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異界の帝国  作者: 赤木
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第十話

 7月15日

 カール大陸北部

 バルアス陸軍大陸侵攻軍司令部


 「海軍の戦闘部隊と通信が繋がらないだと?」

 司令官のロザエル・トセル少将は、部下であるバリー・ロレイス大佐からの報告を聞いていた。


 「最悪の場合が考えられます。本国へ伝えるべきかと」


 「うむ、タレスの司令部へ至急連絡しろ。海軍がやられたとは思いたくないが」


 「はっ」


 「こちらの作戦は順調か?」


 「現在、四十五連隊を基幹とする部隊がこの地点まで進出しています」


 バリーは戦略地図を見ながら説明する。


 「ここには四十六・四十七連隊、戦車部隊はここです」


 「どうやら進軍は順調のようだな。しかし戦力が足りん」


 「本国からの増援は一週間後です。海を渡るのがこれほど大変だとは思いませんでしたよ」


 「陸続きの場所で戦争をするのとはわけが違う。海という大きな壁があるからな。だがそれはニホンも同じ……大軍を短期間で配備するのは無理だ」


 「私も同感です」


 「ニホン軍がどれほどの兵力で待ち受けているか分からないが、我々と同等かそれ以下だろう。情報部の言うことが正しければだが」


 「ですが情報部員は作戦開始前に撤退しています。ニホン軍が戦力を増強している可能性もあるのでは?」


 「たしかにな……我々には戦車もある。新型のトーレス2型だから心配はないだろう」


 「えぇ。1型の75mm戦車砲より高威力の90mm戦車砲を搭載していますからね」


 「ニホン軍は戦車を持っているのか? 情報部はないと言っていたが」


 「おそらく持っているでしょう。ですがトーレス戦車の性能には勝てないかと」


 

