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温!泉!回!

前回のあらすじ


次回は温泉回と言ったな。…残念だったな、本当に温泉回だよ。







湯気が立ち込めるだだっ広い浴場に、一糸まとわぬ姿で年頃の子供達が続々と現れる。


その手に握られたたった一枚の小さなタオルで少し恥ずかしげに、それでいてさりげなく体を隠しつつシャワーの前に座り、その体にお湯をあてがう。


肌にまとわりつくように張り付き、そしてその肌をなぞるように滴り落ちる人肌ほどの温度の湯が、身体の至る所を侵食するかのように包み込む。


しかしいつしかその水の流れは止まり、代わりに純白に輝く泡がその身体の隅々までを優しく包み、再びお湯によって洗い流される。


重力に従い、体に沿って曲線を描きながら落ちてゆく水滴の軌道が身体の凹凸を明白に浮き彫りにする。


身体を洗い終えたその人物はお湯のためられた浴槽に肩までつかり、一言が呟いた。




ニート「あぁ〜、いい湯だなぁ」




あっ、言い忘れていたが、ここは男湯である。



モブ山「銭湯とか来るの久しぶりだな」


いい感じの温度のお湯に浸かったモブ共は各々そんな感じの適当な感想を述べた。


そして特に何かを話すことなく、数分の沈黙が流れた後、モブ島が満を持して口を開いた。


モブ島「…じゃあ、女湯覗きに行こうか」


ニート「勝手にやってろ」


モブ山「行ってらっしゃい」


ボブ沢「務所に行ってもお前のことは忘れないよ」


モブ島「冗談だよ、冗談。…言ってみただけだよ」


モブ山「…なぁ、なんで俺たちに彼女出来ないか教えてやろうか?」


モブ島「なんだ?」


モブ山「『彼女欲しい』とか『女湯覗こう』とか言ってるけど、口先だけで全く行動に移さないからだと思うよ」


モブ島「それ、別に今言わなくてもいいじゃん。お湯が冷めちゃうだろ」










一方、こちらは女湯。


まるで霧のような湯気が立ち込める浴場に、年頃の娘達が続々と現れた。


浴槽に反響し、よく響く声で楽しそうに談笑をしながら彼女らは湯気が立ち込める浴場を歩いて行く。


真っ白でいて柔らかく、それでいて濃厚な湯気が彼女達にまとわりついていた。


クネクネと妖艶に形を変え、不規則に空中に散布する湯気。


手を伸ばして掴もうとしても、するりとその手を抜けてしまう湯気。


すぐ近くにあるはずなのにどうやっても届かない、歯がゆい距離を保つ湯気


まるですべてを覆い隠す純白のベールのような湯気。


目を凝らしても凝らしても、その瞳に映るのは白い靄。熱というエネルギーを与えられ、抑えられなくなった水の分子が気体となって宙を舞い、それが凝結することで目に見えるようになった空を泳ぐ水滴。


その様子はまさに地を這う雲。


青い空で自由に漂う雲とは違い、浴場という狭い空間にドッシリと構え、山のように動かざる雲こそが湯気である。



…え?さっきから湯気の描写しかしてない?。もっと女の子の描写をしろって?。


いやぁ、申し訳ないが湯気が大変濃くて女の子の様子が見えないんですよねぇ。


頑張って女の子を見ようと思っても、湯気さんが『わたしだけを見て』って感じで主張してくるんですよね。


残念だなぁ、これじゃあ女の子が描写出来ないなぁ。


湯気さんの鉄壁のガードで何も見えないんだよねぇ。『他の女を見るなんて許さないんだからね、あなたはわたしだけを見てればいいの』って感じでヤンデレ湯気さんが邪魔してるから仕方ないよね。


こうなったら、女の子の代わりにヤキモチ妬いてる湯気さんに萌えるしか無いよね。


え?湯気なんかに萌えられるわけ無いだろって?。


いやいや、よく考えてみようよ。いくら相手が湯気さんだからってヤンデレ属性にはそれなりの需要があるのであって、需要があるってことは萌えられる要素がどこかしらにあるってことだから、ヤンデレ湯気さんに萌えることだって出来るんだよ。


