第二話
まだまだ短いです。転移後を書いてます。
2014年3月25日 10時18分 東京
三年前、突如発生した時空の歪みに呑み込まれた日本。
その先にあったのは新たな世界……馴れ親しんだ旧世界との断絶は、新たな出会いを生んだ。終わりだと思ったが。
「この世界も捨てたもんじゃない」
山村は窓から見える東京を眺めながら呟いた。
新世界への転移は日本を衰退させると、当初は噂されていた。これまで輸入に頼っていた石油や食糧がなくなるのだ。まさに危機的状況であったが、調査隊からの報告により事態は好転した。小笠原諸島周辺の海底に石油を確認した……現在の小笠原油田地帯である。
転移直後は混乱していた国内の状況も落ち着いていた。海軍や空軍を転移した翌日より多方面への偵察に向かわせ、陸軍憲兵らは一時的に発生した外国人による暴動鎮圧を、迅速かつ確実に実施する。驚くほどの手際の良さだったことを思い出す。
そして、この世界に来て最初の国家との接触に成功する。
タリアニア・・・日本の西方約3000Kmに位置するカール大陸の南部にある国家だ。
カール大陸南部にはいくつかの国家が存在していたが、中部から北部にかけては広大な森林地帯と荒地が広がっており、国は存在せず人々は小さな村で生活している。山村はこの地域の開発権を獲得することに成功し、二年前に開発団と少数の陸軍部隊を送り込んだ。
「三年とは、こうも早いものなのか」
「総理、そろそろお時間です」
秘書に声を掛けられ、山村は立ち上がった。
4月2日 12時37分
カール大陸中部 陸軍治安維持部隊本部
森林を切り開いて設営された本部では、本土より送り込まれてきた兵士への説明が行われていた。
「この二年間、大陸は平和だ。喜べ諸君!本土で訓練に明け暮れるより、こっちで自由奔放にやろうじゃないか!」
部隊長である大尉が何か言っている。
今村正一 一等兵はそれを聞き流しながらも、内心で大尉を罵った
「何が自由奔放だよ。むさ苦しいぜ」
「こらぁ!貴様ぁ、今何か言ったか?」
まずい、聞かれたか
「楽しみだと言いました!」
「そうか。貴様、名乗ってみろ!」
「ハッ。第25師団より参りました、今村正一 一等兵であります!」
「では今村一等兵に聞こう。なぜここに来た?」
「金貰えるからです!」
「やはりそうか!ここにいる奴らは皆そうだ。まぁせいぜい頑張れや」
そう言うと大尉は離れていった。
現在この部隊には百二十人が所属しており、六人一組の班を編成のうえ、交代で警備にあたっている。
今村は北部を担当する班に配属された。
「北部ね、どこへでも行ってやるさ」
今村は兵舎の中へ入る。
「おう、新入りか?」
ハッとして声のした方に視線を転じた。そしてそこにいた男の軍服の階級章を見て、今村は姿勢を正して敬礼をする。
「そう緊張するな。私は安藤中佐、タリアニアにある情報部の者だ」
安藤は立ち上がって今村の前に近付く。
「ここは未開の地、しっかりやってくれ」
中佐が兵舎の外へ消えたあと、今村は盛大に息を吐き出した。
「はぁ、心臓に悪い」
彼は手近にあった椅子に座り込む。