表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/57

それでもヒーローにはほど遠い

前回のあらすじ


ついに頭角を現したモブ達、果たして彼らに活躍の機会があるのか…。




人物紹介…はいいや、めんどくさい。



9月13日午前8時…


今日もカグヤを説得すべくカグヤの家にたどり着いたニート。


そんなニートの目にはスカーレットの前で右手を差し出してひたすらに『お手』という言葉を繰り返していたモブ島の姿があった。


モブ島「お手!…お手!」


スカーレット「………」


モブ島の必死の説得もむなしく、スカーレットはうんともすんとも動かなかった。


ニート「何やってるんだ?モブ島」


モブ島「いや、1,2ヶ月も餌あげてるんだから、そろそろ芸の一つや二つくらいやって欲しいと思ってさ」


ニート「そういうことか。それなら俺に任せろ」


スカーレットの前に座り込んだニートは右手を差し出して口を開いた。


ニート「スカーレット、アイアンクロー」


スカーレット「ワン!!」


ニートの右手に前足を乗せたスカーレット。


モブ島「おお、すげぇ…。でもなんでアイアンクロー?」


ニート「我が家の姉の負の遺産ってところだな」


モブ島「よく分からんが…まぁいいや。それより、今日も月宮さんを説得するんだろ?」


ニート「そのつもりだが…説得できる自信は無いんだよな」


モブ島「安心しろよ。今日は俺も付いてるからさ」


ニート「ありがとう。いい人止まりのモブ島がいれば心強いぜ」


モブ島「お前、ほんとは心強いなんて思ってないだろ?」


ニート「いないよりはマシと思うくらいには頼りにしてる」


モブ島「俺はただの数合わせかよ。まぁ、さっさと説得しに行こうぜ」


そう言いながら躊躇いもなくインターホンを押すモブ島。


が、相変わらず反応は無かった。


モブ島「…反応無いな。ほんとに中に人がいるのか?」


ニート「いるよ」


ニートはそう言いながら玄関のドアを開け、中の様子をモブ島に見せた。


部屋の中では昨日と同様にカグヤが膝を抱えて座り込んでいた。


ニート「ほらな」


モブ島「ほんとだ。…あ、久しぶり、モブ島です。俺のことわかるよね?」


カグヤ「…覚えてない」


モブ島「そんなバカな…俺ってそんな影が薄いのか…」


小中高と同じ学校に通っているはずの人から忘れ去られたことにショックを受けるモブ島。


ニート「安心しろ。カグヤは記憶を失ってるだけだ」


モブ島「え?もしかして記憶喪失ってやつ?。夏休みの間に一体何が…」


カグヤ「何しに来たか知らないけど…人の家の玄関先でごちゃごちゃ話すくらいなら帰って」


ニート「そういうわけにはいかない。今日は交渉をしに来たんだ」


カグヤ「交渉?」


ニート「そう、君が学校に来てくれるのなら、俺は君に君の記憶に関して知っていることを教えよう。俺は君が記憶を失った理由も、君の失った記憶もほとんど知っている。記憶を取り戻したくないかい?」


