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異界の帝国  作者: 赤木
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外伝

1998年6月

アメリカ合衆国

ハワイ州オアフ島



帝国海軍巡洋艦妙高は、この6月に行われる日米合同演習に参加するためにパールハーバーに入港しようとしていた。また、ミッドウェー海戦で散った日米両軍の将兵に対する慰霊祭も、講和以降恒例の行事となっており、それらは日米同盟の関係をより強固なものへと発展させている。

この付近は真珠湾攻撃で沈没した戦艦アリゾナのメモリアルがあり、帝国海軍の艦艇が通過する時はアリゾナに対して敬礼をする。


「アリゾナに敬礼!」


甲板に並ぶ第二種軍装に身を包んだ将兵達が一斉に敬礼をする。アリゾナの近くには記念艦となって久しいニュージャージーが静かにその威容を周囲に知らしめているように見えた。同型艦のアイオワとミズーリはマリアナの冷たい海の底に、ウィスコンシンはノーフォークで同じく記念艦になっている。


妙高の将兵達の姿は近くを航行する米駆逐艦フレッチャーからも確認することができた。


「日本のクルーザーだ。大型の船体に高い艦橋、8インチ砲を2門にCIWSが4つ、煙突は2本、ヘリ搭載スペースは無し……あれがタカオクラスか」


「タイコンデロガよりも大きいな。日本人は昔から戦闘的な軍艦を好んで造るが、こいつも随分と戦闘的な姿をしている」


「まさに飢えた狼だな!」


「ハハッ、違いねぇ」


「しかしステルスなんかまるで意識してないな」


「よく見れば美しい艦影だ。合衆国の直線を多用した艦とは違うな」


「乗ってる奴らも紛れもない日本帝国軍人、誇り高く精強な奴らだぞ」


「あいつらに冗談は通じるのか?」


「演習で彼らの艦に乗艦したことがあるが、最近はユーモアたっぷりな奴もいる」


「俺達のじいさん世代はあの国と戦争してたんだよな。信じられるか?」


「信じるも何も……アリゾナを見れば本当の出来事だったと感じる」


「ミョウコウには友人が乗艦してるんだ。後で訪ねてみるか」


「エバンスの友人か?」


「ハイスクール時代だった。ベースボールをやってたんだが、日本の同年代のやつらと交流戦があってね。そのとき球が速いピッチャーがいたんだ。そいつと意気投合したって訳さ」


「へー、いいピッチャーだったのか?」


「あぁ。プロになるのかって聞いたら海軍に志願するとか言ってたが、本当に海軍軍人になってた」


エバンスは懐かしそうに一枚の写真をポケットから取り出す。そこにはアメリカ人に囲まれた丸刈りの日本人が笑顔で写っていた。


「コーコーキュージというやつか。彼らは好んで丸刈りにするのか?」


「さぁな。その辺はわからん。もうすぐ到着するぞ? 俺たちも用意しよう」




妙高に続いて駆逐艦3隻も続いてアリゾナの横を通過しようとする。今日のパールハーバーはいつも通り平穏そのものであった。




アメリカ合衆国

ワシントンD.C



日米首脳会談が行われるホワイトハウスでは、一人の男が日本の平田総理の到着を待っていた。合衆国大統領ジョージ・ブライアンは執務室にいたが、秘書から日本側首脳到着の知らせを受けて会議室に向かう。


「平田総理、元気にしてたかな?」


ブライアンは会議室に入るなり平田を見つけ握手を求める。


「ブライアン大統領もお元気そうで何よりです」


二人が握手をした瞬間、周りに控えていたカメラのフラッシュが一斉に焚かれる。


「早速ですが話を始めるとしましょう。申し訳ないが報道陣はここまでだ。今日は突き詰めた話し合いなんでね」


ブライアンは笑顔で言い放つ。報道陣が出ていくのを見計らって周囲に着席を促し、自身も席に着く。


「まぁ楽にしてください。今日は以前より話に上がっていた大日本帝国領についてですが。日本側の意思をお聞かせ願いたい」


「はい。まず前年に独立を果たしたマリアナ諸島をはじめ、パラオ、インドネシア、シンガポールは独立後の経過は良好です。現在は台湾の独立を画策しています」


「ふむ。朝鮮半島については計画されてないのですかな?」


「いずれは実施するつもりですが、今はまだ時期尚早ですな。現在、朝鮮自由政府が設立されたのもあり、独立への気運が高まっておりますが」


「朝鮮には何度も行ったが……あれほど発展させるとはね。私の父の頃よりも変わったよ。貴国は常任理事国で発言力も強い。積極的な統治領独立政策も評価できるが、傀儡政府が必要なのかな?」


「あそこは独立後、対中国の最重要拠点となります。万が一のことがあれば融通が利く方がいい。もちろん独自の軍も育成中ですが、それを終えるまでは我が陸軍朝鮮方面軍40万と海軍空母機動部隊を撤退させるのは無理ですな」


渋々といった感じで答える平田を見てブライアンもそれ以上言うことはなかった。


「うむ。貴国にどうこう言えないのも事実だからな。それに中国の脅威は年々高まっている……この話題はここまで。ところで平田総理、来月だがそちらに出向こうと思ってる。ついては靖国神社に参拝したい、御一緒願えるかな?」


「もちろん。お待ちしてますよ大統領」


「よろしく頼むよ。そろそろ会食としませんかな? 残りの会談は午後からでよろしいでしょう」


会談のあまりの短さに平田は拍子抜けした様子だったが、それを見たブライアンは笑顔で声を掛けてきた。


「なに、そんなに真剣な話し合いは考えていなかった。日本の政策にいちいち口出しはできないからね」


二人は会食の場へと入っていく。







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