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異界の帝国  作者: 赤木
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第八話

 7月13日 9時30分

 カール大陸北部

 ゲロビーチ



 海軍戦闘部隊がニホン艦隊撃滅へ向かった頃、攻略部隊は上陸作戦を開始していた。


 多数の上陸用舟艇が海岸線を目指して突き進んでいく……

 

 ソート・サンダー一等兵は、兵士が肩寄せあう狭い舟艇の中で上陸地点に到達するのを待っていた。

 「おい若いの! まさかびびってんのか?」

 古参の軍曹に尻を叩かれ横を見る。

 「演習で何度もやったはずなのに不安なんです……前の扉が開いた瞬間攻撃されるんじゃないかと……」

 「心配するな! あそこにゃニホン軍はいない!」


 「上陸まで三十秒!」





 「いよいよだな、上陸したらとにかく走れ! 遮蔽物を探して身を隠せ。身を隠す場所がなければ伏せるんだ! いいな!?」

 「りょ……了解!」


 そして上陸の時がきた……舟艇前面の渡し板が降ろされ、海面を叩いたそれは盛大な水しぶきをあげる。

 「走れ走れ!」

 膝の辺りまで水に浸かりそうな場所ではあったが、必死に走った……死ぬかもしれないという恐怖の中では不思議と疲れを感じない……

 気付いたときには森林の手前にたどり着いていた。戦車揚陸艦から上陸を果たしたトーレス戦車が、速度を上げて森林地帯へと突入していく……


 輸送船の甲板から作戦を見守る屈強な体躯の男が立っていた。その男、ロザエル・トセル少将は第十五師団長であり、今回の侵攻作戦の指揮官である。身長190cm、多くの皺が刻まれた顔はまるで伝説に出てくる鬼のようであり、上層部からもその容姿と性格から一目置かれる存在となっている。

 「閣下、上陸作戦は成功です。どうやらこの辺りにニホン軍はいないようですね」

 「怯えて逃げたのだろう。我々も上陸するぞ」

 部下の前でトセル少将はその皺くちゃな顔に、獰猛な笑みを浮かべながら言う。

 「あの日以来だ……」

 「どうされましたか?」

 「久しぶりの戦場……私の居場所はここでなければいかん。」

 「閣下、じきにこの大陸は共和国の領土になります。我々がその先鋒として送り込まれたのは嬉しい限りですな。この大陸に住んでいる住民の権利、財産は我々の手に……」

 「現地住民に対する暴力、略奪行為は厳罰に処す。なんなら貴様を本土に送り返してもいいのだぞ?」

 トセル少将に睨み付けられた部下は、鋭い眼光に圧され黙ってしまう。

 「いかなる時も共和国軍人としての誇りを忘れてはならん。たとえそれが弱小国相手の戦争であってもな。」

 ロザエル・トセル少将は力強い口調で言い放つ……

 こうして約一万七千人の攻略部隊がカール大陸北部に上陸、進軍を開始しようとしていた。



 

 7月14日 3時40分

 カール大陸西方海上

 

 暗闇と濃霧が支配する静かな海上でジャックス・ドレイク中将は目を覚ました。

 「まだこんな時間か……」 周りを見渡すが狭いボートの上で起きてるものは誰もいない。

 「完敗だな。本国に何と言い訳するべきか……」

 ドレイク中将はうるさい軍上層部の連中に対して、良い印象は持っていなかった。今回の敗北で更迭されるのは目に見えており、そのことを考えると帰りたくないとさえ思ってしまう。 「私もそろそろ身を退くか……」

 三十五年もの間海軍に身を置き、統一戦争に従軍した経験を持つドレイク中将は疲れ切っていた。

 「だがそんなことより……今は救助が来るのを待つしかないか」 

 そう言って目を閉じたドレイク中将の耳に、どこからか波切り音が聞こえてきた。

 「この音、まさか救助が来たのか? こんなに早く来るとは」

 ちょうどその時、辺りに立ちこめていた霧が徐々に晴れてきた。

 そして月明かりの下に一隻の船の姿が浮かび上がる――輸送船? それにしては大きいが――そこで決定的な違いに気付いたドレイク中将は言葉を失う。

 共和国海軍の艦船は白く塗装されているが、その船は白いどころか逆に暗い色であった。


 その船は暗闇に溶け込み、その大きさや形状を把握することができなかったが、近づくにつれその威容が明らかになっていく……


 「あれは!?」

 ドレイク中将の目に飛び込んできたのは、こちらへゆっくりと近づいてくる巨大な軍艦の姿であった。

 巨大な船体、巨大な主砲、城郭のように高くそびえ立つ艦橋構造物……その全てが規格外である。

 「なんという大きさ! あれがニホンの軍艦なのか……まるで要塞ではないか!」 

 ドレイク中将は今まで見たこともない巨艦の登場に鳥肌が立っていた。それはまさに洋上に浮かぶ鋼鉄の城そのものである。

 巨艦はこちらの存在に気付いたのか、速度を落としはじめる……そして完全に停止した。

 「一体何をするつもりなのだ?」 

 その巨艦はサーチライトを点灯し、生存者たちを照らしだす。あまりの眩しさに、それまで寝ていた者も目を覚ましていく。

 「まさか撃ってくるんじゃないだろうな……」

 ドレイク中将は不安に駆られたが、それは杞憂に終わった。先程からしきりに明滅を繰り返す光が、発光信号と気付くのに時間はかからなかった。どういった意味かは分からなかったが、攻撃してくる気配はない。

 「何か白いものを振るんだ」

 近くにいた水兵が白い布を取り出し、巨艦に向かって振る……

 「君たちはよく戦った。降伏するのはいささか不本意かと思うが、あの巨艦を前にしたら戦意喪失してしまったよ。ニホン人も同じ人間、命まではとらないだろう」

 ドレイク中将の言葉に水兵たちは静かに耳を傾けていた。

 「さぁ、彼らの元へ行こう」

 黙って話を聞いていた水兵たちは、静かにボートを漕ぎはじめる……

 漸く巨艦に接近を果たした時、その巨大さに改めて圧倒される。

 「化け物だ……」

 どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 巨艦の舷側には階段らしきものが降ろされており、近くでは武装した乗組員が警戒にあたっている。その中の一人が声をかけてきた。

 「一人ずつ上がってくるんだ」

 「よし、私が先に上がる。後に続け」 ドレイク中将は階段をゆっくりと上がりはじめる。


 戦艦大和の副長、宮野 洋中佐はその光景を近くから眺めていた。

 「客人の登場だな」

 そう言うと宮野は、白髪頭のバルアス人の前に進み出る。

 「ようこそ大和へ」



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