第六話
戦闘描写が何か・・・あまり気にしないでください!
7月13日 19時30分
カール大陸西方海上
バルアス共和国第二艦隊はニホン艦隊を探し、南下を続けていた。
この海域に進出して数日・・・搭載するレーダーは未だに敵を捕捉できていない。
駆逐艦四隻を輸送船の護衛に割いているが、それでも巡洋艦四隻と駆逐艦四隻を擁しており、ニホン海軍に対抗するには十分な戦力であると判断されていた。
巡洋艦四隻は全てセレス級であり、新兵器のミサイルは多大な戦果をもたらすと信じられている。
「まだニホンの船を発見出来ないのか?
まさか逃げたんじゃないだろうな。」
「このセレスを見れば逃げ出すかもしれないぜ!」
艦橋の見張り所では二人の若い水兵が、見張りもそこそこに話し込んでいた。
「おい!真面目に見張ってるか?」
「今のところ異常ありません!艦長、このままでニホン艦隊を発見出来るのでしょうか?」
「すぐに発見できるさ。その時はこのセレスのミサイルで叩き沈めてやろう。
私は戻る、しっかり見張れよ。」
艦長のジダール・デレック大佐が艦橋に戻ろうとしたとき、嬉しい報告が舞い込んできた。
艦橋でレーダー画面を監視していたレーダー員が、不審な影を見つけたのだ。
「敵艦隊発見!距離80。」
「遂に来たか!艦長、総員戦闘配置につかせろ!」
第二艦隊司令官のドレイク中将は艦長に命令する。
「はっ!ミサイル戦用意・・・!」
第二艦隊の各艦は戦闘準備を整えていく・・・
「ミサイル発射用意完了しました。すぐに発射できます!」
「よしっ、各艦ミサイルを発射せよ。」
ドレイク中将の命令は無線を通じて各艦に伝わり、巡洋艦の前甲板にあるランチャーから、ニホン艦隊へ向けて必殺のミサイルが発射された・・・。
カール大陸西方海上
帝国海軍打撃戦隊は、バルアス艦隊よりも早く敵を捕捉していた。
「敵艦隊、方位3‐1‐5、距離85、速力20ノットで南下中。」
「引き続き対空、対水上見張りを厳となせ!油断するなよ。」
大和艦長の武田大佐はCICのディスプレイに映し出されたバルアス艦隊を見ていた。
打撃戦隊各艦は戦闘態勢に移ろうとしている。
この打撃戦隊を構成するのは戦艦大和以下、巡洋艦 金剛、高雄、妙高。駆逐艦 島風、浦風、村雨の七隻だ。
巡洋艦は高度な防空システムを備えており、その他の艦も個艦防御には十分な装備を持っている。
「敵大型艦より高速目標分離、ミサイルが発射された模様!」
「金剛、高雄、SM‐2発射・・・・・・・・目標六発撃墜!残り二発、高速で本艦に近づく。」
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘、シースパロー攻撃はじめ!」
「シースパロー発射用意よし!」
「シースパロー発射はじめ!」
大和が発射した二発のシースパローが目標へ向かって飛翔する。
「インターセプト五秒前、・・・・マークインターセプト!」
艦隊からかなり離れた上空に爆発炎が煌めく・・・。
「目標全弾撃墜!」
「そろそろ反撃といこうか。・・・対水上戦闘用意!」
その頃バルアス艦隊司令、ジャックス・ドレイク中将は何が起こったか把握できていなかった。
「全弾迎撃されただと!?」
「そうとしか考えられません。敵がどんな手段を使ったのか分かりませんが・・・」
「我々ですらミサイルに対する迎撃手段を持っておらんのだぞ・・・!」
「司令、ここは砲撃戦に持ち込みましょう!共和国海軍伝統の砲撃戦に持ち込めば敵は逃げ出すでしょう!」
「艦長、君は砲撃戦を知らない。まぁニホン海軍には勝てると思うが・・。」
