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任務

 その年の冬、日本の治安状態は歴史上類を見ないほど悪化していた。万引きや置き引きなどは序の口、殺人事件の件数は過去最悪と言える数字をたたき出し、その規模ももはや「殺人」などと言う生易しいものは日常茶飯事、組織での狂気とも言える大量虐殺が後を絶たず毎日何百人という数の死者が出ていた。警察は血眼になって犯人グループを追ったが、逮捕しようとすれば返り討ちに遭い運良く逮捕連行できても罪状が多すぎて裏付けや証拠集めが困難な程の件数だった。政府はこの異常事態を受け新たに刑事事件に関する法律を打ち立てた。法と呼ぶことを躊躇うほどに残酷なそれは『ブラッディデット』と呼ばれ大量虐殺を三件以行った組織あるいは個人に対して施行されるが、逮捕されるわけではなくその場で処分というかつて類を見ない程残酷で無慈悲なものだった。そんな残酷かつ無慈悲な法を「任務」と称し行っているのは特別な能力を持った少年少女だった。彼女たちが所属するのは[警視庁刑事部特種凶行犯罪捜査課特別処理係特殊能力隊]という組織でその中でも群を抜いて目立っていたのは『チーム・bloody rose』と言う若干16歳の少女が率いる隊で隊と言っても彼女を入れて3人という少人数の精鋭部隊だ。メンバーはリーダーの茨城紅〈イバラギベニ〉・蝶舞寺飛悟〈チョウマイジヒュウウゴ〉・花王院蓮華〈カオウインレンゲ〉の三人だ。黒い薔薇のコサージュが付いたリボンを腰に巻いた濃紺ワンピース姿で腰まである黒髪を靡かせる少女とYシャツにスラックスという高校の制服のような服をきっちりと着て黒い短髪の髪、傍らに木刀を持った青年と同じような格好に金髪赤メッシュの青年といういささかちぐはぐな三人組だ。

「飛悟、ボクの目に映っているのは幻覚か何かかい?」

隣りに立つ飛悟を見上げながら呆れを含んだ声で首を傾げたのは紅だ。紅は自分の事をボクと言い喋り方も独特だ。

「幻覚ではないな。アレは確かに蓮華だ。」

見た目通りの話し方で応じる飛悟はその足をついと目の前の蓮華らしき物体にぶつけた。

「いったー!痛いよ飛悟。何するの?」

「特に意味はない。」

「無いのかよ!?」

大袈裟ともいえる声を上げ飛びのいた蓮華は手に箱の様な物を持って立っていた。

「それは何だい蓮華。」

紅は首を傾げる。

「あぁこれ?最新型の爆弾だって。」

「爆弾?」

「そ、なんかね、今度からはやつらを始末したら痕跡を消す為に根城とか拠点を破壊するんだって。」

「面倒だな。」

「紅ちゃんそんな事言わないの。」

二人がそんな話をしていると

「しかし何でまた急に拠点の破壊なんかするんだ?今までしてこなかっただろう?」

飛悟は首を傾げる。

「あぁソレなんだけどな。なんでも証拠が残ると厄介だとか?言ってた。」

「ふん。ボク等のような人間が作られること自体が異常な事なんだし、今更爆弾で建物もろとも死体を始末しろと言われたところで別段驚きはしないけどね。」

紅はクスクスと笑う。紅を含めた特殊能力隊の人間は皆、何らかの人体改造をされていた。大抵は筋力や運動能力の向上のみだが、紅には特別な能力が有った為、隊の中の誰よりも強いのだ。

「紅。司令部から連絡だ。」

紅が楽しそうに笑っていると飛悟が呟いた。

「あぁ。適当に返事をしておけばいいよ。」

つまらなそうに言った紅は蓮華が持っていた箱型の爆弾を弄っている。

「紅。」

「なんだい飛悟。」

「危ないんじゃないか?」

「ただの箱だ。たぶん何かに当たると爆発するタイプ{カチッ}……ん?何か押してしまった。」

「スイッチじゃない?ほら、カウントダウンが……って紅ちゃん何やってんの!爆発しちゃうじゃん!」

「そうなのか?」

「普通そうでしょ!」

「ふむ。」

「逃げないと!」

二人が漫才の様なやりとりをしていると

「紅、仕事だ。それから……{カチッ}入れたスイッチは切れば良い。」

そう言った飛悟は紅の押したスイッチを押しなおした。

「ほら。」

「案外簡単に止められるんだな。」

「逃げて損したぁ。」

机の下に避難していた蓮華がブーブー言いながら這い出てきた。

「蓮華は大袈裟なんだよ。で、飛悟、仕事内容は何だ?」

「聞こえていたのか。あぁ、例の奴らが動き出したらしい。トップ二人以外を“処分”して来るようにと上からの連絡があった。“処分”しない二人は連れ帰るようにとの事だ。」

