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お前らどうして好きってたった二文字が言えないんだ

前回のあらすじ


教室の中心で愛を叫ぶ相手を間違えたニート

10月5日


モブ谷「ねぇねぇ、聞いた?。腐女子とニートって同棲しているらしいよ」


モブ部「聞いた聞いた。それってもう親公認ってことだよね?」


モブ谷「凄いよね。もう毎日残暑が厳しい熱帯夜を過ごしてるんだろうね」


モブ部「お前無しでは生きていけないって言わしめるほどの仲だもんね。きっとお盛んなんだろうね」


ニートが教室の中心で愛?を叫んで以来、教室の話題はそのことで持ちきりだった。


同棲、ということが一応は事実であることが原因で上手い具合に誤解を解けないでいた腐女子は頭を抱えて机にうずくまっていた。


実際のところ思春期の男女が一つの部屋でずっと寝泊まりしていたというのはそういう誤解を受けても仕方のないことだ。


…っていうか、気にしても仕方がないんじゃないか?。


そもそも、私の目的はあいつをストレンジからニートに戻すことで、すでにそれは達成されているし、これで思う存分部屋で腐れるのだから、万事解決じゃないか。


そうだ、私はもう腐れるのだ。あの悪魔のようなイケメンがいなくなった今、私の腐敗を止めることが出来るものなどいない。噂なんて言いたい奴には言わせればいい。私は実害がない限り、腐ることが出来るなら、それで十分なのだから…そう、実害がない限りは…。


モブ谷「でも、ニートが教室で『帰ってきてくれ』って言ってたってことは、腐女子はどこかに行ってたってことなのかな?」


モブ部「きっと浮気よ浮気。腐女子が浮気してたのよ」


モブ谷「うわぁ、ニートも弄ばれて可哀想に…」


モブ部「ひどいよね、腐女子」


モブ谷「サイテー」


あらぬ誤解があらぬ方向に拡大解釈され、さらなる誤解を生む。


それでも腐女子は気にしなかった。言いたいやつには言わせておけばいい、そう思っていた。


そんなわけでいつも通り過ごすことにした腐女子が自分の席に座りながら朝のホームルームを待っていると、登校してきたモブ原がすれ違い際に耳元でこんなことをボソッと口にした。




モブ原「…夜道には気をつけろよ」




顔は見てないから表情までは分からなかったが、憎悪と狂気と殺意が入り混じったその言葉に、腐女子はかつてないほど生命の危機感を感じた。


ヤバい…早くどうにかしないと…。


命を狙われたとなると、もはや手段を選んでいられないと判断した腐女子は放課後、誰もいない教室にニートを呼び出していた。


ニート「…えっと、これはなんなんですか?」


腐女子に呼ばれて空き教室にやって来たニートを待っていたのは、竹刀を持ち、鬼のような形相で仁王立ちしていた腐女子の姿であった。


腐女子「来たか…まぁ、座れよ」


持っていた竹刀で目の前の床を指差し、ニートが座るように促した。


腐女子から普段とは違い、なにか鬼気迫る威圧を感じたニートは恐る恐る腐女子の前に正座した。

腐女子「お前さ、最近私達があれやこれやと噂されてるけど、それについてどう思ってるの?」


ニート「えっと…まぁ、別にいいかなと思ってます」


萎縮して思わず敬語で返事をしてしまうニート。


腐女子「へぇ、あんたは別にいいんだ」


ニート「むしろ、既成事実があった方が寄生しやすいかなって。…既成事実なだけに」


腐女子「ふざけたことほざいてんじゃあねえよ!!!!」


ニートは場を和ませようと冗談をかましたが、それにキレたのか、腐女子は竹刀を床にベシッと叩きつけてニートを威嚇した。


ニート「ひっ…」


腐女子「噂されるくらいなら別に私だってかまわないさ!!。だけどな!こっちとらな!お前のせいで命まで狙われてんだぞ!?。あらぬ事実のせいで背中刺されるかもしれないんだぞ!?」


