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スナイパー・ケア

随分以前にとあるブログで使った小ネタを使い回してるトコがありますが、知ってるかたは目をつぶってください(^^;)

 俺の名前は……おっと、残念ながら名前を明かすわけにはいかんな。コードネームで『ケア』と呼んでもらおうか。

 つまり裏社会に生きるエージェントってわけだ。


 仕事内容?


 ふ、残念ながらそれも言うわけにはいかないな。とある組織に雇われたエージェント……それだけで十分だろう。


 ピリリリリリ!


 高層マンションから夜景を眺め、葉巻をくゆらせている俺の耳に耳障りな携帯電話が無粋を働いた。また仕事の依頼だろう。


 今度はどんなミッションだ?


 テーブルの上で点滅している携帯を手に取ると、美しくなめされたクリーム色のソファへ腰を沈める。そしておもむろにフリップを開いた。


「わたしだ……」


『ああ、健二ね!おばあちゃんばってんね、いま大変なことになっとうとよ!』


「あの、もしもし?間違いだと思い……」


『台所で油が燃えとるんやけど110番したほうが良かとやろうか?』


「119っ!119番ですから!(`Д`;)」


『あー、そうやったね。ところであんたご飯は食べていけよるとね?』


「早よせんかーっ!」


 プーッ、プーッ、プーッ……


 俺としたことが、一般人を助けるとはヤキが回ったな。


 自嘲気味に笑うと葉巻をクリスタルの灰皿に押し付ける。

 そのとき再び携帯が呼び出し音を鳴らした。今度は間違いなく組織からだ。ボスが直接かけてきたということは極秘任務のようだな。


「わたしだ」


『……わたしのセリフだぞ』


「……で?」


『聞けやこら……。まあいい仕事だ。トップシークレットで緊急だが……やれるか?』


「ふん、わたしを誰だと」


「そうだったな。ではこれより○○駅のトイレに別のエージェントを送る。指示はそこで受けてくれ」



 街の喧騒は眠ることを忘れたかのようだ。そこに溶け込むようにして俺は歩いていた。

 黒のスーツに黒のネクタイはせめて俺に殺される奴へのレクイエム。胸のホルスターに収まる357マグナムが血を欲して疼いているようだ。ズシリと重量感を主張し、その凶弾を吐き出すのを今か今かと待っている。


 ここか……


 交差点脇の歩道にそこだけがぽっかりと明るい口を開けている。この地下鉄の駅のトイレで次の指示を受け取らなければならない。

 革靴の響かせる硬質な足音が狭い通路に反響し、それは俺自身が死神にでもなったかのような錯覚に陥る。


『沈着冷静のケア』


 エージェント仲間からはそう呼ばれていた。常に慌てることなく顔色ひとつ変えずにターゲットを始末する。それが俺をそう呼ばせるゆえんなのだ。


 と、階段を降りる俺の前方から、ひとりの女が上がってくるようだ。しかし……


 こいつは!


 本能からはじき出される信号により、俺は一瞬で戦闘態勢に入る。それまで弛緩させていた神経を研ぎ澄まされた刃物のように変化させると身構えた。


 あと3m……2m……1m……


 直視してはいけない。視線はまっすぐ前方に向けながら視界の端でターゲットを確認するのがプロの技というものだ。そしてもちろん殺気は消し去らねばならない。素人には所詮無理難題だろうが……


 そして……すれ違ったその瞬間!



 チラ見。



 よっしゃあ!完璧なギャルだ。デニムのフレアの超ミニスカのしたからはやや浅黒いしなやかな脚が伸びている。そしてその奥にはパラダイスが待ち受けているに違いない。今日はついてる♪


 首をすかさず回すとおもむろに腰をかがめ、視線の仰角を徐々に上げてゆく。

 ここで素人は間違いを犯す。殺気をみなぎらせているために女の勘を働かせてしまうのだ。


 まだだ……まだ……


 じわりと腰を反対方向へ回すと両手を階段へつく。



 おお!幸せの黄色いパンツですぞー♪(*´▽`*)


 しかし俺としたことが狂喜のあまり殺気を漏らしてしまったようだ。その刹那、女がこちらを振り向いた。


「ちょっ、何すんだ変態!」


「なんじゃこらーっ!」


 我ながらナイスな逆ギレである。さらに畳み掛けるように俺は言い放つ。


「ここで腕立て伏せして体を鍛えるのがなぜ悪いか!」


 もちろんこれには他に『通学路ほふく全身』『エスカレーター腹筋』など色んなバージョンも取り揃えていることは言うまでもない。

 女は歯噛みして階段を駆け上がっていった。見事な完全勝利である。


 おっと……仕事を忘れるところだったな。


 肩慣らしの前哨戦に気を良くした俺は、足取りも軽く駅構内のトイレへと踏み入れた。個室が三つ並び、向かいには小便器が五つ。極々オーソドックスなつくりと言えよう。目立つのはまずい。真ん中の個室に体を滑り込ませ、扉を閉めた。


 待つ時間はほとんど無かったと言ってよい。足音がトイレの中に侵入してくると、それは躊躇することなく隣のドアを開いた。

 極秘任務は得てして人目につかぬよう指令が下される。果たして薄い壁越しに話しかけられた。


「俺だけど」


 俺?誰だいったい?

