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兎歩に生きる人達 中の中編…だと思う。

前回のあらすじ


そういえば久しぶりの登場だったね、田中さん。




説明が必要そうな登場人物紹介。


一ノ瀬 生徒会会計補佐。期待の一年。


モブ島 モブ。


モブ山 モブ。


焼きそば店員 鉄板のような熱い心を持ち、焼きそばに命を賭けるモブ。


タケシ モブ。…え?感染者?。ちょっと何言ってるか分からないです。


ニート「焼きそば一つください」


焼きそば店員「お前は…」


焼きそば店員2「まさか、もうトラウマを克服したというのか!?」


焼きそば店員3「バカな…早過ぎる…」


腐女子から軍資金を受け取ったニートは食べ物にありつくために先ほどの焼きそば屋に戻って来ていた。


ニート「御託はいいから、さっさと焼きそばくれよ」


焼きそば店員「ふっ、どんなトラウマも愛があれば乗り越えられるってことか…」


焼きそば店員2「ふっ、妬けるねぇ、お二人さん。まるでこの鉄板みたいだ」


焼きそば店員3「ふっ、勝利の祝いだ、焼きそば持ってけ」


こうして、ニートは無事に焼きそばを手に入れた。


カグヤ「焼きそばはトラウマがあるんじゃなかったの?」


ニート「あぁ、アレね。よく考えたら焼きそばに溺れるとかありえないって気が付いたわ」


カグヤ「…う、うん、それもそうだね」


過去のトラウマを金の力で乗り越えたニートにとってもはや焼きそばなど恐るるに足らなかった。


隠れて二人の様子を観察していた腐女子もこの時は安心して見守ることが出来た。


しかし、安心もつかの間、神は次なる試練を二人に与えたのだ。


カグヤ「あ、これ…割り箸が一個しかない…」


そう、あの焼きそば店員どもが割り箸を二つ入れるのを忘れていたのである。


一つの割り箸で二人の人間が焼きそばを食べる…別にこれは不可能なことではない。だが、それにはどうしても避けられない見える地雷が仕掛けられていた。


そう、間接キスである。


それは気にしない人は気にしないが、気にする人は気にする曖昧で複雑な事変。


まだ微妙で繊細な関係の二人にとって、その気まずさは計り知れない。


もちろん、二人とも嫌というわけではない。ニートに至ってはむしろ望むべき展開と言っても過言ではないだろう。


しかしだ、『自分は良くても相手は気にしないのか?』という感情が二人が焼きそばへと伸ばす手の動きを止める。


かといって、『間接キスになるけど大丈夫?』などと聞いてしまうことは、『自分はそのことを意識してますよ』ということがバレてしまいかねない。そしてそれはなんとなく気恥ずかしい。


気にしても気にしなくても、先に動くのは不利。相手に聞こうが聞かまいが、先手にはリスクが生じる。


割り箸が一つしかない事に気がついてからここまでコンマ0.3秒、二人の思考はすでに『先手が不利』という結論にまで達していた。


その結果、進むことも戻ることもままならない二人の間に沈黙が流れる。


『割り箸ひとつでなんでここまで考えるの?』という腐女子の疑問はさておき、二人して同時に様子見という選択をしてしまったがために突然できてしまった謎の沈黙が再び二人に襲いかかる。


二人の頭を占めるのは、この不自然な沈黙を打ち破るための術の模索。


そしてこの高尚で矮小な頭脳戦が5分続いたところで、先に動き出したのはカグヤだった。


カグヤ「そ、そういえば、今日暑いよね」


沈黙を打ち破るため、彼女がとった行動は唐突に不自然な天気の話だった。…まぁ、この日が暑かったのは確かなことなのだが。


ニート「そうだね、暑いよね。…ところで、お腹空いてない?」


焼きそばを目の前に所構わず4枚目のジョーカーを切るニート。もはや救いようがない。


そしてそのまま話題は焼きそばを放置して天気の話へと移行した。


今日はこの季節にしては記録的な猛暑だとか、今年の夏は暑かっただとか、きっと作物がよく育つだとか、果ては株の話や世界情勢の話にまで発展した。


間接キスという話題を避けるために無駄に弾む会話。…なぜそれがいままで出来なかったのだ?。


いろいろとツッコミたくて仕方がない腐女子だったが、無理やりに盛り上がってしまっている会話を見かねて、近くにあった屋台から割り箸を一本分けてもらってから二人の元に近づいた。


腐女子「おう、また会ったな、お二人さん」


カグヤ「あ!偶然だね!。いまブロックバスターの特許の有効期限が切れたことによるこれからの現代医療への影響力と今後の薬品会社の動向について話し合ってたの!」


ニート「2010年問題で大きく形を変えていく世界情勢についていくために医薬品メーカーは一体どういう戦略を立てているのか…」


カグヤ「既存の技術では20年前のような圧倒的効力を待つ新薬の開発は望めないだろうから、また別の方法で生き延びるしかないだろうね。腐女子はどう思う?」


腐女子「お、おう、知らねえよ。…そういえばお前らこういうときに限って語彙力が覚醒するんだったな」


以前のどちらが先に好きというかで5時間粘ったときを思い出した腐女子。


腐女子「そういえば割り箸が一本余ったからやるよ、なんかの役には立つだろ」


ニート「え?なんで割り箸?。そんなの何に使うんだよ?。…でも、せっかくだからもらってやるよ、仕方ねえな」


カグヤ「そうだよ、割り箸なんて渡されてもゴミが増えるだけだよ。…まぁ、くれるっていうなら受け取ってあげてもいいんだけどね」


割り箸が一本しかないことを気にしていたことを悟られないように平然を装いつつも、本心は割り箸が喉から手が出るほど欲しかったため、ツンデレみたいな感じになってしまった二人。