「連れ帰る?」

「あぁ。実験に使うんだろう?」

「人間コーディネートか。不憫だな。」

「とりあえず、行かないか?」

「そうだな。蓮華。仕事だよ。」

「ほーい!」

「返事はハイだ。」

「ラジャッ!」

「もういい。飛悟、場所は?」

「セントラルタウン東の廃ビルだな。」

 そんな会話から約30分後紅たちは埃にまみれた廃ビルの一角にいた。広々としたその空間はおそらく談話室のように使われる予定だったのであろう。そんなスペースに数人の青年たちが円を描くようにして座り込みなにやら談笑をしている。見たところ皆二十代前半だ。服装はバラバラだが右肩もしくは右手の甲に揃いのタトゥーをしている。いかにも不良ですと言った出で立ちの青年たちのもとへと紅は静かに近づく。廃ビルの崩れた天井からさす月明かりがシルエットのみだった紅の姿を、紅の人形のような顔をはっきりと浮かび上がらせる。

「君たちがブルースカルかい?」

紅は何の躊躇いも無く目の前の『ザ・不良』たちに向かって質問を投げかける。小さく放たれた凛と澄んだその声は廃ビルのコンクリートに反響し数メートル先に座り込んでいた不良達にしっかり届いた。

「んだテメェ!」

不良の一人が振り向いて声を上げたが

「おいカズ、あんなガキほっとけ。」

隣に座っていたもう一人に言われ

「それもそうだな。」

そう言って仲間との談笑に戻ろうとしたが

「そんなガキとは随分無礼な物言いだね。」

紅の声に

「あぁ!ガキにガキっつって何が悪ぃんだよ!」

と、お決まりのセリフをはいた。

「まったく、情報通りだね君は。」

紅はやれやれと言ったように溜息をつく。

「なんだと!」

いきり立つ不良を前に怯える様子もなく紅は淡々と話し出す。

「単細胞。いや、バカと言ったほうがわかりやすいかな?九条和人〈クジョウカズト〉。二十歳。地元の高校を中 

退後、ブルースカルに入り抗争などにおける特攻隊長として現在にいたる、と。君は一人息子だそうだね。ご

両親が知ったらさぞお嘆きになるだろうね。」

紅はそこまで話すとフンッと鼻で笑う。

「うるせぇ!テメェみてぇなクソガキに何がわかんだよ!」

「わからないさ。でも、君の間違いはわかるよ。」

「は?」

「ボクはガキと言われるほどガキじゃないよ。まぁ君より……と言うより君たち全員よりは年下だけれど。」

「あ?何言ってやがる。どう見たって小学生じゃねぇか。」

九条がそう言った瞬間彼の肩に手が置かれた。青い髑髏のタトゥーの入った手の持ち主は九条の肩越しにぬっと顔を突き出すと紅を頭の先から爪先までをじっと眺め

「アンタもしかして紅姫〈ベニヒメ〉か?」

と小さく呟いた。だが紅姫と呼ばれた紅の耳にはその小さな呟きもしっかりと届いていた。紅は嬉しそうに微笑むと

「君とはまともに話が出来そうだね。」

と言い。

「君の名前は淺沼龍聖〈アサヌマリュウセイ〉で合ってるかい?」

「あぁ。」

「そうか。淺沼龍聖。君は……あぁ、ボクよりも9つも年上なんだね。」

「じゃあアンタは16って事か。」

「そうだよ。」

二人がのんびりと情報交換をしていると、九条が身を乗り出すようにして紅の顔を覗き込んだ。

「オイオイ龍聖。冗談キツイゼ。これのどこが16なんだよ。まんま小学生じゃねぇか。」

九条がそう言った途端、紅姫の顔から笑顔が消えた。

「本当に君は無礼だな。」

「あぁ?」

「ボクは正真正銘の16だ。飛び級で大学も卒業している。」

「マジか。」

「当然だ。警察官なんだからな。」

「はぁ!?龍聖。この女マジでサツなのか?」

聞かれた淺沼は少し首を傾げると

「さぁな。俺が知ってるのは。「紅姫」って名前と、あの人形みたいな顔だけだ。」

少女は溜息を吐くと

