資格には責任はあるが四角の中には責任は無い
晴れた空。
白い砂浜。
青い海。
これらを見れただけで幸せだった。
幸せだったが満足ではない。
私はある人に会いに行きたかった。
私はその人と一緒に住んでいた。
短い間だったが私にとってその人の傍、住む場所、一緒に歩く道すべて生き心地がよかった。
だがその人は急に私の前から姿を消した。
それからの私は私ではないような感覚に何度も陥った。
何もかも嫌になってふらふら外を歩いていた時、私は攫われた。
手足を縛られ、車に乗せられた。
そして容れられた牢屋。
私の入った牢屋には先客がいた。
だが誰も私と口を利かなかった。
ただただ泣いている奴、生きる希望を失い寝そべっている奴、そのどちらかしかいなかった。
私は泣くという歳ではなかったので後者のようにふるまった。
しかし私には何が何だかわからなかった。
足に伝わる冷たい鉄の床。
狭い部屋。
そんな所に3日間いた。
ほとんどの人はたった3日間というだろう。
しかし私には長かった。
いや、長すぎた。
私が捕まった同じ日に他の牢屋に入れられた奴の泣き声が、
途端に聞こえなくなった。
ただ聞こえなくなっただけなら良かった。
私は鼻が利く。普通の人よりも何倍にだ。
それは生まれつきだ。
そのことを褒められたこともあった。
この鼻は私にとって誇れるものだった。
だが、あの日程この鼻を恨んだ日はない。
聞こえなくなった奴のにおいがその日に少しずつ薄くなっていった。
そしてしばらくして匂わなくなった。
匂いが消えていった。
それだけじゃなかった。
おそらくそこには複数いた。
泣いていない奴もいたはずだった。
確信は持てなかったが、匂いはあった。
その匂いも消えていった。
それは味わったことのないはじめての恐怖だった。
私は恐怖におびえながらその日を過ごした。
そして3日目
私は同じ牢屋の奴らと一緒にもっと小さな牢屋に移された。
あまりにも小さい牢屋。
窮屈で仕方なかった。
四方を鉄柵で固められ、上下は鉄板。
牢屋というより箱だった。
鉄の小さな箱。
その中に私達は容れられた。
そしてゆっくり動きだした。
私達を入れた箱が自動で動いていたのだ。
少しして止まった。
一つの鉄柵が取外された。
その先には道があった。
道と言っても一方通行だった。
右は鉄の壁。左も鉄の壁。そして上も下も鉄。
そして先は行き止まりだった。
道ではなかった。
私達は箱へもどろうとした。
しかし退路は無く、あったのは冷たく分厚い鉄の扉だった。
私達が道と勘違いしてこの場所に出た時に閉じられたらしい。
この部屋は異様な感じだった。
色々な匂いがあった。
他の奴らもおそらく感じただろうが誰も何も言わなかった。
ずっと泣いていた奴もこの場所に入ってからは静かだった。
四方に鉄の壁。上下に鉄の壁。
少しくすんだ壁に映る私の姿はひどく汚く、そして痩せてこけていた。
この部屋に入ってから少し息苦しかった。
原因はこの異様な感じから来るものだと思っていた。
そうではなかった。
空気が無くなっていた。
何かが吹きこまれる音。
空気ではない何か。
もう息ができない。
倒れていく他の奴ら。
こんな所で………たくない。
もう一度……たい。
最後何を思っていたのかも思いだせない。
そこからもう私の意識はない。
しかし、私はこうして目を覚ました。
晴れた空
白い砂浜
青い海
ここは幸せな場所だ。でも私は満足できない。
さぁ、ご主人様を迎えに行こう。
このことをテーマに書くのは辛いというか、何とも言えない気持ちになりますね。