遺産相続は奴隷販売店
なんか駆け落ちしてきたらしい親父とお袋。昔はどっかの良い所のおぼっちゃまにお嬢様だったらしいのだけど。記憶にあるのは貧乏だけど幸せだと笑う2人の姿。
何やら、金銭感覚とか色々と大変だったそうだけど、周りの人の優しさのおかげで今まで生きてこられたと常々言い聞かせられてきた。
何せ1人息子の俺の名前に異国の言葉で優しいの何とか読みのユウと名付けるくらいだからな。
勿論、駆け落ちした時に家の名は捨ててきたらしく、俺もただのユウだ。無論なんの不満もない。
確かに貧乏でその日のご飯に困る事もなくもなかったのだけど、何より両親が強かったからな。
無理が祟ったか俺が15で成人するや仲良く同じ日に亡くなったし。まぁ、俺は1人でも生きていけるまで育ててくれたから感謝以外ないけど、天国でも幸せになってくれよなと思う。
それから1年経たないうちに、村に仰々しい行列が現れ親父とお袋を探しに来ていた。
無論2人は居ないから代わりに息子の俺が会ったんだけど、なんか親父の親父。つまりじいさんが大往生したらしく、遺産が分配されるだとか。
実は両親から色々知識は教えて貰っていたから、貰えるものはきっちり頂く事にする。
なんか小汚い奴隷販売店だから是非現金に変えられては? とか言われたけど。確か親父やお袋の話では奴隷とは何かしらのエキスパートである事が多いらしいし。
よく分からないが人材派遣みたいなものか? うん、きっとそうだな。卑下される犯罪奴隷とは違うようだし、ならばこの際頑張ってみようと思う。
「ここが俺の城になるのか」
思い入れの詰まった家や畑を売りに出し、温かい人の多かった村を後にするのは心髪が非常に惹かれたが、それでも新たな自分の家を見ると気分が高揚してくる。
「はい、エンデル=ファイク家の物です。
ひいては、今日よりエンデル=ファイク=ユウ様の王国認奴隷販売店になります」
案内してくれた、本邸の家令に告げられれば、より自分のものになったと実感してくる。
何がボロ屋敷だよ、滅茶苦茶立派な城じゃないか! 確かに少し古いかもしれないけど、それが寧ろ格式を感じれそうな雰囲気だし。
なんか色々アイディア出てきたな。つっても肝心の人材が大事だし。さっさと中に入るか。
案内してくれた家令に礼を言い、屋敷へ入る。
と、俺が来る事を事前に知らされていたのだろう、50名程いると言われていた奴隷達が勢ぞろいしていた。
のは良いのだが、何故皆平伏しているのだろう?
「エンデル=ファイク=ユウ様。ようこそいらっしゃいました」
一番前で平伏している男が声を出す。
ふむ、面倒くさい、全員立たせるなりしよう。いや、気楽に座っても良いんだが、なんか様子を見るに寧ろ気を遣わせそうだからな。
「おう、まぁ気楽にしてくれや。他の奴は知らないが、俺はちゃんと皆を大事にするからな」
「恐れ入ります」
「でだ、面倒くさいから立ってくれ。そしてちゃんと顔を合わせて話そう」
最初の俺の言葉で若干柔らかくなった雰囲気が、再び堅くなる。
ったく、面倒くさいなぁ。
「お言葉ですが、ご命令でしょうか?」
「ああ? んな訳ねーじゃん。ってか、俺は大事な人達に命令などしない。
これはあくまでお願いだ。各々別に立たなくてもいいから楽にしてくれ。
そもそも、俺は今日までただの農民とし畑を耕して生きてきたんだ。お前達となんの違いがある?」
つらつらと語る俺に皆が困惑しているのが見て取れる。
なんだろう、楽しい。
「なんだ、俺が言う言葉はおかしいのかもしれない。
だけど、俺は皆と家族になる為に来た。奴隷とは人でありあくまで力を貸してくれる存在だと認識している。だから、その理論で扱う。他は知らん。
あ、でも犯罪奴隷。つまり犯罪者は別。罪は償わなきゃな。聞いたところ犯罪奴隷はいないらしいし。じゃぁ俺が忌避する理由もない。
ともかくだ。なんか金もいっぱい貰っているし、皆で食事と行こうぜ!」
