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異界の帝国  作者: 赤木
30/69

第二十五話

8月26日

5時45分

大日本帝国兵庫県姫路市

第28歩兵師団



「師団長、師団長! 早朝に申し訳ありません。早急にお知らせしたいことがあります」


師団長と呼ばれた男、浜田徳市中将は自分の寝床から起き上がる。


「この時間に起こしに来たということは……」


「はい。海軍の宮吉中佐が動き始めました。これから忙しくなりますな」


「源さんには連絡したか?」


「いえ、まだです」


「よし。源さんに至急連絡を……くれぐれも動きを察知されないよう注意しろ」


「承知しております」


「宮吉中佐、仮に君が死ぬことになっても後悔することはない。海軍軍人としてではなく、我らが同志としての尊い犠牲となる!」


浜田は遠く離れた場所で偉大なる決断を下した宮吉中佐を讃えた。




神奈川県横浜市

源家邸宅


源 耕一郎の自宅は他の住宅と同じような二階建ての、ごく普通の住宅である。陸軍を退役してからはひっそりと暮らしてはいたが、裏で源会と呼ばれる組織を立ち上げ、今では全国に数百人の協力者を擁するまでになった。

彼等は源を大帝国主義者と呼ぶ……結成から現在に至るまでその企みは軍はおろか、警察組織も掴んではいない。


「そうか……遂に始まったのだな。特高には気を付けろよ?」


「心配ないです。それより、トマホークが自爆したと連絡が」


「何故だ!? 宮吉は我々の同志のはずだ」


「それが……愛宕砲雷長森下少佐の妨害があったようで」


「むぅ、早速計画が狂ったか。仕方あるまい、今後の作戦には支障が出ないようやるしかない」




巡洋艦愛宕


「貴様、俺の邪魔をするつもりか?」


「言っておきますが中佐殿……この愛宕CICを掌握したとお思いでしたら大きな勘違いでありますな」


「なに!?」


「中佐殿……申し訳ありませんが、あなたを軍規違反で拘束します」


「やれるものならやってみろ!」


宮吉は森下に殴りかかるが、難なく避けられ鳩尾に重い一撃を喰らう」


「ぐはぁ」


「副長、我らは伝統の帝国海軍軍人ではありませんか! このような行為は許されるものではない!」


「き、貴様ぁ……上官に対して暴力を振るうとは」


「今あなたを副長と呼ぶのは間違っていました。一部の少数派の考えに同調してこのような反乱を起こすとは……帝国軍人の片隅にも置けない。もはや上官ではない! 反逆罪に問われても文句は言えないでしょう。憲兵に引き渡されるまでは営倉で頭でも冷やしてきたらどうでしょう」


森下は扉のロックを解除すると一気に開け放つ。

「少佐殿! 無事でしたか」


扉の外で待機していた陸戦隊はCICになだれ込んでくる。その後ろには艦長もいた……


「宮吉! 覚悟しろよ。貴様は特高に引き渡してやるからな」


「くそっ!」


宮吉は拳銃を手に取ると自らの頭に突きつける。


「なんのつもりだ!?」


「申し訳ありません艦長。私が未熟であったばかりに……私は森下の言うとおり帝国軍人の片隅にも置けない輩であります! しかし、最後は海軍軍人としてけじめを……!」


ーーパァンーー


「何がお前をここまで動かした? 誰の命令だ……死んでも答えられないということなのか?」


艦長の熊谷大佐は、力無く横たわる宮吉中佐を見つめながら彼の意志に思いを巡らす。


「艦長、宮吉中佐の遺体は……」


「明日、水葬を行う。それから司令部に打電しろ。反逆は首謀者の死亡により鎮圧したと」


「了解」




空母飛龍


「もう少し時間が掛かると思ったが……随分と呆気なかったな。しかし艦隊内で反乱が起きてしまったとなると、将兵の士気が保てるかどうか……閣下はどのようにお考えですかな?」


艦隊の幕僚が会議室のテーブルを囲むなか、鴻池 行徳大佐は不機嫌そうな顔もそのままに中川に問う。


「鴻池大佐、君の言いたいことは分かる。帝国軍人たるもの、最後まで国に尽くさねばならん……。宮吉中佐の独断ではないだろう。裏に大きな組織があるはずだ」


「困ったことになりましたな。下手をすれば艦隊を下げることになりますぞ」


「今下げるのは問題ない。バルアス海軍は暫くの間、大規模な作戦を行うことはできないはずだ。しかしながら、そう簡単に下げられないのも事実だが」


「たしかに……そのとおりですな」


「もうじき連合艦隊が編成される。長官は古村大将が任命される可能性が大きい。この艦隊は連合艦隊の指揮下に入るわけだ」


「今後の作戦行動に我が艦隊は必要不可欠! ならば我々は下げられることはないというわけですか」


「少なくとも今はな。それより不明機の状況はどうなっておる?」


「まもなく接触するようです」


「搭乗員と直接話したい。無線で話せるか?」


「しばしお待ちを!」




艦隊より北西120Km上空


烈風は順調に飛行を続けていた。このままいけば十数分で不明機と接触するはずだ。

既に電探が捕捉しており、目標の速度や高度などが画面上に表示されていた。


《河野大尉聴こえるか?》


「こちら河野、感度良好です」


《艦隊司令の中川だ。君に直接伝えたいことがあってね》


「なっ!? 閣下自ら……」


《驚かずに聞いてほしい。まもなく接触するであろう敵機……バルアス軍機を撃墜するな》


「え……ですが、それでは艦隊が敵に露見してしまいます!」


《見たいなら見せてやればいい。我が艦隊の威容を! この大艦隊を見せつけてやればいい!》


河野は中川の言葉を聞いて、その真意を掴めずにいた。

ーー司令はいったい何を考えている!?ーー


《理解できないようだな。無理もない、普通なら艦隊の露見は危機的状況に陥りかねない。しかし今はどうだ? バルアス海軍の活動は停滞中、空軍は損耗率が高く、この艦隊へ攻撃隊を向ける余力はない》