「何か・・・?」
「我が海軍は砲撃戦で常に無敵だったわけじゃない。三十年前の統一戦争で、とある海岸砲に出くわしてな・・・そいつは30cm砲、海軍のどの軍艦よりも大きい砲だった。
何隻沈められただろうか・・・あの砲弾の飛翔音と巨大な水柱は今も覚えている。戦後しばらくは毎晩夢に出てきたもんだ。」
「司令はあの戦争に?」
「新米少尉として巡洋艦に乗り込んでいた。」
大和CIC
「水上戦闘、ハープーン攻撃はじめ。目標、敵小型艦。発射弾数二つ。」
「目標、敵小型艦。発射弾数二つ。目標位置39度31分ノース、93度36分イースト。」
「ハープーン発射用意よし!」
「ハープーン発射はじめ!」
「一番発射用意・・・撃て!」
ハープーンの弾体がロケットブースターによって持ち上げられる・・・程なくしてブースターを分離したそれは、ジェットエンジンの推力により目標へ向けて低空で突き進んでいく。
バルアス艦隊
駆逐艦ロレリア
「艦長、旗艦より入電!駆逐艦隊はニホン艦隊へ肉薄、魚雷戦で撃破せよ!以上。」
「やっと我々の出番か。最大戦速!ニホン艦隊の横腹に魚雷をぶちこんでやるぞ!」
「艦長!前方から高速飛翔体接近中!」
「何っ!?」
駆逐艦ロレリアの艦橋から前方を凝視する・・・それは急に上昇へ転じ、上空で突入態勢に移行した・・・
艦長はそれがミサイルであることに漸く気付くが、既に遅かった。
巡洋艦セレス艦橋
「駆逐艦ロレリア爆発しました!あぁ・・・沈みます!」
「なんだと!?」
艦長のデレック大佐がその方向を見ると、駆逐艦の小さな艦体の大半が海面に没しているのが分かった。
ロレリアだけではなかった。他の駆逐艦も松明のように燃え盛り、駆逐艦隊が瞬時にして戦闘不能に陥ったことを示していた。
「司令・・・駆逐艦隊がやられました。撃沈を免れた艦もいるようですが、もはや戦闘行動は不可能でしょう。」
「ニホンの攻撃か・・・奴らもミサイルを持っていたのだな。もはや全艦突撃して砲撃戦を挑むしかないか。」
「砲撃戦で叩き潰してやりましょう!」
「今回は海岸砲が相手ではないからな、思う存分撃ちまくれる!
砲撃戦に持ち込むぞ!最大戦速。」
バルアス艦隊の巡洋艦四隻は、砲撃戦を挑むため速力を上げはじめた。
大和CIC
「艦長、敵大型艦四増速、攻撃しますか?」
「いや、奴らは砲戦を仕掛けてくるぞ。ここは受けてやろうじゃないか。」
艦長の武田大佐は、バルアス艦隊の意志が伝わってきたような感覚になっていた。
「砲術長、相手は四隻だ。この大和一隻で勝負できるか?」
武田は砲術長の高橋 健二少佐に問い掛ける。
「十分に可能です。最新のレーダーと砲撃支援システムを使えば精度の高い砲撃が可能でしょう。
さすがに初弾命中は無理だと思いますが。」
「よし、では金剛以下六隻は万が一に備え待機。この大和だけで迎え撃つぞ!」
バルアス艦隊
巡洋艦セレス
「ニホン艦隊、六隻を切り離した模様!一隻がこちらへ向かってきます!」
「一隻とは、我々も舐められたものですね。司令はどう思われますか?」
「艦長、これで遠慮なく叩けるのだ。嬉しいかぎりじゃないか。」
ジャックス・ドレイク中将はそう言ってみたものの、嫌な予感がしていた。
―――この感覚・・・まるであの時の海岸砲を相手にした時の・・・―――
「・・・司令!どうかされたのですか?」
「いや、少し考え事だ。相手は一隻だが油断するな、徹底的にやるぞ。」
「はっ!」
接触までまだ時間がある。この時点ではバルアス艦隊の誰も、とんでもない怪物を相手にするとは気付いていない。
ジャックス・ドレイク中将だけが薄々何かを感じていた。