ニート「す、すいません…」


腐女子「第一さ、カグヤのことはいいのかよ?。誤解されたままじゃカグヤと付き合うなんて無理だろ?」


ニート「べ、別に俺は…カグヤと付き合いたいとか思ってないし…。カグヤも元気そうだし、もう俺が出しゃばる必要もないと思います…」


腐女子「へぇ、じゃあお前はカグヤのことが好きじゃないんだ?」


ニート「えっと…好きか嫌いかで言えば…好きですけど…」


腐女子「オーケーオーケー、お前の気持ちは分かったよ。それならさっさと告白しようじゃないか。実はカグヤもここに呼んでるからもうそろそろ来ると思うんだ」


ニート「え?カグヤも?」


カグヤ「失礼します」


そう言って教室の扉を開けたカグヤの目に飛び込んできたのは竹刀を構えて仁王立ちする腐女子とその目の前で正座するニートの姿があった。


カグヤ「し、失礼しました…」


二人を邪魔しちゃいけないと思ったカグヤはそっと扉を閉めて出て行こうとしたが、腐女子がカグヤの胸ぐらを掴んでそれを阻止する。


腐女子「まぁ、そう言うなよ。ちょっとお姉さんとお話ししようか?」


カグヤ「わ、私、二人がそういうプレイがご所望だったとか言いませんから!!だから離してください!!」


腐女子「これ以上、話を拗らせるんじゃないよ。まぁ、とりあえず座れよ」


カグヤ「いや、でも…」


腐女子「す、わ、れ」


カグヤ「…あい」


目だけが笑ってない腐女子の笑顔にとうとうカグヤも観念したのか、おとなしくニートの隣で正座した。


腐女子「よーし、これで役者は揃ったな」


カグヤ「それで…お話というのは…」


腐女子「話っていうのは他でもない。お前らの恋愛の話、コイバナだ。私自身、お前らみたいな純愛は見ていて羨ましいと思うし、応援もしたいと思うんだ。それに人の恋路に首をつっこむのもどうかと思うし、本人達に自由にやらせるのが一番だとは思う。だけどな…その恋愛に人様を巻き込んじゃあいけないよな?。それを分かっているか?」


目だけが笑ってない笑顔で二人の顔を覗き込むようにニタリと笑う腐女子。


そんな顔を直視できない二人は腐女子から視線をそらす。


腐女子「お前らのせいでな…私はクラス中からあらぬ誤解を受けたりな、二人の恋路を邪魔したって理由で読者から罰ゲームを募集されたりな!、果てはこの命まで狙われてんだぞ!?ふざけんな!!!!」


腐女子の恫喝に顔が上げられなくなり、俯向く2人。


腐女子「私が何したっていうんだよ!?。そりゃあ、最初にこじらせた原因は私にもあるけどさ!だからって命まで狙われるってどういうことだよ!?。っていつか、今更だけど、罰ゲームってなんだよ!?なんで私がそこまでやらなきゃいけないんだよ!!」


言いたいことが溜まっていた腐女子はどんどんヒートアップしていく。


腐女子「そもそもこの小説って学園ラブコメディじゃねえだろ!?。いつまでこんな恋愛ごと引っ張るんだよ!?。作者の当初の予定ではもうすでに文化祭も終わって、次の展開に入ってたんだよ!!。むしろ本番はこれからなんだよ!!。それなのに、どうしてここまで引きずってんだよ!?。それもこれもニートがカグヤの家に侵入成功した時に話が変な方向にこじれたせいなんだよ!!。…って、それ私のせいじゃねえか!!クソ!!」