「今そう判断を下すのは危険かと」


河野は過去の大戦で何度か被った大損害はそういった慢心によって生み出されたと思っている。いくら装備が優秀で、その差が隔絶していても思わぬ一撃を喰らう可能性だってある。


《余計な心配は無用だ。もし敵が攻撃隊を仕向けてきたら全力で迎え撃とう。そう簡単にやられたりはしない! やられてはならんのだ》


ーーそうか、司令も分かったうえで……ーー


「了解! これより帰投します」




空母飛龍


「敵機、まもなく目視圏内に入ります!」


「発砲はするなとの厳命だ。わが艦隊の迫力、見せてやろうじゃないか」


「見えました! 10時方向、仰角50!」


見張り員の声で艦橋内の全員の視線がそちらを向く。


「レシプロ機か!?」


「そのようだ。マニアにはたまらんだろうな」


「司令!? ここは危険です。どうか安全なCDCに」


「陣頭指揮が我が帝国海軍の伝統ではないか」


「ですが時代は変わりました。一撃でこの艦橋が破壊されれば終わりです」


「艦長、君も心配性だな。この飛龍がそう簡単にやられるとは思っていない。周りを見てみろ、あれだけの護衛、強力な対空戦闘力……油断しなければ負ける要素は皆無だ」


「何時も油断は禁物ですな」


「そのとおりだ」




その頃、ジョン・マーロー大佐も艦隊を目視できるところまで到達していた。


「む!? あれは航跡か!」


雲間から見えた一本の白い筋、それが航跡だとすぐに分かった。


「近くに艦隊がいるのか。雲の下に出るぞ」


マーローは操縦桿を倒し、高度を下げていく。雲の下に出るとそこには驚くべき光景が目に入ってきた。


「なっ!?」


幾本にも連なる航跡、大小様々な艦艇、何よりもその数に驚きを隠せない。


「大艦隊だ……数は50以上、どこから出てきたんだ? タリアニアに停泊中のやつらが全部出てきたか」


しかし情報部の話では、タリアニアに依然として大艦隊が停泊しているのが確認されている。そのことに気付きマーローは戦慄する……


「ニホン海軍め! これでもほんの一部の戦力だというのか。こうはしておれん。戻らねば」




空母飛龍


「敵機引き返します!」


「目的は達したか……」


「本当に何もせずに帰った。やはり目的はただの偵察」


「我々も帰るとしよう。哨戒中の各艦にも打電せよ」





バルアス共和国

首都タレス


彼は今、夢の中にいた……


「ダメコン急げ! なんとしても鎮火しろ!」


「大尉! 消火間に合いません! 弾薬庫に火が回るのは時間の問題、直ちに退艦することを具申します!」


「馬鹿者! 艦長以下艦橋要員の安否が不明だ」


「艦橋があの状況ではもはや望みはありません! このままでは全員死にます! 大尉、ご決断を」


駆逐艦ロイターの艦橋は無惨にも崩れ落ち、未だ燃え続けていた。沈没まで時間は残されていないように感じた。


「これより、このメイヤー大尉が指揮を引き継ぐ! 総員退艦せよ! ボートに乗り切れないやつは飛び込め」


「聞いたか!? 総員退艦だ、誘爆は時間の問題!急げ」


「急げ急げ! こんな場所で死ぬのはごめんだ」


「大尉! 生存者全員の退艦を確認、あとは我々だけです!」


「ご苦労、ノーマン少尉。我々も脱出しよう」


そのとき艦の中央付近で一際大きな爆発が起きた。


「まずい! 魚雷に誘爆した!」


ロイターの艦体は真っ二つに分断され急速に波間に吸い込まれていく。


「くそっ! 飛び込め!」


メイヤーはノーマンに指示を出すが、隣に立っていたはずの彼は甲板に倒れていた。


「少尉!」


「足をやられちまいました……大尉だけでも逃げてください」


「心配するな。連れて帰ってやる」


そう言うと彼の肩を担ぎ、海へ飛び込み浮いていた残骸に掴まる。


いつもそこで夢は終わる。

「またこの夢か……」


目を開けると飛び込んでくる海軍病院の白い天井、窓からは朝陽を眺めることができた。


「いつもと変わらない朝だが……戦況は予想以上に困難なものとなってきたか」


共和国軍の敗北に次ぐ敗北は、すぐにメイヤーの知るところとなった。


「お目覚めですかメイヤーさん」


「やぁリズ。君の尻はいつ見てもきれいだ」


「はいはい。それより今日は海軍司令部から少将さんが来られるんですから、早く準備なさってください」


「そうだった!」


そのとき、病室の電話が鳴った。


「はい、メイヤー大尉ですね? わかりました。これから行っていただきます」


「やれやれ、いったいこの俺から何の話を聞きたいんだか」


「あの写真ではないのですか? あの軍艦」


「ヤマトか……たまたま撮れただけさ。じゃあ行ってくるよ」


そう言うとメイヤーは病室を出ていった。


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