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異界の帝国  作者: 赤木
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第十一話

 7月15日

 カール大陸北部

 17時20分


 「閣下!」


 「いきなり入ってくるとは失礼なやつだな。何かあったか?」


 ロザエル・トセル少将は、許可もなしに司令部テントに飛び込んできた通信兵を見る。


 「はっ! 内陸三十キロ付近でニホン軍と戦闘状態に突入した模様です」


 「何っ!?」


 「既にトーレス戦車多数が撃破され、戦死百名以上、敵戦力はこちらより優勢とのこと」


 「なんだその被害は……どうなっておる」


 「敵は現在も増大中、軍団規模の兵力を投入してきたみたいです!」


 「ロレイス大佐、信じられるか? 軍団規模の兵力を投入するなど……正気の沙汰ではない」



 「軍団規模? そんな兵力を投入できるはずありません! 見間違えたんじゃないでしょうか」


 「戦闘部隊と通信はつながるか?」


 「先程から通信できない状態です!」


 「つながるまで呼び出し続けるんだ。一体何が起こっておる……」


 

 ゲロビーチより内陸の地点では、ニホン軍の奇襲によってバルアス軍の各部隊が恐慌状態に陥っていた。


 「くそっ! 司令部と通信できない!」 


 「連隊長! ニホン軍の戦車が近づいてきます!」


 「もう来たのか!?」


 四十五連隊長のワズディン大佐は、信じられないとでも言いたげな顔をする。


 「もっと持ち堪えるんだ! ニホン軍の戦車なんぞ鉄屑にしてくれるわ!」


 ニホン軍の戦車はすぐ近くまで接近し、その振動は連隊本部まで伝わってくる。味方のトーレス戦車は悉く撃破され、もはや対抗手段のなくなった四十五連隊の兵士たちは、ニホン軍に追い立てられ北部へ撤退を始めていた。


 「能無しめ! 逃げたいなら逃げやがれ」


 ワズディン大佐がそう叫んだ直後、巨大な戦車が連隊本部テントを大佐ごと踏み潰した……


 帝国陸軍第五機甲師団の90式戦車は、その機動力を活かし森林地帯を突き進む。その姿を見たバルアス軍将兵は機関銃や小銃で反撃してくるが、通用しないと分かると武器を捨てて逃げてしまう。


 「その調子で逃げてくれれば楽なんだが……」


 戦車長の佐々木 俊昭は、逃げていくバルアス兵を見ながら呟く。

 しばらく進むと、進路上に敵戦車が立ちはだかるのが見えた……


 「くそったれが! そんな戦車で勝てると思ってんのか?」


 目の前に現れた61式戦車にどことなく似た戦車を見て、佐々木は一人で怒鳴る。


 「前方、敵戦車!」


 「目標敵戦車、照準よし!」 

 

 「徹甲弾装填」


 「装填よし」


 「撃て!」


 120mm砲が咆哮する……ペリスコープから敵戦車を見ていた佐々木は、それが瞬時に戦闘力を失ったことを理解する。


 「奴らと我々では装備に差があり過ぎるな」


 佐々木は自軍より圧倒的に不利な敵を、ある意味気の毒に思っていた。そしてそのような装備で兵士を戦地に送り込むバルアス共和国に、憤りを感じずにはいられなかった。

 帝国軍は太平洋戦争の教訓を活かし、人命を重視することを徹底する。その結果、前世界ではアメリカと並んで人命を重んじる軍隊として各国から評価され、国内では若者が積極的に軍に志願するようになっていく。

 帝国には二年の兵役義務があるが、二年の兵役を終えてもそのまま残留を希望する者も少なくない。


 『各隊、停止せよ』


 大隊長の指示で、進軍していた戦車隊が停止する。

 後方では装甲車やヘリから吐き出された大量の兵士が、進軍の時を静かに待っていた。


 「一方的だな……」


 キューポラから顔を出した佐々木は、周りの惨状を見て思わずそんな言葉が出る。それと同時に血と硝煙の臭いが鼻をつく……


 「この臭いには慣れたくないもんだ」


  