「君は何も知らないんだね。無知にも程があるよ。まぁ、高校を中退してチーマーになどなっているじてんで身の程はしれているか。まぁ、淺沼の方もボクの事は殆ど知らないようだし仕方無いね。」

「なんだとこのクソアマがぁ!」

「待て、カズ!」

淺沼が慌てて止めるのも聞かずに紅に掴み掛かろうとした九条の喉もとに竹刀がめり込んだ。その状態から勢いに任せて振り切られた竹刀が九条の体をボロ雑巾のように吹き飛ばした。

「汚い手で紅に触れるな。」

振り切った竹刀を体の横位置に戻しながら口を開いたのは飛悟だった。

「紅……怪我は?」

飛悟は心配そうに声を掛ける。紅は無表情で飛悟を見上げると溜息を吐いて

「飛悟……怪我をしたのは九条和人の方だよ。」

「紅に手を出した。」

「出そうとした。だろう?」

「そうともいう。」

「まったく。」

紅が溜息を吐いていると、龍聖が恐る恐る口を開いた。

「おっお前。蝶舞寺飛悟か。」

「だったら何だ。」

「何でお前みたいなのが紅姫と一緒にいるんだ。お前族のヘッドだろ?オタクのアイドルとは無縁のはずじゃ。」

「さっき言っただろう。ボクは警察官だと。」

「へっ?」

「飛悟はボクの仲間だ。」

「下僕でもいい。」

飛悟が真顔で言うと

「君は黙っていたまえ。飛悟。」

紅からツッコミが入る。

「何でだよ。族のヘッドが警官のお仲間なわけないじゃないか。」

淺沼は軽くパニックに陥ったのか瞳孔が開いていた。

「君も存外無知だな。」

紅はまた溜息をつく。

「俺は警察官だ。」

「は?」

「俺はヘッド云々の前に警察官だ。」

「嘘……だろ?」

「嘘じゃないよ。飛悟とボクは警察官だ。あぁ、自己紹介がまだだったね。僕の名前は荊城紅だよ。君も聞いことくらいは有るだろう?」

「荊城……紅……あのレディースの関東一。鮮血の紅薔薇なのか?」

「あぁ。そんな呼ばれ方もしていたかもしれないね。まぁ、昔の話だよ。」

「紅は紅だ。」

それを聞いた浅沼はガタガタと震えだした。その時飛悟に弾き飛ばされ壁にめり込み気を失っていた九条が起きだしてきて

「いってぇな。テメェよくもやってくれたな。」

とこれまたお決まりなセリフをはいて

「オイお前ら!やっちまえ。」

お約束な掛け声をかけた。が、

「ねぇ。お前らってもしかしてこの人達の事ぉ?」

と、ちょっと間の抜けた声が返事をした。九条は振り向きつつ

「何マヌケな事言ってやが……」

九条のセリフは途中で途切れた。

「やっ!」

そこにはボロ雑巾のように積まれた仲間たちとその頂上に座り足をブラブラさせている蓮華が九条にニコニコと手を振っていた。そんな彼は

「誰だテメェは!?」

と聞かれ

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!正義の味方花王院蓮華君只今参上!」

とノリノリで名乗ったが 

「呼んでねぇよ!」

と九条に一喝されちょっとションボリするが

「蓮華。君はいったいそこで何をしているんだい?」

と聞かれ待ってましたとばかりに二カーっと笑うと

「暇つぶし。」

肩を竦めながらアメリカのコメディドラマのように言ってのけた

「暇つぶし?」

「そうそう。だぁって紅ちゃんはな……」

「少し待ちたまえ。」

「なんでよ?」

「その呼び方は止めろと言ったはずだが?」

「いーじゃん。可愛いんだから。」

言われた紅は少し顔をしかめたが溜息をつくと

「もういい好きにしたまえ。」

と、吐き棄てるように言った。

「うん。でね、紅ちゃん達の話があまりにも長くてそっちの……九条君だっけ?は飛悟にふっとばされちゃうし、退屈だからこっちのお兄さんたちに奥の部屋で相手してもらったんだけど、ヤベェの!」