カグヤ「…そんなもの、知りたくない!!」


ニート「…え?」


カグヤ「思い出したくない!!聞きたくない!!知りたくない!!。このままずっとずっと…忘れてしまいたい…」


ニート「………」


カグヤの強い拒否反応にニートは思わず言葉を失い、何も言うことは出来なかった。


カグヤ「お願いだから…帰って」


そのカグヤの一言でMP(メンタルポイント)が底を尽きたニートは申し訳なさそうに静かに扉を閉めた。


ちなみに、モブ島はカグヤに忘れ去られてるという事実を知った時点でMP切れに陥っていた。


閉じられた扉を目の前に、ニートは俯き悲しげに口を開いた。


ニート「君にとって俺との思い出なんて…その程度のものだったってこと?」


ニートに同調するかのように、スカーレットが寂しそうに鳴き声をあげた。








その日は1日、ニートはなにも頭に入らず、ボケーっとしていた。


どのくらいボケーっとしていたかというと、いつもなら終始寝て過ごすはずのシロたんの英語の授業を寝ることなくボケーっと過ごすほどだ。


シロたん「ニート君が起きてるなんて珍しいね。せっかくだから問題に答えて貰おうかな。『tailor』の意味を答えなさい」


ニート「カグヤ…」


シロたん「家具屋か…おしい!!。ちょっと違っちゃったね。でも惜しかったから健闘賞をあげちゃおう」


カグヤと家具屋を間違えて受け取ったシロたんはニートがめげないように気遣って褒めた。


シロたん「正解は洋服屋とか仕立屋って意味だよ」


ニート「………」


ただただニートは右から左へと言葉を受け流すだけだった。








腐女子「ニート…放課後だよ」


ニート「………」


授業も終わり、放課後になってニートは惚けたままであった。


そんなニートの元に近づいて来た一人の男がいた。


犯罪者「ニート、いまから体育館裏に来い」


彼は犯罪者こと鬼塚ケイであった。


突如現れた男から体育館裏に来いなどと言われたニートの周りでは『もしかして喧嘩か?』などという声が上がっていた。


ニート「………」


しかし、ニートに反応はない。


犯罪者「…おい、聞こえてるか?」


ニート「………」


犯罪者「…仕方ねえ、借りてくぞ」


腐女子「どうぞ、お構いなく」


腐女子から許可を取った犯罪者はニートを脇に抱えて教室を出て行った。


モブ島「…喧嘩でも始めそうな雰囲気だったな」


モブ田「きっとニートは体育館裏でリンチにあうんだろうな」


モブ山「短い付き合いだったが、楽しかったぞ、ニートよ」


ボブ沢「天国から俺たちを見守っていてくれ、ニートよ」


いつの間にか教室ではニートへの祈りとして黙祷が始まっていたとさ。








犯罪者「話というのは他でもない」


人気の無い体育館裏に着くなり、話を切り出した犯罪者。


犯罪者「実はこの町からの脱出を試みている連中がいるんだ」


ニート「………」


相変わらずボケーっとしているニート。


犯罪者「だが、四六時中町の境界を見張っている兵隊、さらには兎歩町を囲うように建てられた壁が建設されてる今、はっきり言って脱出そのものが不可能に近い。仮に脱出出来たとしても、感染者の疑いのあるこの町の住人を政府が放って置くわけがない。どこまでも追いかけられて、最悪の場合、殺されることだってあり得る」


ニート「………」


犯罪者「だから、兎歩町からの脱出はただの無謀な挑戦でしかない。無駄死にを出さないためにも、俺は奴らの脱出を阻止するつもりだ。CBKSのことを話せば説得できるかもしれないが、病気のことを知れば町でパニックが起きるかもしれない。そうなったらもう誰も感染を止められない、壁に囲まれた兎歩町は棺と化してしまう。だから、説得も難しい。しかも、奴らから俺は警戒されていてな…脱出の方法も嗅ぎまわることもできない。そこで…代わりにお前にそれを調べて欲しいんだ。お前なら生徒同士という立場を利用して奴らに近づける。頼む!お前くらいしか頼める奴がいないんだ!」


ニート「………」


しかし、ニートに反応はない。


犯罪者「おい、聞いてるのか?ニート?」


反応がないニートに詰め寄る犯罪者、しかしそんな犯罪者を振り払うかのようにニートが突然叫び出した。


ニート「そんなことよりカグヤがさぁ!!。俺どうしたら良いんだよ!?。昔の出来事も!あの島の出来事も!あいつにとってその程度のものだったのなら俺はどうしたらいいのさ!。俺にとっては大事な思い出でも、カグヤにしたらどうでもいいものなら、俺じゃあカグヤをどうこうできるわけないんだよ!!」