1人で叫んで、1人で自分を責める腐女子を止める術がないニートとカグヤはただただ傍観するだけであった。


腐女子「そもそもニート!!。お前何しにこの兎歩町にやって来たんだ!?。こんな学園ラブコメディするためじゃないだろ!?。自分の目的のためにもっと頑張れよ!!」


ニート「えっと…そもそも俺は養われるためにここに来たわけで…」


腐女子「そうだったな!!。お前はそうだったな!!。養われるためにここに来たんだったな!!。…すでに目的を達成してんじゃねえよ!クソが!!」


ニート「す、すみません…」


腐女子「カグヤ!!。お前もお前だ!!。今のこの状況はお前のせいでもあるんだぞ!!。分かってんのか!?」


カグヤ「ご、ごめんなさい。…私、引きこもってただけだからよく分からなくて」


腐女子「そうだな!!お前は引きこもってただけだったな!!。…別になにも悪くねえじゃねえか!!クソが!!」


カグヤ「ご、ごめんなさい…」


腐女子「いや、この際だからなにが悪いとか誰が悪いとかはどうでも良いんだ。過ぎたことをクヨクヨ言っても仕方がねえ。だからって、このままダラダラ青春してたら私がいつ刺されるか分からない。…そこでだ、もう面倒くさいから今ここでお前らには告白して貰おうと思う」


ニート カグヤ「…え?」


腐女子「はい、それじゃあ『第一回、ドキドキ告白大会』を開催します。イェーイ!みんな拍手!」


腐女子の突然の大会宣言にニートとカグヤは反応出来ず、教室には腐女子の拍手だけが響いた。


腐女子「やることは簡単だ。告白をする、以上!!。じゃあ早速ニート、告白しろ」


ニート「ファッ!?」


腐女子「お前はカグヤのこと好きなんだろ?」


ニート「えっと…それは…その…」


腐女子「口答えするな!!答えは『ハイ』か『イイエ』しか認めん!!。カグヤのことが好きなんだろ!?」


鬼のような形相でニートに詰め寄る腐女子に耐えきれなくなったニートはとうとうその固く閉ざされた口を開いた。


ニート「ハ…」


腐女子「『ハ』?」


ニート「ハイイエ…」


腐女子「どっちだよ!!!!!!」


腐女子の恫喝にニートはただただ目をそらすだけだった。


腐女子「そもそもニート!!お前は『今度はちゃんと告白する』って約束してたんじゃないのか!?。その約束はどこ行ったんだよ!?」


ニート「そ、そのうち…やるんじゃないですかね…」


腐女子「今やれよ!!」


的を得ない回答を繰り返すニートを説得するのを諦めたのか、腐女子は今度はカグヤの方を睨みつけた。


腐女子「カグヤ!!。お前はニートのことどう思ってるんだ!?」


カグヤ「え、えっと…その…記憶も曖昧で…まだよく分かってなくて…」


腐女子「でもお前だってこの前『心が会いたいって叫んでる』って言ってたじゃねえか!?。それはどうした!?」


カグヤ「あ、会いたいだけで…好きかどうかは…」


腐女子「お前らの恋愛に振り回されてな!私は『心がイタイって叫んでる』んだよ!!お前らのせいでな!!」


カグヤ「ご、ごめんなさい…。でもこういう風に好きって言わされるのってなんだか…」


腐女子「そうだな、こういう風に言わされる告白なんて風情もなにも無いよな?。だけどな、すでに時間と私の堪忍袋の緒はとっくのとうに切れちまってるんだよ!?。胸がキュンキュンするような甘い告白!?。ストーリーを通してようやく結ばれる純愛ラブストーリー!?。まさかまさかの幻の腐女子攻略ルート!?。そんなシナリオはお前らには用意されてないんだよ!!。お前らはな!今ここでな!!私の手によってな!!!!強制的にな!!!!!告白するのがな!!!!!!!定めなんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


