パラサイトの怖いところは、寄生されていても、寄生されていることに気が付かないところである。
前回のあらすじ
腐女子、登場。
人物紹介
萩山レンジ(ニート) 過去5年以上、デスゲームで養ってもらっていた彼の寄生力はもはや神業と言ってもいいだろう。
塩入凪沙(腐女子) 兎歩町で偶然にもニートと出会い、そのまま家に連れて帰って来てしまった腐乱物。
母 塩入凪沙の母。
父 塩入凪沙の父。
腐女子の家にて…
腐女子「ただいま」
ニート「ただいま」
母「おかえり…って、ん?だれ?」
腐女子「なんかこの騒ぎのせいで家に帰れないらしいからウチで泊めてあげて」
ニート「不束者ですがよろしくお願いします」
母「え?は、はぁ…こちらこそよろしく…」
ニート「そんなかしこまらなくて結構ですよ。こんな大変な時だからこそ、みんなで助け合うのは当たり前のことじゃないですか。だからどうか遠慮なさらず気軽に扶養してください」
母「え?は、はぁ…分かりました」
ニートのあまりに堂々とした態度に困惑しながらもついつい了承してしまった腐女子の母。
腐女子「とりあえず、私の部屋に来なよ」
腐女子に案内されて階段を上るニートに腐女子が声を掛けて来た。
腐女子「あんたの清々しいほどの図々しさ、凄いね」
ニート「伊達にいろんなところで養われてないからな。養われることに関してはだれにも負ける気がしない」
腐女子「それは誇っていいことなのか?」
そんなこんなで2人は腐女子の部屋に辿り着いた。
道端で会ったばかりの見知らぬ男を部屋に入れるのは些か軽率な行動ではあるが、腐女子は本能的に『こいつ童貞っぽいし、問題無い』ということを見抜いていた。
そんな童貞のニートはというと、普通なら女の子と2人っきりの状況にドギマギするであろうが、腐女子からにじみ出る腐乱臭によって不思議と落ち着いていられたのだ。
要するに、2人とも異性として相手を認識出来ていないのであった。
ニート「部屋汚いね」
原稿と漫画と薄い本が散乱する腐った乙女の部屋に入ったニートの第一声がそれだった。
腐女子「第一声がそれかよ?まぁ、事実だけどね。お茶持ってくるから適当に座ってて」
ニート「…おう」
腐女子が部屋から出て行き、乙女(?)の部屋に一人きりになったニート。
座っててと言われたが、床は♂に埋め尽くされていたため、仕方なくベットに腰掛けるニート。
女の子の部屋に入っていきなりベットに腰掛けるのはどうなのか、とかそういう発想すら出て来なかったニート。
そもそも、ここは女の子の部屋では無いのでそんなことは関係無いのだ。
やがてお茶を持ってきた腐女子が部屋に入って来た。
さっき道端で拾っただけの男がいきなりベットに腰掛けていたが、そもそもそこ以外に座れる場所が限られているため、『まぁ、いいや』と思ってしまった腐女子。
腐女子「麦茶でいい?」
ニート「ありがと…」
ニートは腐女子からお茶をもらい、ズズズっと音を立ててお茶を味わい、ボソリと口を開いた。
ニート「俺さ…女の子の部屋に入るのこれが初めてだと思うんだけどさ」
腐女子「どうした?」
ニート「なにも込み上げる気持ちが無いのはどうして?」
腐女子「多分ここは女の子の部屋じゃくて、ただの発酵室だからだと思う」
ニート「なるほど、ここは女の子の部屋じゃなかったのか。じゃあ俺のガールズルーム童貞はまだ失ってないってことだな?」
腐女子「その通り。あんたはまだガールズルーム童貞を失ってない、安心しろ」
ニート「そっかぁ…よかったぁ…」
ニートは心からの安堵の息を漏らした。
そんなやり取りを一通り行った後、腐女子はなにを話すでもなく椅子に座り、原稿の続きを書き始めた。
ニートはニートで手元にあった男達が肩身を寄せ合い、共に汗を流しながら青春を謳歌する漫画を手にとって読み始めた。(健全なスポーツ漫画です)
そのまま数時間、なにか会話をするでもなく、そのまま日が沈んだ。
一心不乱に腐乱し続ける腐女子とその傍らで堂々とベットに横たわりながら漫画を読み漁るニート。