自分に振り向かせるために躍起になってる湯気さんを想像してみなよ。ほら、そう考えたらだんだん湯気さんが可愛く見えてこない?。


ね、可愛いでしょ!?可愛いと思うでしょ!?。


ほら、可愛いと思ったのなら、心が病んでる湯気さんのためにこう言ってやろうよ。






『お前だけを愛してる』って…。







…うん、病院行こうか。


ちなみに女湯では『腐女子の胸が思ってたよりも大きい』とか騒いでいたり、『シロたんはみんなより年上なのに胸が小さい』と嘆いていたりとかそういうやりとりがあったが、湯気さんの迫真の主張のせいでよく見えなかったとさ。








ところ変わってこちらは男湯。


女湯と違って湯気さんもいらっしゃらず、無駄に明瞭に視界が広がる浴槽にひしめくモブ共の姿があった。


筋肉隆々でもなく、かといって太っているわけでも無いモブ共が規則正しく黙って浴槽に並ぶその姿はさながらもやしを栽培しているように見えた。


そんな黙々と栽培されるもやしの内の1人がそっと口を開いた。


ニート「大体の漫画とかアニメの温泉回が露天風呂な理由がいま分かったよ」


モブ島「どうした?」


ニート「露天風呂みたいに仕切りが薄くないとさ、覗きイベントもなにも起こせないだろ」


モブ島「そういうことか。だからみんな露天風呂入ってたのか…」


モブ山「温泉回は温泉回でも銭湯に入ってる俺らに未来は無いんだな」


モブ島「男湯と女湯を仕切っているあのコンクリートの壁さえ無ければ…なんかそう考えたら世界中のコンクリートが憎くなってきた」


ニート「止めとけよ、そんなの憎んだってキリが無いだろ」


モブ島「すべての銭湯を混浴にするか、世界中のコンクリートを駆逐するかしないと生きる気力が湧いてこない」


ニート「混浴とか都市伝説だろ。期待するだけ無駄だ」


モブ山「江戸時代の銭湯はほとんど混浴だったらしいけどな」


モブ島「マジかよ…生まれる時代間違えたな…」


モブ山「いや、諦めるのは早いぞ。数は少ないけど、混浴はいまの日本にもあるぞ」


ニート「でもそれって、年頃の女性は来ないだろ」


モブ山「いや、意外と若い女の人も来るらしい」


モブ島「マジかよ!?。それは行くしかねえな!!」


モブ山「まぁ、兎歩町には無いから、行くには町を脱出する必要があるけどな」


モブ島「そうか…兎歩町を出る必要があるのか…」


ボブ沢「なぁ、すごい今更な質問なんだけどさ…なんで兎歩町が封鎖されたと思う?」


モブ木「それは分かんないけど…良からぬ理由であることは分かる」


モブ崎「だよな。…実際、いつなにが起こるか分かんないよな」


モブ藤「ほんとは文化祭なんてやってる場合じゃないかもしれないけど…いまの俺らにはそれくらいしか出来ないもんな」


モブ橋「せめてそれで兎歩町に住んでる人が少しでも楽しんでくれたら良いんだけどな」


モブ田「でも…いつかはここから脱出しないとダメなんだろうな」


突きつけられた現実と向き合い、もやしたちは少しナイーブになった。


そんな不安をぬぐい去るようにモブ島は力強くこう言った。


モブ島「大丈夫。いつはみんなで兎歩町から脱出しよう。そして…みんなで混浴に行こう」


モブ山「そうだな、みんなで脱出しよう…混浴のために」


ボブ沢「仕方ねえな、俺も付き合ってやるよ」


モブ木「俺…兎歩町から脱出したら、混浴行くんだ」


モブ崎「女体をこの目で見るまでは死ねないもんな」


モブ島「よし、絶対みんなで行こうぜ、混浴に!!」


モブ達「おお!!」


混浴を前に一致団結するもやし共。


モブ島「俺たちの戦いは、これからだ!!」


彼らの戦いはこれからも続く!?。






ニート「…結局、なんも温泉回してないんだな」


モブ島「温泉回とか、期待したって虚しいだけなんだな」


こうして、湯気さんが飛び交う温泉回は幕を閉じたのだ。






おまけ


温泉から出た後、休憩所で会したクラス一同と担任のシロたん。


お風呂上がり特有の湿った髪と火照った頬を見たもやしの一言。


モブ島「ええやん、温泉回」


ニート「せやな」


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