「何がヤバイんだ。」

「メチャクチャ弱ぇの!もう、ビックリ。殺さないように頑張っ た。頑張った俺!」

「そうか。」

「てか、こいつらAランクじゃねぇの?ねぇ紅ちゃん。」

「そうだね。正確にはAダッシュ。AとBの間だけれどね。」

「ふぅん。難しい事わかんないや。」

「じゃあ聞くな。」

「飛悟五月蝿いよ。おかしいよAランクのやつらがこんなに弱いなんてさ。」

「蓮華。君は自分がどんな人間なのかわかっているのかい?」

「え?総合格闘技全クラス無敗王者。ボクシング全クラス無敗王者。」

「いつ聞いても化物並みだね。そんな君にたかが不良がかなうと思うかい?」

「無理なの?」

「当たり前だ。本来プロボクサーは人を殴れない。殴ってはいけないんだ。」

「飛悟詳しいね。」

「武術の心得だ。」

「ふぅん。何でもいいけどあいつ等なら思いっきりやっていの?」

「ダメだよ蓮華。今日の仕事はあの二人を本部へ持ち帰る事だからね。」

「持ち帰るって紅ちゃん。人を物みたいに言わないの。」

「物だよ。」

「どゆ意味?」

「あの二人は本部で実験用サンプルにするんだそうだ。」

「サンプルって……もしかしてアレの?」

「だろうね。」  

「うわーマジでか。あんなんに使われんなら俺は殺される方を選ぶね。」

蓮華はウゲェ~っと露骨に顔をしかめる。

「心配しなくても君がサンプル候補に挙がる事はないよ。」

紅は少しだけ微笑んで 

「飛悟もそう思うだろう?」

飛悟を見上げた。飛悟はジッと蓮華を見つめると馬鹿にしたように鼻で笑った。

「えっちょっと何よ。何で笑うの?」

「知らない方がいい事もあるよ。」 

「気になるよ!」 

蓮華が気になる気になると騒いでいる所へ少し落ち着いたのか淺沼の声が届く。

「おい。本部って何だよ。茨城紅の仕事は組織やチームの壊滅じゃないのか?」

「普段はね。」

「普段?」

淺沼の問いかけに応じたのは飛悟で

「俺たちは警察官であって警察官じゃない。」

「どういう意味だよ?」

淺沼の発した疑問に紅はやれやれと首を振ると口を開く

「考えてもみたまえ。ボクは大学は出ているがまだ16だ。飛悟と蓮華もまだ17だしね。そんなボクらが正規

の警察官になどなれると思うかい?答はノーだ。ボクらは能力を買われて政府に雇われている。基本的な仕事は君が言ったとおりだが、もう一つ特別な仕事が有るんだ。」

紅はそこまで言うといったん言葉を切る。淺沼は自分の背中を嫌な汗が流れるのを感じながら口を開く

「そのもう一つの仕事ってのがその本部とやらに関係有るのか?」

その問いには

「無かったらわざわざ話さねーよ。バーカ!」

と蓮華がニシシと笑いながら答え

「アイツはサンプル候補だ。少なくともお前よりは賢い。」

と飛悟が言った。それを聞いていた淺沼は

「なぁ。どう言うことだよ?俺は生け捕りにされるのか。」

「端的に言えばそうだね。」

「具体的にはどんな目にあうんだ?」

「正確な事はボクも知らない。ただ、ボクらがいる本部……つまりこれから君を連れていく場所はちょっとした研究施設なんだ。」

「研究施設?」

「そう。政府が極秘裏に進めている『人間コーディネート』の研究施設だ。」