益々困惑していく皆。同時に俺も上機嫌になる。
そうか、これがサプライズってやつなんだろうな。お互いに幸せになる事をするのがサプライズか。親父が物凄い楽しいぞって言っていたけど、なるほどこりゃぁ止められないわ。
結局困惑を通り越して不安がっていたり怖がって泣き出す奴もいたけど、直接目を合わせて話したらなんか良く分からんけど感激されて何とか皆で一緒に飯を食べれた。
うん、割とガリガリな奴とかいて心配だったんだよ。俺も人の事は言えないけど、だからこそ食えない事がどれだけ辛いか知っているし。人材は大切にしてこそだからな。
この屋敷とそれなりのお金で出来る事は限られていて、ならば足りないものは自分達でやってしまおうと礼儀作法に勉強は俺が仕込む事にした。
ただ、商人や料理人など専門職の事は詳しく知らないので、街中に繰り出し人材が居ないか探し回る日々が続く。
何故か前任者がろくに仕込みをしていなかったから色々大変だったけど、ほんと何をしていたのだろうか。
「ご主人様。本日こそお休み下さい」
「いや、ウェンディーから仕事っぷりを見て欲しいって頼まれているし、キャシーとステファンには礼儀のチェックを頼まれているからな。他にもやっておきたい事は山積みだし。でもちゃんと昨日も日が昇る前には寝たぞ?」
ただ、0からスタートだったお陰か全てが楽しく、寝る暇すら惜しい。
のに、最近皆からこう言う忠告を受けてしまう。
うーむ、そんなに働いているかなぁ?
「冗談は程々に。日が上りきる前にもう起きていらっしゃるではありませんか。
もうすでに2ヶ月程そんな生活だなんて、体を壊されたらどうなさいますか?
貴方がおっしゃっていることですよ」
「って言ってもなぁ。確かに疲れは感じてるけどまだ大丈夫だって。
それに、家族との約束破るとか俺には無理だ」
心配は嬉しいと思うのだけど、でもそれ以上に信念を曲げたりは俺には出来ないからなぁ。
なんて思っていたら背後から誰かに抱きつかれる。
「大丈夫です、今日は予定を変えて一緒に寝ましょう。ええ、是非とも!」
「あー。ウェンディー抜け駆けずるい! 胸押し付けちゃえ」
「何やってるのキャシー。その役目は私のモノよ」
耳元で元気な声を上げているのは、これから午前中予定していたその予定の相手達。
困惑していると、ニッコリと笑って異口同音で俺に言ってきた。
「ご主人様。お願いですからちゃんとお休みも入れて下さいませ」
「むぅ……、心配かけすぎたか。……分かった。それじゃぁ休もう。
そっか、皆も無茶してるもんなぁ。ちらほら体調不良者が出てきてたけど俺のせいか。反省しないと」
「いえ! その必要はありません!」
俺の言葉にいち早く答えたのはウェンディーだった。
すぐにステファンが追従する。
「そうそう、唯一反省するべきならご自愛して下さらなかった事ですよ。
もう最近皆心配も限界だったんですから」
「さぁさぁ、もう良いですから寝に行きましょう」
グイグイと引っ張るキャシーに抵抗せず身を任せる。
「3人とも、任せましたよ。
ご主人様。こちらはお任せ下さいませ」
俺から見ても完璧と思える作法で告げてきたリーダーのマイケル。
うん、じゃぁもう任せよう。
「分かった。うん、これからはもっと皆の声を聞くよ」
そう皆に返したら、笑顔が返って来た。
まだまだ全然人材派遣も出来ておらず、資金の底も見えかけてきているけど。それが本当に大した事ないように思えてくる。
親父、お袋。成人してもまだまだ半人前な俺だけど、楽しくやってるぜ。
ご閲覧頂き誠にありがとうございました。
あらすじにもございますが、起承転結の起の部分の練習も含まれています。少しでも続きを読みたいなぁと思って頂ければ目的は達成って事ですね。
設定もある程度は煮詰めてありますが……冗長になっても仕方ないですので全部封印。これで詰め込めすぎじゃぁなくなったかな?
それでは、最後に改めまして読んで頂きありがとうございました。