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王である前に父なんです

掲載日:2026/04/10

15分短編です

 街を抜け、荒野を歩いていると、ポツンと出てくる小さな居酒屋。ドアを開けると、客はただ一人。寡黙な店主がチラリとこちらを見て、先に座っていた男の隣に俺を案内した。

「悪い、遅くなった」

 席に座ると、すでに酒をたらふく飲んだであろう、真っ赤な顔をした魔王が俺を見た。

「やっと来たか!王よ!!」

 店主よ、なぜこんなになるまで酒を飲ませたんだ。この状態の魔王は面倒なんだ。迎えを呼べれば良いのだけど、俺たちは人間の世界の王と魔族の世界の王だ。お互いに迎えを呼んでしまったら、戦争が始まってしまう。だからここに店を作ったんだ。魔王城からも、俺の城からも丁度良い距離で、周囲に人が来ないような場所。今まで何度かお忍びで二人だけの飲み会を開催したけど、こんな場所に人が来るようなことはまずありえない。それに店主は俺と魔王が飲み友達であることを知っていて、かつ、魔王にも俺にも合う料理を作れる珍しい奴だ。口が堅いのもこの店主を選んだ理由の一つだ。

 っと、そんなことはどうでもいい。とにかくこいつがこんなに酔いつぶれるなんて、よほどのことだ。久しぶりに飲みの誘いがあったかと思えば、今日はいったい何があったんだろう。

「聞いてくれ・・・娘に・・・娘に彼氏ができてしまった!」

 あー、そう言えば、そろそろそんなお年頃ではなかっただろうか。前回見せられた時の写真から推測するに、もう良い年頃になっているはずだ。

「しかもその相手が・・・・勇者だったんだ!!」

 そうか、勇者か・・・勇者!?

「先日急に現れて、我が城に乗り込んできたかと思えば、やれ魔王城を攻略するだの騒いで城をめちゃくちゃにして・・・挙句、娘をみて“一目ぼれした”などと宣いおって・・・あの若造めがぁぁ・・・・」

「落ち着け、お前が怒りを放出すると、店が壊れてしまう」

「あぁ、すまない・・・娘は今まで大事に育てすぎたせいか、世間知らずなところがあるのは理解していたんだが、勇者のようなタイプの男は、魔界にはほとんどいないなんて言って・・・・告白されたその場でOKを出してしまったんだ!!」

 泣きながら酒を煽る。その理由が理解できてしまうだけに、止めることもできない。

「今はどうしてるんだ?」

「とりあえず勇者は追い返して、娘を説得はしているんだが・・・ついに・・・・パパなんて大・・・きら・・・嫌いと・・・うぉぉぉぉぉ」

 荒野中に響き渡る魔王の叫び。神の加護が無ければ、俺も即死していたかもしれない。まったく、荒れるとすぐ“咆哮”を使うんだから。

「で、その勇者はどこから派遣されたんだ?」

「お前のところじゃないのか?」

「うちは最近勇者を輩出していない。そもそも、お前、どこも襲撃してないから、お前の城が魔王城だって知らないやつの方が多いんだよ。俺も勇者派遣するのは金がかかるし面倒だから、このまま何もしないでもらえると助かるんだ」

「そうか、じゃああの勇者は」

「他の国からの使者か、自称だろう」

「そうか、ならば殺してしまっても構わんかな」

「やめておけ、またほかの国からの襲撃を受けるぞ」

 自称勇者も、魔王の娘に手を出すなんて、何を考えているんだろうか。まったく面倒事は増やさないでほしいものだ。



——この後魔王は3時間泣き続けた——

お前のとこの勇者なら百歩譲って許そうかと思ったんだけどなぁ!!

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