腐女子「まあまあ、人助けだと思って受け取ってよ」


そんな二人の心情を察しつつ、笑顔で下手に出ながら割り箸を渡す腐女子。…彼女が一番大人である。


腐女子「じゃ、邪魔して悪かったね」


やるべきことをやって、邪魔にならないようにそそくさと退散する腐女子。…あれ?もしかして腐女子じゃなくてただの聖母じゃねぇ?。


そんな腐女子を二人して手を振って見送った後、腐女子が見えなくなってからカグヤがボソリと呟いた。


カグヤ「…食べよっか、焼きそば」


ニート「…せやな」


先ほどの盛り上がりが嘘のように、黙々と焼きそばを食べる二人であった。






焼きそばを食べてから15分後、二人は占いの館に来ていた。


ここに至るまでも一悶着…はなかったが、この15分の間にニートはさらに5枚のジョーカーを切っていたりする。


そして、怪しい黒いローブに身を包んだいかにもな占い師の目の前に座った。


一ノ瀬「占いの館へようこそ」


黒いローブの正体は生徒会の会計補佐の一ノ瀬であった。


一ノ瀬「この占いの館では我々が独自に考えた占いであなたの運勢を占います」


ニート「独自に考えた占い?」


一ノ瀬「はい。この不思議な六面鉛筆を転がして、上になった面の番号と方角で運勢を占います」


そう言うと一ノ瀬は各面に1から6の番号が書かれた六面鉛筆を取り出した。


カグヤ「なんかマークシートのテストで使えそうな占いだね」


一ノ瀬「では、なにを占いましょうか?。お二人の恋愛運、相性などいかがでしょうか?」


ニート カグヤ「健康運でお願いします」


恋愛運とかそういうものを意識させるものを極力避けたい二人はそう即答した。


一ノ瀬「…なるほど、相性はピッタリだと。申し訳ないのですが、健康運は占えないので、代わりに今後の運勢を占いますね。どちらから先に占いましょうか?」


ニート「じゃあ俺から頼む」


一ノ瀬「かしこまりました」


そう言うと一ノ瀬は16方位が書かれた紙の上に三本の鉛筆を転がした。


一ノ瀬「えっと、占いの結果は…『巻き添え』、『再会』、『報復』となりました」


一ノ瀬は転がした鉛筆を見つめながら結果を告げた。


ニート「えっと…どういうこと?」


一ノ瀬「そうですね…この3つのキーワードを組み合わせることであなたの今後の運勢が分かります。この場合はそうですね…例えばなにかの事件に巻き込まれて再会した人が復讐相手とかそういう感じですね」