犯罪者「お、落ち着けよ…」


話を聞かずにカグヤカグヤと叫ぶニートの姿に妙な既視感を感じた犯罪者はなんとかニートを落ち着かせて、ニートからカグヤの話を聞いた。







犯罪者「なるほどな、青春してるな」


ニートから話を聞いた犯罪者はカグヤのことを心配しながらも、カグヤのために悩み、奮闘するニートに少しニヤニヤしていた。


ニート「なんかアドバイスくれよ」


犯罪者「そういう時はストレートに伝えたいことを伝えた方がいいだろ。好きなら好きって言うべきだ」


ニート「そんな簡単に言ってくれるなよ。それができたら苦労しないよ」


腐女子「男なら当たって砕けろ…そしてその後に優しい男に慰めて貰えばいい」


ニート「…どっから湧いて出て来たんだ?」


腐女子「『男』『二人』『体育館裏』…これをこっそり見に行かないわけないわな」


犯罪者「隠れて話を聞いてたのか?」


腐女子「そうそう、それで面白そうな話をしてたから出て来たわけさ」


ニート「別にお前が喜びそうな話でもないだろ。至って平凡な恋愛相談だろ」


腐女子「腐っていても恋話は好きさ。恋話に人種なんて関係無いからね」


そう、恋話というのは世界共通言語。具体的にはデスゲームのゲームマスターとプレイヤーの間でさえも盛り上がることができるのだ。


ニート「まぁ、別に聞かれて減るものでも無いからいいけど…」


腐女子「で、好きなの?告白したの?返事は?相手との距離は?関係は?」


ニート「グイグイくるなぁ…」


そしてその時、ニートの持っていた黒いガラケーの着信音が鳴り出した。


もちろん相手はみんなのパトロンこと、田中さんである。


ニート「…もしもし?」


田中「もしもし?。あれから進捗はどうなってる?」


ニート「それがカグヤが変貌しちゃっててさぁ…いま引きこもってるんだよね」


田中「引きこもってる?。…まぁ、あいつにも過去に色々あったからなぁ」


ニート「過去に色々?」


田中「両親の事件の話とか…お前は知らないのか?」


ニート「そういえば…そんな事もあったっけな」


昔の記憶があやふやなニートは田中さんから話を聞いて、そのことを思い出した。


田中「果たして、そのことが今回のことと関わりがあるかはどうかは知らないが…」


ニート「まるで関係無いってことは無さそうだけどな」


田中「それはそうと…例の件はどうなってる?」


ニート「例の件?。なんのことだ?」


田中「いや、だから…感染者の特定やら、『テイラーD』のこととか」


ニート「あ、あぁ…そういえばそうだったね。最近学校のことばっかりだったからてっきりこの小説って学園ほのぼのコメディーかと思っちゃってたよ」


田中「しっかりしてくれ。…その様子だと、進捗は無いようだな」


ニート「残念ながらなにも無いよ」


田中「うーむ…こうしている間にも感染が広まらなければいいが…。あ、そうだ、ショタ君がお前と話したいそうだから電話を代わるぞ」


田中さんがそう言うと、携帯からはショタの声が聞こえてきた。


ショタ「もしもし?。ヘタレお兄ちゃん?」


ニート「…ん?ヘタレ?」


ショタ「とっととカグヤお姉ちゃん引っ張って来てよ、ヘタレお兄ちゃん」


ニート「簡単に言わないでくれよ。…あとヘタレお兄ちゃんってなに?」


ショタ「カグヤお姉ちゃんを引っ張って来るまでヘタレお兄ちゃんって呼ばせて貰うよ」


ニート「止めくれよ。そこまで言うのなら、なにかアドバイスをくれよ」


ショタ「別に難しく考える必要はないよ、考えるほどの頭も無いんだし。それよりも、ヘタレお兄ちゃんは約束を果たすために頑張ればいいと思うよ」


ニート「約束?」


ショタ「僕が知ってるだけでも、ヘタレお兄ちゃんが果たすべき約束は4つくらいあるけど…一番はお母さんとの約束かな」


ニート「お姉ちゃんとの約束っていうと…全てを茶番にするって約束のことか?」


ショタ「そうそう、それそれ」


ニート「そうは言ってもなぁ…これは難しいだろ」


ショタ「大丈夫だよ。ヘタレお兄ちゃんは存在自体が茶番みたいなもんだから」


ニート「おいおい、それ褒めてんのか?」


ショタ「褒めてるよ」


ニート「っていうか、約束が4つあるとか言ってたけど、そんなにあったっけ?」


ショタ「あるよ。例えば二度目のデスゲームの時に島からヘリで脱出するとき、カグヤお姉ちゃんと約束したこととか」


