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その3

次にクマが眼を覚ました時は、とっくに一日が過ぎ、次の日の早朝でした。

外は小雨が降っているようで、しとしとと小気味の良い音が聞こえてきます。


クマはこんな雨が好きでした。

水に濡れるのも好きだし、この音をただ聞いているだけでも気分が良い。

なにより虹が見れるかもしれないという、この期待感が好きでした。

( もうすぐやみそうだなぁ、この雨。虹出るかなー)

クマがふらふらと寝起きのまま、ほら穴の出口へ向かうと。




ざぽん!




「 うわ、何だ冷てっ!?」

ほら穴の出口にあった、水溜りに足を突っ込んでしまったクマ。

冷たい水に驚いてフクロウもおきてしまいました。




( あれ?ごめん起こしちゃったね。なーんでこんな所に水溜りができてるんだろ。

 ほら穴は雨が降っても水が入ってこないようにしてあるのに)

不思議そうにクマが水溜りをかき回してみると、どうやら水溜りの底には小石が敷き詰めてあるようです。


( ・・・?なんだろこのミゾ)

さらに、水溜りからは細い水路が飛び出ていて、外まで続いているようです。

ほら穴の出口は小さな段差があり、そのおかげで雨水が入ってくる事はないのですが、その段差も丁寧に一部削られて水路になっています。

( この水路にも小石が・・・妙に細かいなぁ)

感心しながら水溜りと水路を見つめていたクマですが、ふと何かに気付いたように急に目つきが険しくなりました。




( ・・・君の仕業だね?こんな手の込んだイタズラしてどうしたのさ?)

にらまれて(自分をにらむ事など出来ないので本当の意味でにらまれてはいないのですが)フクロウは慌てて弁解しはじめました。

「 ちょ!・・・っと、待てよ。イタズラなんかじゃないって。ちゃんと意味があって作ったんだよ」

イタズラだと思われる事が心外だったようです。

そういえば水溜りはほら穴出口の端っこに作ってあり、普通に出入りする分には邪魔にはならなさそう。

「 やんだな、雨。もうすぐ日も照ってくるだろうから。よく見てみろよ」


言われて、クマは素直に水溜りを覗き込みました。

雨上がりの太陽が出て、ほら穴の中が明るくなってくると・・・

( あ、これ今の僕の顔か。うわー面白い顔してるなぁ)

水路の小石にろ過されて、澄んだ水溜りが映し出したのは、クマとフクロウの、オウルベアの顔でした。

頭も目もまんまる、クチバシは鋭くとがってはいますが綺麗な弧を描いて曲がっており、丸い目とのバランスからなんだか可愛くも見えます。

耳も丸く頭の両脇についてます。クマはちょっと太り気味だったので、全身まんまるな大きな生き物が水溜りにくっきりと映っていました。




( で・・・・これをどうするの?)

新しい自分の顔に感心しはしたものの、水溜りの意味は理解できずにクマはもう一度フクロウに聞きました。




「 それだよ。お前いつまでそうやって頭ん中で会話してるつもりだ?」

そう、クマはクチバシを使うことができないので言葉が話せなくなってしまっているのでした。

同じ身体を使っているフクロウにはクマの心の声は通じるのですが、他の動物に話しかける事は出来ません。

「 これを使えば自分のクチバシが見えるだろ。いろいろ動かしてみて練習してみろよ」

言うなり、フクロウはクマに見せるように自分でクチバシをぱくぱく動かし始めました。




( ・・・そう、だね。うわー・・・ありがとう。本当に)


クマは半分呆然としながらお礼を言いました。

自分自身よりもフクロウの方が自分の事を考えてくれていたようで、昨日のフクロウへのプレゼントが小さな恥ずかしい事のように思えました。


すっかり雨はやみ、綺麗な虹も水溜りに映りはじめました。

しかし、クマはそんな事気付きもせずに一生懸命クチバシを動かす練習をし、フクロウは見本を見せています。




クチバシを動かす練習中、二人はずっと笑顔でした。

助け合っていけば、この冬を越えるなんて簡単な事。

春までどころか一生このままでも悪くないんじゃないか、二人は半ば本気でそんな事を考えていました。


「 なぁ」

フクロウが、発声の見本ついでに語り掛けました。


( なぁに?)


「 なんか、楽しくなってきたな」


( 僕も)




楽しい未来を想い、二人が幸せを感じ始めた。


その時でした。







ガツン!!




どこかで聞いたような音がほら穴の外で響きました。

それまで水溜りに向かって発声練習を見せていたフクロウは思わず顔を上げました。


( ・・・?)

クマもなんだか思い当たるフシがあるような気がして、疑問符を浮かべています。




そっとほら穴から出て、あたりをうかがっていると、またしてもどこかで聞いたような言葉が飛んできました。




「 痛たたた・・・何ぼ~っとしてるのよ!」

威勢の良いメスのフクロウの声です。

と、同時に




( わー、ごめんなさい。虹が綺麗なもんだから見とれてたの。怪我はない?)

どこからか声にならない声が、頭に直接伝わってきました。

これもまた、どこかで聞いたような・・・




( あっら~・・・)

ほら穴のふちからちょこっと顔をのぞかせたクマは、どうやら状況が飲み込めてきたようです。

「 あるもんなんだなぁ・・・」

フクロウも、あまりの偶然にぽかんとしています。




なんにしろ。




オウルベアの春は、案外近くまで来ていたようです。






おしまい

「バルビレッジ」というコミュニティーゲームを題材とした童話でした。

いかがでしたでしょうか。


書き終わった後、インスピレーション元の「うちどころが悪かったくまの話」を

読んでみました。

全然違う話でした(←当たり前)


ちなみにこのお話、オウルベア達が繁殖して村を作った後へ続きます。

気に入って下さった方は次回をどうかお楽しみに。

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