ニート「なんか物騒だな」


一ノ瀬「それでは次に女性の方の運勢を占いますね」


一ノ瀬は再び三本の鉛筆を転がした。


一ノ瀬「えっと、占いの結果は…『加護』、『自責』、『信頼』となりました」


カグヤ「えっと…つまり?」


一ノ瀬「この場合は…よくわかりませんね」


ニート「分かんないのかよ」


カグヤ「なんか物騒な言葉が多いね」


一ノ瀬「所詮は占いなんであまり気にしないでください。この占いは僕が今日、5分で考えたものなんで当てにするだけ無駄です」


ニート「メチャクチャ適当じゃねえか」


一ノ瀬「本来はタロット占いするはずだったんですが…クラスメートがタロットカードを持って来るの忘れて…それで急遽代わりにこの占いをしてるんです」


カグヤ「なんか大変だね」


ニート「逆に5分でよく考えたもんだ」


一ノ瀬「それで占いの方はこれで終了なんですけど、ちょっと最後に番宣させてください」


ニート「番宣?」


一ノ瀬「今日の文化祭、ラストに体育館で生徒会による演劇があるので、ぜひ参加しに来てください」


ニート「あぁ、例の演劇のやつね。こうやって地道に宣伝してるわけだ」


一ノ瀬「はい。可能な限り多くの人に参加してもらわないと困りますから…」


ニート「まぁ、多分見に行くよ。楽しみにしてる」


一ノ瀬「はい、楽しみにしててください」


それだけ話し、二人は占いの館を後にした。


カグヤ「…ちょっとおかしいよね?」


占いの館を出たカグヤはボソリとそう呟いた。


ニート「なにが?」


カグヤ「演劇を見に来てくださいじゃなくて、参加しに来てくださいって言ってたから、少し違和感を感じちゃって…」


ニート「あぁ…それ、たぶんあえてそう言ってるんだと思うよ」


カグヤ「どういうこと?」


ニート「まぁ、見に行けば分かるよ」


カグヤ「ふーん…じゃあその時まで楽しみにしてるよ」


ニート「うん、そういうことにしといて」


カグヤ「………」


ニート「………」


カグヤ「………」


ニート「…ところで、お腹空いてない?」


カグヤ「…私、そんなに消化早くないよ」


本日10枚目のジョーカーであった。








カグヤ「ねぇ、せっかくだからお化け屋敷に行かない?」


占いの館を出てからニートが3ジョーカーした頃、二人はとあるお化け屋敷の前に来ていた。


ニート「…嫌だ」


カグヤ「なんで?」


ニート「嫌だ嫌だ嫌だ!!お化け屋敷なんて絶対嫌だ!!」


カグヤ「へぇ、レンジって怖いの苦手なんだ」


ニート「べ、別に苦手なんかじゃねえよ!!。ただ単にビックリするのは心臓に悪いし!親にもらったこの大切な体を労わるためにも極力行きたくないだけだし!!」


カグヤ「そうなんだぁ…じゃあ行こっか」


慌てふためくニート見ながらニヤニヤしているカグヤはニートを強引に引っ張って列に並んだ。


ニート「やだよぉ、やめようよぉ、お願いだからやめようよぉ」


カグヤ「大丈夫大丈夫、行こ行こ」


その様子を隠れて見ていた腐女子は『ニートって怖いの苦手なんだな、知らなかった』などと考え、ニートがお化け屋敷で慌てふためく姿を想像した。


腐女子「…これは、ぜひこの目で拝みたいね」


ニートの意外な姿に興味が湧いた腐女子はニート達の何組か後に続いて列に並んだ。


ちなみにだが、腐女子は現在メイド服である。そして女一人でお化け屋敷の列に並んでいる。


そんな様子を見ていた5歳児くらいの男の子が腐女子を指差しながらこんなことを母親に言った。


男の子「ママ、どうしてあのメイドのお姉さんは一人だけで並んでいるの?。お友達がいないの?」


ママ「シッ!。見ちゃダメよ」


一人で並んでいることにまるで不審者のような扱いを受ける腐女子。


『なんとか連れを確保出来ないか』…腐女子がそんなことを考えていると、どこからともなくある男達がやって来た。


モブ島「ふっふっふ、お困りのようだね、お嬢さん」


モブ山「僕たちが来たからには、もうボッチの心配は要らないよ、マドモアゼル」


腐女子「お前らは…いい人止まりのモブ島とダイレクトマーケティングのモブ山!!」


モブ島「ふっふっふ、女の子一人で来てるやつはいないかとずっとお化け屋敷の列にはっていて正解だったぜ」


モブ山「ふっふっふ、ようやく僕達にも女の子と文化祭を回るチャンスがようやく訪れたということだ」


腐女子「お前ら…救いようが無いな」


モブ島「さぁ、レディーよ、選んでくれ。一緒にお化け屋敷を巡るのはこのいい人止まりのモブ島か…」


モブ山「それとも、このダイレクトマーケティングのモブ山か…」


片膝をついて腐女子に手を差し伸べる二人。ちなみにだがこいつらの格好はナースにキャビンアテンダントである。


そんな二人を『正直、どっちでもいいな』という目で見つめる腐女子。


モブ島「安心しな、俺は同級生以上、友達未満の関係を遵守する人間だぜ」


腐女子「そんなんだからどうでもいい人止まりなんだよ」


モブ山「お願いします。文化祭という今日の機会を逃したら僕はショックで自害してしまいそうです」


腐女子「いや、重いわ」


モブ島かモブ山か…まるでキノコかタケノコかくらい迷う究極の二択を迫られる腐女子。


究極にどうでもいい二択に頭を抱えていた腐女子のもとに、ある人物が現れた。


母「あら?凪沙じゃない」


それは腐女子の母、それと…。


タケシ「サナエェ…サナエェ…」


我が家のペットのタケシであった。


腐女子「なんでここにいるの?お母さん」


母「せっかくの文化祭だから、タケシの散歩のついでに寄ってみたのよ」


タケシ「サナエェ…サナエェ…」


腐女子「ふーん。でも良いところに来た、ちょっとタケシを借りるよ」


そう言うと腐女子はタケシを引っ張ってお化け屋敷の中に入って行った。


モブ島「………」


モブ山「………」


そんな光景を見て放心状態になった二人はしばらくして現実を認識して膝から崩れ落ちて叫んだ。


モブ島 モブ山「チクショオオオオオオオオ!!!!!」


モブ島かモブ山か…究極の二択。選ばれたのは、タケシでした。


そんな現実を目の前に床に這いつくばる二人を指差して男の子が口を開く。


男の子「ママ、ナースさんとキャビンアテンダントさんが…」


ママ「見ちゃダメよ、あれはガチの変態さんだから…」






こうして、腐女子とタケシは二人でお化け屋敷に行くことになりましたとさ。


…よかったやん、タケシ。









え?感染者がお化け屋敷に行くのはちょっとまずいって?。


…さあ?なんのことか分からないなぁ(棒)。

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