どうしよう、イケメンが治らない
前回のあらすじ
失恋を経て、人は成長する。
人物紹介
萩山レンジ(ニート) 底辺から堕ちた結果、イケメンとなったクソニート。イケメン状態の彼はストレンジと呼称する。
月宮カグヤ(JK) 腐女子によって、引きこもりが解消された。だが、まだまだ闇は険しい。
塩入凪沙 (腐女子) 囚われのヒロインを助け出した張本人。前回と前々回の活躍で作者的に腐女子の株はストップ高になった。…もうこいつが主役で良いんじゃないかな?
モトコ (パツキン) クラスの代表的存在。
シロたん クラスの担任。若手の美人教師。
モブ島 前回に腐女子からドロップキックを食らって瓦礫に埋もれたまま気絶した哀れな男。でもドロップキックされながらも心の中では『ありがとうございます』と叫んでいた紳士。
モブ原 前回、ストレンジに胸キュンしたモブ。
9月19日 朝
生徒会副会長兼クラスのとりしきり役のパツキンは悩んでいた。
悩みの種は文化祭のクラスの出し物のことだ。
イケメンに暗黒進化したニートのおかげで、出し物の方は形となって行っているのだが…パツキンはその内容に疑問を持っていた。
そんなパツキンが朝早くから学校に登校すると、そこでは偽りのイケメンの力を手に入れたニートが窓辺で肩に小鳥を乗せながら読書を嗜んでいた。
『なぜ小鳥が肩に?』という疑問は拭えないが、朝からツッコむのも面倒くさいので、パツキンはそのままストレンジ状態のニートに話しかけた。
パツキン「ごめん、読書してるところ悪いけど、文化祭のことで話がしたいの」
ストレンジ「よろこんで、レディー」
ストレンジは読んでいた本をパタンと畳むと、パツキンが隣の席に座れるようにさりげなく隣の席の椅子を引いた。
パツキン「あ、うん、ありがと」
ストレンジの微妙な気遣いに微妙な表情を返すパツキンは席に座ると早速話を切り出した。
パツキン「話っていうのは文化祭のことなんだけど…」
ストレンジ「どうしたんだい?」
ストレンジはそう言いながらどこから取り出したかは分からないが、ドリップコーヒーが作れるコーヒーメーカーを取り出し、香ばしい匂いのたつコーヒーをマグカップに注ぎ始めた。
パツキン「えっと…いままで話し合ったことをまとめるとさ…まず私たちのお店はいろんな料理や飲み物を提供する喫茶店で…」
いきなり本格コーヒーを注ぎ始めたストレンジに多少動揺しつつも、パツキンは本題について話し始めた。
パツキン「でもお客さんにも楽しんでもらうために、お客もコスプレ出来るようにして…」
ここでコーヒーを注ぎ終えたストレンジがマグカップをパツキンに差し出し、「砂糖は?」と聞いて来た。
パツキン「いや、ブラックでいいや」
ストレンジ「うん、分かった」
そう言いながらストレンジはスティック型の砂糖を二袋開け、自分の分のコーヒーに入れた。
パツキン「それと売上アップのために5人で入店したら2割引っていうサービスをしたりとか…」
ストレンジはさらに砂糖の袋を二袋開けながら、パツキンの話に何度も頷いて耳を傾けていた。
パツキン「話し合って決まったのはだいたいこんな物なんだけどさ。私にはちょっと思うところがあるんだよね」
ストレンジ「なにか疑問があるのかい?」
ストレンジは一気に砂糖の袋を四袋開けながら聞き返して来た。
パツキン「客もコスプレできる喫茶店っていうウリならありだとは思うんだけど…当初のコンセプトである『お客にも店側として楽しんでもらう』っていう話から大きく逸れてると思うの。…あとどうでもいいけど、めっちゃ砂糖入れるね」
ストレンジ「なるほど、話はわかったよ。要するに、今のままではただのコスプレが出来るだけの喫茶店で、当初の話にあった『扶養』喫茶ではないっていうことだね?。…それと、苦いの苦手なんだ」
ストレンジは今度はシロップをコーヒーにたっぷり注ぎながらパツキンの話をまとめた。
パツキン「そういうこと。実際にお客さんがコスプレ出来る喫茶店っていうのは既に世に出てるし、目新しさには少し欠けてると思うの。所詮は文化祭だからそこまでこだわる理由も無いんだけど。…ってか、まだ甘くするの?」
ストレンジ「目新しさか…具体的にはどういうことを求めてるの?。…ほんとはコーヒーじゃなくて、コーラ飲みたかった」
パツキン「具体的にって言われても…特には思い付かないんだけど…個人的には前にニートが言っていた『お客さんに養ってもらう』っていう発想は斬新だと思うんだよね。…じゃあコーラ飲めばいいのに」
マグカップからギリギリ溢れるか溢れないかくらいまでシロップを入れたストレンジはコーヒーを飲みながらパツキンの話を聞いて、苦そうな顔をしながら口を開いた。