 バルアス共和国

 首都タレス

 大統領宮殿


 「海軍が負けただと!?」


 テルフェス・オルセン大統領は報告に来た海軍関係者に掴み掛かり、大声で怒鳴る……


 「この世界最強を誇る共和国海軍が負けるなど信じてたまるか!」


 「しっ……しかし大統領、これは事実なのです。戦闘海域と思われる場所で、残骸と重油が浮いてるのが見つかりました」


 「それはニホン軍の物ではないのか!?」


 「我が共和国海軍の軍艦旗も浮いていたとのことです……!」


 「なんということだ……」


 「早急に防衛大臣を呼び出せ。それから例の作戦はどうなっておる?」


 「ニホンの領土と思われる島を発見した模様です」


 「そうか。どうやら成功しそうだな」


 大統領は自室からタレスの街並を眺める……その顔には笑みが浮かんでいるように見えた。



 7月16日

 10時20分

 日本海

 竹島沖


 「艦長、あの島は無人島のようですな」


 「うむ。ニホンの船はいないか?」


 駆逐艦ローダーの艦長、ウィンクス・ポリマー少佐は副長に問い掛ける。


 「今のところ見つかっておりません」


 「見つけたら直ちに攻撃せよとの命令だ。監視を怠るな」


 「はっ!」


 「艦長! ニホンの船を発見しました!」


 「本当か? 軍艦じゃないだろうな」


 「おそらく漁船かと」


 「漁船か……しかし命令は絶対だ。攻撃するぞ」


 駆逐艦ローダーは就役から二十年が経過する老齢艦である。13センチ主砲と魚雷で武装し、敵艦に肉薄攻撃を仕掛けるのが主な役割であった。

 しかし昨年、主力艦隊から地方の警備隊へ移籍、ローダーは新鋭駆逐艦に主力の座を奪われたのだ。

 だがそこへ目を付けた人物がいた……防衛大臣のダレン・ディビスだった。彼はこの老齢艦に名誉ある作戦を任せた。

 それはニホン近海に進出し、民間の船舶や沿岸への攻撃を行うというものである。


 「戦いの神はこの老いたりにチャンスをくれたようだな……ニホンの船に主砲攻撃を行う!」


 ポリマー少佐は遠くに見える漁船に目を向け、不適な笑みを浮かべる……


 「悪く思うなよ。我々に見つかったからには攻撃を受けてもらう……右砲戦用意!」


 「右砲戦、目標、ニホン船」


 「撃ち方はじめ!」


 艦橋前方に設置された二基の13センチ砲が射撃を開始する。異変に気付いたニホン漁船は退避を始めるが、もはや手遅れであった。

 

 「逃げても無駄だぞ。当たるのは時間の問題だな」


 軍艦と漁船ではあまりにも差があり過ぎた……ローダーはあっという間に漁船との距離を詰め、その砲撃精度は高まっていく。


 「命中しました! 轟沈です!」


 「よくやった。引き続き周辺の監視をしておけ」


 駆逐艦ローダーは沈んだ漁船に興味を示すことなくその場を離れていく。



 京都府舞鶴市

 舞鶴軍港


 「漁船からの連絡によると、駆逐艦サイズの軍艦みたいです」


 「その漁船はどうなったか分かるか?」


 舞鶴基地司令の坂口 英明中将は、漁船の安否を確かめる……


 「先程から音信不通です。おそらく攻撃を受けたのではないかと……」


 「くそっ! これ以上民間に犠牲者を出す訳にはいかん! 最も近い艦はどこだ?」


 「はっ、演習で境港に寄港中の霧島が最も近いです」


 「直ちに霧島へ連絡するのだ!」 

 

 「了解!」



 鳥取県境港市


 巡洋艦霧島は、その巨体を岸壁に預けていた。

 霧島は全長220m、基準排水量1万2千トンを誇る大型巡洋艦として就役して以来、舞鶴の第五艦隊に属している。

 今日は美保湾で行われる演習に参加するために、ここ境港に寄港していたのだ。


 「来月は美保関事件の慰霊祭がある。総員、英霊に恥ずかしい所を見せることのないよう、努力奮励せよ!」


 霧島艦長の山田大佐は明日から始まる演習に向けて、乗員達へ訓示を行っていた。そこへ通信士官が走りより、山田に耳打ちをする。


 「何っ!? 分かった。直ちに向かわねば。出港用意だ! 機関始動!」


 艦の深部から、三菱重工製ガスタービンが奏でる甲高い音が伝わってくる……4基で12万馬力を発揮する霧島の心臓が覚醒した瞬間だ。

 霧島はゆっくりと岸壁を離れ、島根半島の地蔵崎を迂回する進路を取る。

 近くにいた漁船は、その邪魔にならないよう一斉に退避を始めた。彼らは皆、霧島に向かって手を振る……そこには旭日旗を振る人の姿もあった。

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