!」
まるでなにかを拒絶するように頭を抱えて『サナエ』を繰り返すタケシ。そんなタケシを見た腐女子は心配になり、『大丈夫か?』と声をかける。
しかし、それでも止まることを知らない水島さんにとうとうタケシの恐怖が限界を超えた。
タケシの脳裏に浮かぶのはかつて受けた死への恐怖。薄暗い病室である一人の女性によって与えられたあの日のトラウマ。
『死にたくない、死にたくない』と頭の中で何度も何度も反芻し、迫り来る死を拒絶する。
自己の命を案じ、己を守るための防衛本能が過剰に反応したその脳はやがてそのための術を結論付ける。
『ヤラナキャ…ヤラレル』
死を退けるために頭を支配したたった一つの結論は…生きるために相手を殺すというものだった。
抗いようのない強力な防衛本能に身体を牛耳られたタケシはゆっくりと立ち上がり、迫り来る死の恐怖に向き合う。
腐女子「…タケシ?」
タケシからかつてない殺気を感じ取った腐女子は不安そうにタケシにそう語りかける。
しかし、もはや聞く耳を失ってしまったタケシは怒号のような叫び声をあげ、全力で死の恐怖の根源に向かって猛獣の如く駆け出した。
人間にはあるまじき人智を超えたスピードで水島さんへと迫るタケシは途中で固く握り締めた拳を振り上げ、そして…
直前のところで盛大に素っ転び、頭から強烈に地面を打ち付け気絶した。
腐女子「…え?」
水島「チンチン?」
突然に叫び声をあげ、突然に走り出し、突然に素っ転び、突然に気絶したタケシに対して、腐女子と水島さんはただただ唖然とするしか出来なかった。
腐女子「とりあえず、保健室に運ぶの手伝ってもらっていい?」
水島「チンチン」
水島さんは親指を立ててグーサインを返したとさ。
補足
ちなみにだが、タケシが人を襲おうとしたのはこれで4回目である。
全部失敗で終わってるけどね。
…もうこれ、解決する必要ないんじゃないかな?