ストレンジ「お客さんに養ってもらうって…誰が言ったか知らないけど、馬鹿らしすぎて笑っちゃうね。きっと学も脳も無いロクでも無い人間のクズが言ったことなんだろう。…よくこんなのブラックで飲めるよね」
パツキン「その発言はただのブーメランでしょ。…それならなぜコーヒーを淹れたし?」
ストレンジ「とにかく、コスプレが出来る喫茶店っていうだけで十分目新しい物だと思うよ」
パツキン「それはそうなんだけどさ…」
そんな感じで二人が話していると、クラスメートも続々と教室に入って来て、やがて担任のシロたんも教室へと入って来た。
シロたん「…あら?コーヒーのいい香りがするわね」
シロたんはニートが淹れたコーヒーの匂いを嗅ぎたり、そんなことを口にした。
ニート「よろしかったら、先生も一杯いかがですか?」
ニートはコーヒーメーカーを片手にシロたんに聞いてみた。
シロたん「あら?いいわね、私も一杯頂こうかしら。…でも学校に関係無いそれは後で没収ね」
そしてシロたんが出席を取ろうとしたその時、教室の扉がガラリと開き、二人の女子生徒が入って来た。
腐女子「ギリギリセーフ!!」
カグヤ「………」
久々のカグヤの登校に驚くクラスメート達を差し置いて、シロたんはカグヤに空いている席に座るように促した。
注目を浴びて、少し気まずそうにしていたカグヤもそれに従って席に着く。
パツキン「おはよう、月宮さん」
そんな中、パツキンはカグヤに対して当たり前のように挨拶をして、カグヤの気まずさを少し紛らわせた。
そんなパツキンの気遣いによって、場の空気が少し変わったところで、担任のシロたんが話を切り出した。
シロたん「これでようやくクラス全員集合だね!!」
嬉しそうにそう話したシロたんの言葉を皮切りに、教室は拍手と喝采に包まれた。
クラスメートが全員集まったことに喜びを隠せない彼らはまるでお祭りごとのように騒いだ。
パツキン「よっし!!これからクラスみんなで文化祭を盛り上げていこう!!」
クラスメート全員「オオー!!!」
パツキンの言葉に拳を握りしめ、天に高く掲げて答えるクラスメート一同の中にカグヤの代わりにモブ島が来てないことに気がついた者はいなかったとさ。
昼休みになると、文化祭に向けての準備のために皆せわしなく動き始めた。
そんな中、何をして良いかも分からないカグヤに腐女子は話しかけた。
腐女子「昼休みの内にニートともう一回ちゃんと話に行かない?」
ニートに『私ともう二度と関わらないで』ときついことを言ってしまい、ギスギスした関係になってしまっている二人を何とかすればストレンジ状態のニートをただのクズニートに戻せると考えた腐女子はカグヤにニートともう一度きちんと話し合うことを提案した。
カグヤ「う、うん…そうだね。酷いこと言っちゃったし…」
腐女子「大丈夫大丈夫、私もついてるからさ」
そう言うと腐女子は早速ストレンジに声をかけた。
腐女子「ニート!!。ちょっとカグヤが話したいことがあるそうなんだけど…」
文化祭の準備で忙しそうにしていたストレンジは腐女子の言葉に振り返り、二人の元までやって来て、声をかけた。
ストレンジ「僕に何か用があるのかい?月宮さん」
カグヤ「えっと…その…この前は酷いこと言ってごめんなさい」
そう言いながら深々と頭をさげるカグヤにストレンジは少し申し訳なさそうに笑って言葉を返した。
ストレンジ「僕の方こそごめんね、変に出しゃばったりして。でも良かったよ、月宮さんが学校に来てくれて。…やっぱり、僕は必要なかったんだね」
少し寂しそうにそう言葉を付け加えたストレンジにカグヤが何か言おうとしたその時…。
モブ原「レンジ様ぁ!!。ちょっとこっちを手伝ってくれませんかぁ?」
いつもより声のトーンが5段階くらい高いモブ原が目をハートマークにしながらニートに声をかけた。
ストレンジ「ごめん、呼ばれてるから行かなきゃ」
カグヤ「あ…待っ…」
カグヤの言葉を無視して、ストレンジは逃げるようにその場を去って行った。
腐女子「…こりゃ、一筋縄じゃいかないな」
その様子を横から見ていた腐女子は一言そう呟いた。
結局、その日もニートがストレンジから戻らなかったので、腐女子は寝ることも腐ることも出来ず、ただただ目のクマを深めるばかりだったとさ。
おまけ
モブ原の紹介をパツキンとモブ島にやってもらった。
モブ原「ジャーン!、私参上!」
パツキン「お前は…春夏秋冬恋する乙女のモブ原!!」
モブ島「恋に生き、恋に死にゆく好きになったら盲目になる乙女のモブ原!!」
パツキン「でもその分冷めやすくて、一年にだいたい4回くらい意中の相手が変わるモブ原!!」
モブ島「季節の変わり目に気分もコロコロ変わるモブ原!!」
パツキン「中学時代は色恋沙汰で3つの部活を廃部に追いやったサークルクラッシャー、モブ原!!」
モブ島「そんなお前でも、俺の彼女になってくれたら大切にしてやるぜ、モブ原!!」




