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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

草原の女神

作者: ドラキュラ
掲載日:2010/11/07

イギリスの宿所学校に一人の男が入った。


歳は壮年で濃紺のスーツにソフト帽を被りトレンチコートを着ている。


灰銀の髪をオールバックに纏めており、琥珀色の瞳は娘の背中を見て哀しそうだった。


男の名は、草神彰久。


フランスのマルセイユに本部を置くPMC(民間軍事会社)ウェポン・ジャッカルの専務であり元フランス外人部隊第2落下傘連隊に所属していた大尉だ。


現在はウェポン・ジャッカルの武器商人として活躍している。


そんな彼はつい1週間前にアフリカの紛争地帯に人質として捕えられたNGOの団体を救出する依頼を受けて部下達を連れて向かった。


無事に救出をしたが、依頼人の裏切りに遭い仲間とNGO団体を連れて逃げる羽目になった。


何とか逃げ切る事に成功したが、その代償に大勢の部下が死んだ。


その中には、今回の仕事に自ら志願したロバート・ハリス少尉も居た。


彼とは傭兵時代からの戦友であった。


そんな彼は、作戦を遂行する前にこう言った。


『俺が死んだらエミリーを頼む』


この手の仕事は常に死と隣合わせだ。


だから、出発前には家族や恋人などと別れを惜しむ者達が居る。


ロバートもその一人だった。


娘が一人、彼にはいた。


妻は春を売る女。


それが原因で娘は周りから「お前の母親はアバズレ女だ」と言われていると聞かされた。


彰久は一度だけその女性に会った事がある。


とても心が温かくて優しい素敵な女性だ。


その女性は今は居ない。


数年前に死んでしまったのだ。


ロバートだけが娘の親族となった。


だが、そのロバートも居ない。


アフリカの紛争地帯で、彰久が自らの手で身体に鉛玉を撃ち込んで殺した。


捕まれば想像も絶する拷問に掛けられて殺されるのは目に見えている。


だから、殺すしかなかった。


そして友は親友である自分に殺してくれと願った。


彰久は目を閉じた。


『彰久、俺を殺してくれ!!』


『駄目だ。私には出来ない!!』


『やってくれ!!嗚呼、エミリー!!エミリー!!』


『ロバートぉぉぉぉ!!』


叫び声を上げながら引き金を引く自分。


そして弾がロバートを貫く。


血を流しながらロバートはこう言った。


『エミリーを・・・頼む』


無事に帰った彰久は、直ぐに依頼人を見つけ出して殺した。


裏切りには死を。


これが彼のポリシーだ。


ロバートが愛用していたコルト45口径で、あらん限りの憎悪を込めて依頼人の身体に撃ち込んでやった。


そして復讐を終えた今、エミリーが通う宿所学校に来ている。


エミリーに会う為だった。


グランドを歩いていると、一人の娘を見つけた。


何人もの女子が話し合い笑い合っていた。


その光景を遠くから見る一人の娘。


歳は10歳ほどで天使のように輝いた金糸と陶器のように艶のある肌が特徴的であった。


瞳は温和な雰囲気のエメラルドグリーンで、大草原のように広い心を持っているように見えた。


その娘は、娘達が話し合う光景を見ながらも、決して足を踏み出せずにいた。


彰久は、彼女がエミリーだと解かった。


足を踏み出して近付く。


「・・・エミリー」


彰久は話し掛けた。


「おじちゃん誰?」


娘は振り返った。


とても可愛い顔でまるで天使だ。


「草神彰久という者だよ」


「パパの友達?」


「そうだよ。君のパパ、ロバートと友達だ」


彰久はエミリーをベンチに座らせて、自分も腰を降ろした。


「君のパパからは、よく聞いているよ」


天使のように可愛い娘だと。


「・・・・でも、私のママは・・・アバズレだって・・・・・・・・」


「君のママは決してアバズレじゃない。君のママは、君そっくりの天使だった」


彰久はグランドを見ながら呟き続けた。


「きみの瞳はママ譲りだね。とても綺麗な色だ。広い草原のように大らかで優しい色だったよ」


「パパは?」


「君のパパは、この世で誰よりも君を愛して・・・勇敢な戦士だったよ」


「・・・パパ、死んじゃったんだ」


エミリーは、父親が死んだと言う事を何となくだが感づいていた。


そう彰久は感じた。


ロバートは自分の職業をエミリーに教えてはいない。


だが、子供と言うのは無意識にだが父親が堅気の者でないと解かるものだ。


「・・・あぁ。君を最後まで想っていたよ」


「・・・・パパ、私を愛しているって言ってた?」


「あぁ。何時までも君の傍に居ると言っていたよ」


例え、身体が無くとも心は何時までも君の中にある。


そして守り続けると。


「パパ・・・・・・・」


エミリーはエメラルド・グリーンの瞳を潤ませて真珠を零した。


彰久はその真珠を指先で拭い取った。


「おじちゃん・・・パパの話、聞かせて」


「あぁ・・・君のパパの話をしよう。君のパパはどれだけ勇敢だったか」


そしてどれだけ君を愛していたかを。


彰久はベンチから立ち上がり、エミリーに手を差し出した。


エミリーはそれを取りベンチから腰を上げる。


そして手を取り合い互いに歩み出した。


その日、草神彰久という男に一人の娘が出来た。


名前はエミリー。


草神エミリー。


草原の瞳を持つ天使だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか悲しい話なのに凄く爽やかな風も吹いてる気がしました。 夜叉王家の孫ですかな?
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