ニート「あー…そういえば、『今度はちゃんと告白する』とか言っちゃったような気が…」


*具体的には前編の40話目くらい。ちなみに田中さんが言っていたカグヤの両親の事件の話は前編の番外編にて。


ニート「でも、カグヤはそんなこと覚えてないし…」


ショタ「大丈夫、覚えてなくてもヒーローを待ってるよ。…それじゃあ、そろそろ時間だから電話切るね。次までには名誉挽回してね、ヘタレお兄ちゃん」


そう言うと、ショタとの通話は途絶えてしまった。


ニート「ヒーローか…」


ニートは少し昔のことを思い出していた。


周りから白い目で見られ、後ろ指を指され、迫害された一人の少女。


そんな少女に手を差し伸べたかつての自分。


ニート「…うん、確かにこれはヒーローだな」


かつての自分を自画自賛しながら頷いたニート。


…だけど。


ニート「別に、ヒーローになりたいわけじゃない」


それでもカグヤを助けたいと思うのは…。


犯罪者「それで、どうするんだ?」


ニート「もう一回行ってくるよ、カグヤの元に」


犯罪者「どうやら、決意は固まったようだな」


ニート「うん、言いたいこと言ってくるよ」




決意を新たにして、再びカグヤの家の前に訪れたニート。


そしてその後ろに腐女子の姿。


ニート「…ついて来たんだ」


腐女子「邪魔なら帰るけど?」


ニート「いや、いてくれ。一人じゃ心もとない」


そして、深呼吸をしてからインターホンを鳴らしたニート。


しかし、当然のように反応はなかった。


今朝と同じようにドアノブをつかんでドアを開けようとしたが、今朝とは違ってカギが掛かっていた。


再三に渡る説得を煩わしく思ったため鍵をかけたのだろう、そう考えたニートは扉を開けることを諦めて、玄関前で中にも聞こえるように声をかけた。


ニート「そのままでいいから、俺の話を聞いて欲しい。俺は、君のヒーローになる気はない。そんな自信も能力もない、方法も分からない。俺は所詮、ただの子供で、養ってもらうことしか能のないニートなんだ。そんな俺がヒーローになりたいなんておこがましいことだと思う」


反応のない扉を前にニートは語り続ける。


ニート「でも、それでもなにか力になることは出来ると思う。些細なことでも支え合うことが出来ると思う。どんなことでも手を貸すから、そこから出てきて欲しい。やっぱり引きこもっているのは勿体無いよ。高校を中退した俺が味わった後悔を、君にもして欲しくない。だから、なにか話して欲しい!」


ニートは扉を前に必死に説得を試みる。


しかし、中からはなにも反応が無い。


ニート「…違う、違うな。俺が言いたいのはこんなことじゃない、もっと伝えたいことがあるはずだ…」


ニートはそう言うと少し時間をかけて頭の中を整理した。


ニート「…俺が君にこうやって毎日学校に誘っているのは、君にそばにいて欲しいからだ。君は覚えてないかもしれないけど、いままで一緒にやって来たことを、これからも一緒にやっていきたいんだ!。昔のように!島でのように!君と話して!君と笑って!君と一緒にいたいんだ!!。なにより…まだ君にちゃんと好きだって言えてないんだ!!!」


扉の前でニートは勢いのままそう叫んだ。


そして叫んだ後に、これじゃあ告白したも同然であることに気が付き、急に顔が赤くなった。


幸いなことに扉越しの告白であったため、一命を取り留めたが、もし面と向かって直接言ったことだったら…そう考えるとますます顔が赤くなってしまうニート、その隣で腐女子がヤケにニヤニヤしていることにニートは気がついた。


腐女子が指でチョンチョンとニートの肩を叩き、ニートの後ろを指差した。


気になって後ろを振り向いたニートの目の前に立っていたのは夕日によって茜に照らされたカグヤの姿があった。


扉越しの告白かと思っていたら、本当は直接言ってしまっていたという事実を知ってしまったニートはすぐさま逃げたい衝動に駆られたが、家とカグヤに挟まれて逃げるに逃げられない状況だと気が付いたため、頭の中をフル回転させて策を練ろうとした。


しかし、策など思いつくはずもなく、普段働かない脳みそを酷使したニートの頭は爆発し、そして…気絶してしまったとさ。




…やはりヘタレであったか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