 いやまてよ。もしやこれはあの人のことでは。『俺』ではなく『オーレ』と言ったのだとしたら彼しか居ない。

 ブラジルの殺人鬼『オーレ・斉藤』だ。もはや伝説だと思っていたが……


「まさか伝説のあんたにこんなところで会えるとは思ってもみなかったな」


 同じ稼業をやる者にとっては雲の上の存在と言われている男だ。俺の胸にも感慨深い想いが湧き起こる。

 そして彼はこう言った。


「調子はどう?」


 なんだおい、随分フレンドリーなしゃべり方だな。


「まあまあですな」


 任務の遂行の可否を心配しているのだろうか?ふふ……いくらあんたでも俺をなめて貰っては困るというものだ。

 俺の手にかかればあのトム・ク●ーズでさえ裸で逃げ出して猥褻物陳列罪でブタ箱行きだぜ。

 しかし次に彼が放った言葉は俺を愕然とさせた。


「ボーナス出た?」


 なんだと?! ボーナス?



 ちょっと待て、この仕事を始めて既に20年になるが、ボーナスなど一度たりとて貰ったことはないぞ……

 もしかして他の奴はみんな貰っているのか?


 ここは素直に答えるべきだろうか? いやしかし、俺だけ貰ってないとなればそれだけ評価が低いと言うことを公言する事に他ならない。


 いや、そんなことがある訳はない!


「も、もちろん」


 やはり貰ってないなどとは……俺のプライドが許さなかった。すると彼はこう言った。


「ごめん、隣に変な奴がいるみたい。かけなおすから」




 なんだとおっ!( ̄□ ̄;)




 とりあえず隣の個室に向かって三発ほど弾丸を撃ち込んでおく。秘密保持の為ならば致し方ないだろう。


「おいおい、サイレンサーも無いのに……」


 反対側の個室から聞き覚えのある声。いったいいつの間に……


「……相変わらずの無茶ぶりだな。『品格0点』のケア君」


「『沈着冷静』だ! 何度言えば分かるんだ、ジョニー?」


「さて、これからの指令だが」


「聞けって、俺の話を」


「これから歌舞伎町へ行ってもらう。そこで次のエージェントが声をかけてくる手筈になっている。声を掛けられたら合い言葉を言うんだ」


 随分と危険な場所だな。この俺にしか出来ないミッションのようだ。


「で、合い言葉だが……『ハイよろこんでー!』だ。後はそのエージェントから指示があるだろう」


「なるほどわかった」


「おっともう一つ。もう時間がない。悪いが全力で急いでもらおう……欽ちゃん走りで」


 なんと、かなり過酷な指令だな。まあ目立たぬように急ぐためなら致し方ないだろう。


「わかった。ところでジョニー、あんたボーナスは貰ったか?」


「もちろんだ。なぜだ?」


「いや……なんでもない」



 人混みを縫うようにして俺は風を切り、涙を切って走り抜ける……欽ちゃん走りで。


 今日の俺は危ないぜ。ターゲットには悪いが容赦はしない。血の海に沈めてぶちまけた脳みそを集めて『ウンコマン』と書いとこう。




 俺は予定の時間に遅れることなく、雑多な欲望の匂いの立ち込める歓楽街へと足を踏み入れた。


 さて……エージェントはどこだ?


 組織の人間らしき闇の匂いを纏う奴を嗅ぎ分けながらゆっくりと歩みを進める。

 だが、十歩と歩いていないだろう。すぐに黒服に身を包んだ男が声を掛けてきた。


 どう見ても一般人には見えない。一見ほがらかに見せてその実鋭い目線を四方に走らせている。どうやらコイツのようだ。


「どうですか?若い娘いますよ〜♪」


「ハイよろこんでー!」


「やる気満々ですね!どうぞこちらへ♪」


 奴の言われるままについて行くと、いかにも怪しげな店に侵入してゆく。


 ほう、いきなり正面からか……気に入ったぞ。


 武者震いに体をよじらせながら、俺も堂々と足を踏み入れる。暗い店内に怪しげな音楽が流れ、カウンターだけが明かりに照らされている。


「どんなのが好みですか?」


 奴はメニューのようなものを掲げて俺に見せてきた。なるほど、殺し方は任せるということか。


「今日は血に飢えてるんでな」


「あー……いまちょっとSコースは空いてないんです。Mコースでどうでしょうか?」


「どっちでもいいぞ」


 殺し方などどれも似たり寄ったりだ。その殺し方をしてくれと言われれば俺はプロだ。きっちりと仕事をこなすだけさ。


「それじゃ2万円ちょうどになります」


 なにいーっ!?


 それは一体どういう訳だ?貰うならともかく仕事前に金を払うなど聞いたことがない。


「いつから先に金を払うようになったんだ?」


「いやいや、当たり前ですよ。その代わりアッチは保証しますから♪」


 なるほど、保証金と言うわけか。それならば良いだろう。とりあえず言われた通りの仕事を済ませば問題ないはずだ。


「ではこちらへどうぞ」


 さらに奥の小部屋に連れて行かれた俺の目の前にはきわどいレザーファッションに身を包んだ女がふんぞり返って座っていた。

 もしやこの女はクライアントなのだろうか?


「俺はどうすれば良いんだ?」


 まず詳しい要求を聞くために口を開いた。


「パンツ脱いで四つん這いになってケツあげな!」


「えっ?('▽'?)」




 ビシーッ!ビシーッ!


「ほらほら、もっと良い声でお鳴き!」


「ハイよろこんでー!(TДT;)」


 ぬうう……今日のミッションはハードだぜ……




 おわり

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