教室に腐女子の叫びが爆発する。


腐女子「さあ、ニート!!『スキ』って言え!!。たった二文字だけだ、簡単なことだろう!?」


今にも襲い掛かりそうな野獣の眼力でニートを睨みつける腐女子。


そんな腐女子に耐えきれなくなったニートの聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で言った。


ニート「ス…」


腐女子「『ス』?」


ニート「ス…キ…ヤキ…」


腐女子「…それは焼き入れられるのが好きって解釈でいいのか?」


持っていた竹刀をバシバシ言わせながら腐女子はニートに問いかけるのをニートは首を何度も横に振って否定した。


腐女子「クソ…カグヤ!。だったらお前が『スキ』って言え!!。どっちか告白すりゃあ上手くいくだろ」


カグヤ「えっ…えっと…ス…」


腐女子「『ス』?」


カグヤ「スキ…ンシップ」


腐女子「………」


カグヤの回答に呆れた腐女子は今度はニートを睨みつける。


ニート「ス…スキーウェア」


腐女子「………」


2人して頑として『スキ』と言わないことに呆れた腐女子はこんなことを提案した。


腐女子「…オーケーオーケー、お前らのことは分かったよ。だったら持久戦と行こうや、順番交代に今みたいに『スキ』って言うのをごまかして、先に誤魔化しきれなくなった方が告白するってことでいいだろ。そういうわけで、今度はカグヤの番だ」


カグヤ「ス…ススキ」


腐女子「ハイハイ、ススキね。植物のススキね」


ニート「ス…ウイスキー」


腐女子「なるほどね、間に『スキ』を入れるパターンね。いいんじゃない」


カグヤ「スキル」


ニート「スキム」


カグヤ「スキーム」


ニート「ハスキー」


腐女子「おうおう、粘るね、2人とも」





五分後…


ニート「モスキート音」


カグヤ「ビヒィズス菌」


ニート「アイスキャンデー」


カグヤ「スキャンダル」


ニート「チャイコフスキー」


カグヤ「イエスキリスト」


ニート「アスキーアート」


腐女子「………」







5時間後…



ニート「スキファノイア宮殿」


カグヤ「オルビドス紀」


腐女子「………」


ニート「御数奇屋坊主」


カグヤ「犬上御田鍬」


腐女子「お前らどうして好きってたった二文字が言えないんだよおおおおおおおお!?!?!?」


5時間も粘りに粘ったニートとカグヤに我慢できなくなった腐女子はとうとう根をあげてそう叫んだ。


腐女子「っていうか、後半のやつに限ってはなに言ってるか分かんねえよ!!。なんでお前らこのタイミングで語彙力覚醒してるんだよ!?。そこまでして言いたくないのかよおおおおおお!!」


叫びに叫んだ腐女子はここでようやく冷静になり、一言こんなことをぼやいた。


腐女子「はぁ…これもそれだけ好きってことの裏返しなのかな…」


こうなってしまっては、部外者の私がとやかく言うのは野暮なのかもしれない…そう考えた腐女子はとうとう、ここで告白させることを諦めた。


腐女子「もういいや、お前らの愛の覚悟ってやつを見せてもらったよ。例えこの命が懸かっていようが、2人の恋愛に茶々入れるのも野暮ってものね。だけど、いつまでも現状維持のままじゃ、私の命が持たないから、この提案で妥協してくれ」


ニート「提案?」


腐女子「今度の文化祭の空き時間、お前ら2人っきりで文化祭を回ること。それが妥協案よ」


ニート「え…でも…」


カグヤ「ちょっと…それは…」


腐女子「これだけ妥協してやったのにまだうだうだ言うのか!?。こっちとら命を賭けてるんだぞ!?」


ニート「わ、分かったよ。…カグヤが良いって言うなら…俺は別に…」


カグヤ「わ、私も…レンジが良いって言うなら…」


腐女子「はい、決定!!。もうキャンセルは無しだよ!?。2人で一緒に文化祭を回る!!これは絶対だからね!!」


こうして、ニートとカグヤは腐女子の活躍により、文化祭を一緒に回ることになったとさ。


果たして2人はこれで仲を深めることが出来るのか!?それともまたまたこじれるのか!?なにより、命を狙われた腐女子は生き延びることが出来るのか!?。


腐女子の戦いはまだまだ続く!!。


おまけ


腐女子「っていうか、今日はカグヤの家に泊めて貰えば?ニート」


ニート「ば!ばばばばばばバカ言ってんじゃねえよ!!。女の子の部屋に泊まれるわけねえだろ!?」


腐女子「あ、はい、そっすね」

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