第三話
5月1日 11時30分
バルアス共和国首都タレス
三十年前の統一戦争勝利を記念して建設された記念館。
かつてバルアス共和国は、強大な軍事力を周辺諸国へと侵攻させた。それを止めることのできる国家は存在せず、バルアス共和国はドーリス大陸を僅か三年で征服する。
当時の共和国軍の活躍を後世まで語り継ぐために建てられたのが、この統一戦争記念館であった。
その門をくぐれば、記念館に至る通路の両側に功労軍人の銅像が立ち並び、来館者を出迎える。
その通路をゆっくりと進む一人の男がいた。
「この場所こそが我が共和国の中で最も誇れる場所であろう。」男の名は『ダレン・ディビス』バルアス共和国防衛大臣である。
ダレンはそのまま記念館内部へと入っていく・・・展示スペースを抜けた先に目的の場所はあった。
大会議室は既に満員の状態で、そのほとんどが共和国軍の制服を着ていた。
防衛大臣の入室により会議が始まる。
「本日集まってもらったのは、我が共和国より1200Kmを隔てたカール大陸周辺で確認された新たな勢力について、今後の対応策を協議するためだ。今から配る資料を見てほしい。」
資料が行き渡ったのを確認すると、ダレンは説明を始めた。
「まず一枚目の写真を見てくれ。これはカール大陸に潜入している工作員から送られてきたものだ。見たこともない船だが・・・おそらく軍艦だろう。その近くには護衛と思われる小型艦が少数。これらの国籍不明艦がタリアニア近海に頻繁に出没するようになった。」
「平らな甲板で武装は機銃程度か。一体何に使う船なのだ?小型艦も武装が貧弱に見える。我が海軍が誇るセレス級巡洋艦なら容易に撃沈できるだろう。大きな脅威にはならないと思うのだが。」写真を見ながら、ジャックス・ドレイク海軍中将が言う。
「ドレイク中将、確かにその通りかもしれないが、万全の体制で作戦を実施したい。周辺海域の警戒は怠るな。」
「この写真に写っているのは現地住民でしょうか?」「ここ最近カール大陸北部で見かけるようになった謎の集団だ。武装したグループもいるようだが数は少ない。これらは国籍不明艦とも関係があるとみられている。」
「大臣、実は未知の勢力について気になる情報があります。」
「君は陸軍情報部のレッグマン大佐だったな。どんな情報だ?」
「タリアニアにいる情報部員からの情報ですが、数ヶ月前からニホンという国についての情報が多く入ってくるようになりました。ニホンの位置や軍事力等不明な点は多いですが、タリアニアの友好国であり、大陸に開発団を送り込んでいるということが分かっています。」
「なるほど、国籍不明艦はニホンの軍艦で、謎の集団は開発団か。」「カール大陸侵攻作戦を実行するうえで、ニホンとは確実に衝突する。だが共和国軍の力をもってすればどんな国だろうと鎧袖一触、粉砕できるだろう。ニホンとやらにバルアスの力を思い知らせるのだ。この作戦は共和国の栄光の歴史に、新たな1ページとして刻まれることになる!」
ダレンの一言で会議室は拍手に包まれた。
15時10分 バルアス共和国首都タレス南地区 タレス軍管区司令部
共和国軍の創設期より軍事施設が集中し、首都防衛部隊の第一歩兵師団が駐屯するバルアス最大の基地にタレス軍管区司令部はあった。この司令部は、カール大陸侵攻作戦で陸海空の三軍統合司令部として使われることになっている。ここには数日前から、作戦に投入される部隊が集められていた。
ジャックス・ドレイク中将率いる第二艦隊もその一つである。巡洋艦四隻と駆逐艦八隻を擁するこの艦隊は、次の作戦では輸送船の護衛に投入される予定だ。
旗艦セレスは、セレス級巡洋艦の一番艦として建造され、共和国で初めてミサイルを装備する艦となった。その打撃力は計り知れないものがあり、まさに最強の海軍にふさわしい戦闘艦として国民から親しまれている。艦長のジダール・デレック大佐は一人艦橋に立ち尽くしていた。
今度の作戦はデレックにとっては初の実戦である。
「このセレスならどんな軍艦が相手でも怖くない。私は父と同じように、手柄をたてて共和国の英雄になる。」デレックは笑っていた。今後自分に訪れる運命に、この時点では気付くはずもなかった。