「『人間コーディネート』?」

「そうだよ。簡単に言えば、遺伝子や細胞、ホルモン分泌に手を加え、より頑丈で知的能力の高い人間を作り出すと云う事だね。」

「何で生きた人間でやる?最初から作ればいいじゃないか。」

「これは人間をつくる研究じゃない。既に存在する人間を改造し、生まれ変わらせる研究なんだよ。」

「ならなぜ、俺と九条の二人を連れていく?他の奴でも、それこそ九条だけでも良いはずだろう?」

「君もくどい男だね。ボクは君たち二人を連れ帰れと言われただけだ。なぜ君たち二人が選ばれたかどの詳し 

い事情は知らない。まぁ一つだけわかる事があるとすれば……君たちは国に見捨てられたという事ぐらいかな?」

「どう言う意味だ?」

「君は自分が一級犯罪者であることを知っているかい?」

「一級犯罪者?」

「そうだよ。君は……いや、君たちブルースカルは沢山の人を殺めた。これは第一級犯罪に当たるんだ。だが、これはあくまで裁判にかけられる場合に適応されるものであって君には適応されない。」

「なんでだよ?」

「君たちには裁判など必要ないと国が判断したからだ。」

「つまり、無罪?」

淺沼のその問いに答えたのは意外にも蓮華だった。

「違う違う!無罪じゃなくてし・け・い!」

「死刑?」

「そうだよぉ。淺沼君は死刑!裁判無しで、問答無用で、し・け・い!」

「どうしてだよ?普通裁判をするから死刑になるんだろ?」

「それについてはボクが説明するよ。」

口を開いた紅は溜息をつくと

「君たちブルースカルは人を殺した。いや、殺しすぎた。」

「殺しすぎた?」

「そうだよ。飛悟。」

呼ばれた飛悟はノートパソコンを操作すると、紅に差し出した。

「ここに有るデータによると君たちは少なくとも百人の人間を殺している。」

そこまで言うと紅はまた溜息を吐いた。

「それにしても一晩で百人とは。神業だね。」

「お前らに言われたくねぇよ。」

淺沼は小さく溜息を吐く。

「それもそうだね。」

「んだんだ。」

蓮華がちゃちゃを入れるが紅はそれを無視し話を進める。

「本来ならば第一級犯罪者である君と九条和人、それからそっちのお仲間たちは裁判にかけられ正規の手続きを取ったうえで最悪の場合死刑、良くて無期懲役か禁固刑だろう。だが、君たちの殺人は規模が大きすぎた。だから国は君たちを処分することにした。」

「処分?」

淺沼は訳がわからずに首を傾げた。

「処分て何だよ?最終的に死刑になるなら裁判うけさせろよそれが普通だろ。」

淺沼の言葉に反応したのは飛悟で  

「普通?百人もの人間を殺しておいてまだ自分が普通だと言うのか。滑稽だな。お前らは百人殺した時点でもう普通じゃないんだよ。裁判は普通の犯罪者の為のものだ。普通じゃないお前らには裁判をうける権利がない。」

飛悟は鼻で笑うと隣に立つ紅に目を向ける。紅は小さく息をはくと

「君たちブルースカルは裁判にかけるまでもなく死刑だ。だから国は君たちの裁判はしないと決めた。だからと言って野放しにはできない。そこで国は極秘裏に君たちブルースカルの存在を消すことにしたんだ。ボクたち『チーム・bloody rose』を使ってね。」