何のアクションも起きなさ過ぎて小説的に困るくらいなにも起きないその部屋に、とうとう変化の兆しが見えたのだ。
下の階のリビングから腐女子の母の晩御飯が出来たという声が聞こえて来たのだ。
ゾロゾロとリビングに降りてきた腐女子とニートの目の前に美味しそうなカレーが並んでいた。
母「カレー嫌いじゃないかな?。えっと…」
腐女子の母はニート見つめながら言葉に詰まった。
ニート「あ、ニートって呼んでくれていいよ」
母「あらそう?…ニート?。まぁ、いいや…カレー嫌いじゃないかしら?ニート」
そんなこんなで家族(?)団欒な晩御飯が始まった。
そこに玄関から腐女子の父の『ただいま』という声が聞こえて来た。
それを聞いた母がわざわざ玄関まで父を見送りに行った。
母「おかえりなさい。…どうだった?」
父「どうもこうもないよ。完全に封鎖されてるし、自衛隊に事情を聞いてもなにも答えてくれないし」
父はどうやら情報を得るために町を回っていたようだが、特にめぼしい情報は得られなかったようだ。
父「中には無理やり封鎖を越えようとして撃たれた人もいたようで…」
そんなことを言いながら父が玄関からリビングに入り、中にいた見知らぬ男に目が行くとそこで言葉が止まった。
腐女子「おかえり、お父さん」
ニート「おかえり。今日もお疲れなさい、お父さん」
父「お、おう…ただいま。えっと…彼は?」
母「なに言ってるの?。彼はニートよ」
父「ああ、そうかそうか、ニートか。…え?ニート?。え?ニート?」
さぞ当然のように我が家に居座るニートに一度は納得しかけた父もさすがに見覚えのない無職に疑問が隠せなかったようだ。
父「え?ニートってなに?ニートって誰?」
母「なに言ってるのよ?。ニートはニートでしょ?。バカなこと言ってないで冷めないうちに晩御飯食べちゃいなさい」
父「え?これバカなことなの?。疑問に思っちゃいけないの?」
ニート「早くご飯食べちゃいなよ。お父さんの分のカレーなくなっちゃうよ」
父「っていうか、君はさっきからさりげなくお父さんとか呼んでるけど、なんなの?」
腐女子「ご飯の時くらい静かにしようよ、お父さん。子供じゃないんだから…」
父「えぇ…愛娘にまでそんなこと言われたら、もうお父さん黙るしかないじゃないか…」
こうして、ニートはなんとか塩入家に寄生することに成功したのであった。
晩御飯で一家団欒した後、再びニートと腐女子は発酵室に戻った。
同じ部屋にはいたが晩御飯前と同じようにニートは漫画、腐女子は発酵活動をしていた。
しばらくは二人とも黙っていたが、腐女子が原稿に向き合いながらもようやく口を開いた。
腐女子「ニートってさ、なんでこの町に来たの?」
ニート「なんでって…養ってもらうためだけど?」
腐女子「養ってもらうためってことは…ニートはもしかしてこの町が封鎖されるってことを知ってたの?」
相変わらず腐女子は原稿に向き合ったまま、ニートに尋ねた。
ニート「知ってたよ」
腐女子「じゃあ、なんでこの町が封鎖されたかも知ってるの?」
ニート「なんでも人に感染する殺人衝動を引き起こす精神病のパンデミックを食い止めるためらしいよ」
腐女子「へぇ〜…」
その時、下の階から母の『お風呂空いてるわよ』という声が聞こえて来た。
ニート「先にお風呂入るよ」
腐女子「んっ」
ニートが部屋から出て行って、しばらくした後…。
腐女子「っていうかいま、めちゃくちゃ大事なこと言ってなかった?」
一人部屋に残された腐女子はそんなことを口にした。
でも…まぁ…そんなことよりBL同人を描かねば…。
結局彼女は気にすることなくBL同人を描き続けた。
兎歩町は今日も、まだ、平和です
おまけ
腐女子「そういえば寝る場所なんだけどさぁ…」
夜遅くまで原稿に向き合っていた私がベットの方に振り向くと、ベットの上に堂々と横になり、いびきをかいて寝ているニートの姿があった。
ニート「Zzz…」
腐女子「…私、どこで寝んだよ?」
結局、腐女子はこの日も徹夜で原稿に向き合っていたとさ。