「『チーム・bloody rose』」

「そうだ。君たちのように処分対象になった一級犯罪者を処分するのがボクたちの仕事だ。『チーム・bloody rose』の、ね。」

「なら殺すのが仕事なんだろ?」

「基本はね。ただ今回は、君と九条の能力値の高さを本部がえらく気に入っていてね。連れ帰れと言われたんだ。」

「じゃあ他の連中は?」

「ああ、お仲間の事は心配はいらないよ。蓮華に処分させるからね。」

「助けてはくれないのか?」

淺沼の言葉にゲラゲラと笑いながら蓮華は言った。

「おっ前意外と頭悪いのな!」

「へっ?」

淺沼の呆けた声に対して蓮華は顔から笑顔を消すと

「助けるわけねぇだろ。お前らブルースカルはチーム全体が処分対象なんだよ。」

そう言ってニヤリと笑うと

「良かったじゃねぇか。この場でオレに殺されずにすんで、俺は素手で仕事するから処分対象者はきっと痛い思いしてるぜ。」

紅はそれを聞くとやれやれと首を振り

「蓮華、余計な事を喋るのはやめたまえ。」

と言い

「飛悟、淺沼と九条をさっさと縛ってしまいたまえ。」

テキパキと飛悟に指示を出した。

「わかった。」

言われた飛悟はポケットからピアノ線を取りだし九条の体に巻いていく。

「テメェ!放せコラッ!」

九条が暴れようとするが

「動かない方がいい。これはピアノ線だ、テグスとはわけが違う。むやみに動けば体から血が噴き出きぞ。」

「ヒッ!」

九条は飛悟の言葉を聞くと抵抗をやめた。

「カズ!」

助けに走ろうとした淺沼の体に薔薇の蔦が巻きつく。

「何だこれ。」

「君は賢いのに随分と浅はかだね。」

その蔦は紅のワンピースの袖口から延びていて先程まで黒かった紅の瞳〈メ〉が紅く光っていた。

「お前何者だ?」

淺沼の声が震えた。対する紅は淺沼に向けた無表情を崩すことなく

「ボクは荊城紅。薔薇使いの紅だ。別に手から生えてるわけじゃないよ。」

そう言うと紅は手元の蔦を引いた。

「うわっ!」

惹かれた蔦は淺沼の体を簡単に引き倒した。倒れ込んだ淺沼に紅が歩み寄る。

「淺沼龍聖。少し大人しくしていたまえ。そこの不用品を蓮華に処分させたら本部へのドライブが待っている。 

まぁ楽しくは無いだろうけどね。」

言われた淺沼の目は何かに憑かれた様に紅く光る紅の瞳を見ている。

「ああ、もう聞こえてはいないか。だから瞳は使いたくないんだ。蓮華。」

「んぁ?」

突然呼ばれた蓮華は間抜けな声を出して目をパチクリさせている。だが、引き倒され呆けた目で紅を見つめる淺沼を見てニヤリと笑うと

「なんだよ。あのゴミの処理全部やれってか?マジでか。」

「ツベコベ言わずにやりたまえ。」

「へいへい。てかぁ、どうせ処分するならさっきやっときゃ良かったじゃん。」

「さっきは淺沼も九条も正気だったからね。仮にも一般人の彼らにあの惨状を見せては精神が崩壊しかねない。それではダメなのだよ。」

「あっそ。何でも良いや。ゴミの処分開始しまぁす。」

「早くしたまえ。ボクはもう眠い。」

紅のその一言を最後に廃ビルに話し声が聞こえる事は無くなりかわりに骨の折れる音と屈強な不良たちの断末魔が響いた。

「処理作業完了しましたぁ。」

十分後、血の海と化した廃ビルの真ん中で蓮華はニコニコと笑いながら敬礼をしていた。

「終わったなら、早く淺沼と九条を車へ乗せたまえ。」

「紅。」

「なんだい飛悟。」

「ここは爆破するのか?」

「あぁ。蓮華。」

「ラジャッ!あ、カチッとな!」

蓮華はそう言うとカウントの始まった爆弾を廃ビルに投げ込んだ。

「だけどさぁ」

蓮華は首を傾げる。

「上の人はなんであの二人にしたんだろう?」

「考えてもお前には解らない。」

飛悟の冷静な物言いに

「それもそうかぁ。」

笑いながら飛悟肩をバシバシ叩く蓮華は白いYシャツに返り血を浴びていて、もちろんその手も血が付い

ている。なので

「やめろ、蓮華。Yシャツが汚れる。」

「はぁ?シャツなんか洗えば良いじゃん。」

「五月蝿いよ二人とも。それと蓮華。間違ってもその手でボクに触れないでくれたまえよ。」

「え?」

「触るなと言ったんだ。聞こえなかったかい?」

今まさに紅へ手を伸ばそうとしていた蓮華の腕を紅の蔦がギリギリと絞めつける。

「痛い痛い痛い!」

「自業自得だな。」

飛悟に鼻で笑われ、涙目になりながら睨みつける蓮華とそれを冷ややかな視線で返す飛悟を横目で見やり紅は溜息をついた。

「まったく。仕事中の方がまだましだ。二人とも喧嘩などくだらない遊びをしていないでさっさと帰る準備をしたまえ。」

「イエッサ!」

「了承した。」

紅は小さく笑うと

「君たちには罰が下ったんだよ。死刑より残酷な『チーム・bloody rose』による罰がね。」

そう、後ろの死体たちに囁いて静かに目を閉じた。


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