 ゲロビーチより内陸三十Km地点


 四十五連隊に属するソート・サンダー一等兵は、分隊の仲間と南へ向けて進んでいた。彼らは偵察任務も兼ねており、本隊からは数Km先行している。


 「なぁ? こんなところに本当にニホン軍がいるのか?」


 「それを見つけるのが俺たちの任務だろ」


 「こんなとこにいるとは思えんがな。サンダー一等兵、お前はどう思う?」


 「これほどの密林なら、隠れるにはちょうど良いかと思います」


 「隠れる? そんな子供騙しが俺たちに通用するはずないさ。おーい、ニホン兵ども! 隠れてないで出てこい!」


 兵長が叫ぶが、密林は相変わらずの静けさをもって応じる。


 「ほらな、やっぱり隠れてないだろ? まぁいたとしても俺たちにはトーレス戦車がついてる」


 彼らは二輛のトーレス戦車と共に行動していた。

 トーレス戦車は従来型の戦車より車高を抑えられ、丸みを帯びた砲塔を持つ。そして搭載砲の大口径化に伴い、車体もより大型のものになっている。


 「さすがにでかいな……30トンはあるだろうか」


 「今までのやつとは違うな。あの主砲を見たらニホン軍など逃げていくに違いない」


 雑談をしながら進む一行は、しばらく歩き続けた後、開けた場所に出る。


 「どうやら森を抜けたようだな」


 その時、サンダー一等兵は自分の目線の先に黒い何かを見た気がした。


 「あれは?」


 「サンダー一等兵、何か見つけたか?」


 「あそこに……」


 サンダー一等兵が答えるよりも早く、それは彼らの分隊の前に躍り出る……黒い何かの正体は、見たこともない巨大な戦車だった。


 「なんだあれは!?」


 その戦車はゆっくりとこちらへ近づいてくる。


 「あのでかいやつはニホン軍の戦車だ! やつを撃て!」


 一輛のトーレス戦車が敵戦車へ照準を合わせる……ドンッ……


 トーレス戦車が放った初弾は砲塔正面に見事に命中し、敵戦車は爆炎に包まれる。


 「初弾命中とはやるじゃねぇか! ざまぁみやがれ!」


 「なっ……なんでだ……当たったはずだろ……?」


 「どうしたんだ? ……何っ!?」


 砲弾が命中したはずの敵戦車は、何事もなかったかのように向かってくる。

 サンダー一等兵は、そのやたらと角張った砲塔がこちらを指向しているのに気付く……


 「やばい!」


 サンダーが咄嗟に地面に伏せた直後、敵戦車の主砲が咆哮する。高初速で放たれたAPFSDSは、トーレス戦車の傾斜装甲を容易く貫徹し、その車内に破壊を振りまく……


 「トーレス戦車が……」


 瞬く間に二輛のトーレス戦車を葬った敵戦車は、もはや手が届きそうなほど接近していた。

 そして分隊の面々はただ眺めるしかできない……それはトーレス戦車より大きく、圧倒的な威圧感を持っていた。


 「おい! どうするんだ? これじゃ逃げられねぇ」


 今まで気付かなかったが、前方から多数の兵士と車両が近づいてくる。


 「なぁ、なんかやばくないか?」


 「あぁ。やばすぎだな」


 『全員武器を捨てて投降せよ』


 前方からニホン兵の声が聞こえてきた。


 「みんな武器を捨てろ」


 「しかし!」


 「そうしなければ全員死ぬぞ!」


 『武器を捨てろ』


 「さぁ、武器を捨てて投降するぞ」


 「うぉぉ―!」


 一人の兵士が狂ったかのように叫びながら、ニホン兵に向かって突撃する……ダダダダッ……自動小銃の一連射によってその兵士はすぐに無力化される。


 「ばかやろう! あぁなりたくなければ武器を捨てるんだ」


 隊長の言葉で、サンダーは持っていた小銃を地面に置く……他の兵士も同じように武器を置いていた。

 彼らは完全にニホン兵に包囲されていた。

 

 「俺たちどうなるんだろうな」


 「どこかへ連れていかれるらしい」


 「さぁ、乗るんだ」


 近くのニホン兵に促されるがままにヘリに乗り込む。彼らは皆一様に奇妙な模様の戦闘服を纏い、同じ模様のヘルメットを被っていた……そして顔にまで同じような色の何かを塗りたくっており、その表情を窺い知ることはできない。

 サンダーはその姿に恐怖を覚えたが、それと同時に異国の兵士に興味を抱いていた。

 そして意を決して近くのニホン兵に話し掛ける……

 「あの……」


 サンダーより頭一つ分背の高いニホン兵が、ギロリと睨み付けてくるのがわかった。

 彼は何も喋らなかったが、その顔は何か用か? と言ってるように見える。


 「俺たちはどこへ連れていかれるのですか?」


 「君たちには我々の駐屯地へ来てもらう。殺したりはしないから心配するな」


 「はぁ……」

 また睨み返されると思っていたサンダーは、彼が質問に答えたのが意外だった。


 「それから、本土にある捕虜収容所で戦争が終わるまで過ごしてもらう。しばらくは我慢することだ」


 彼らを乗せたヘリは、駐屯地へ向けて飛ぶ……その途中で重武装の戦闘ヘリとすれ違う。


 「あのヘリは?」


 「戦闘ヘリの隼だ」


 「戦闘ヘリ? ハヤブサ?」


 「隼は地上のあらゆる脅威を排除することができる。戦車が何輛いようと無意味だ」


 サンダーの脳裏に、味方が一方的に殲滅される光景が浮かぶ

 やたらと角張った大型戦車、空からは重武装のヘリ……

 「着いたぞ。降りる用意をしろ」


 サンダーはかなり時間が過ぎていることに気付く。

 「降りるんだ」


 そこは見たこともない広大な基地で、近くにはあの戦車が多数並び、多くの兵士が屯している。


 「すごい……」


 「なんて兵力だ……こんなの相手にしたら十五師団は全滅だ」


 「あぁ」


 彼らはニホン軍の兵力を目の当たりにし、その強大さに圧倒されていた。



 カール大陸西方海上

 戦艦大和


 ジャックス・ドレイク中将を含むバルアス軍将兵を乗せた大和は、タリアニアへ向けて航行していた。


 彼らは空いた居住区で過ごすことを許されている。もちろん銃を持った見張り付きではあるが。


 「それにしても……なんという広さだ」

 ドレイク中将はある程度の自由を許されていたが、この大和の広さと複雑さに半ば呆れ始めていた。


 「甲板に出るのにこれほど迷うとはな。海軍軍人として諦めるわけにはいかん」


 「こんなところにおられたのですか」


 後ろから声を掛けられ、振り返る。そこにいたのは大和艦長であった。

 

 「タケダ大佐、すまんが私を甲板まで案内してくれんか? 海を眺めたいと思ってな」


 「お任せください。それならいい場所があります」


 「ではお願いしよう」


 武田とドレイクは、いくつかの扉を抜け、あるエレベータの前に出る。


 「さぁ行きましょう」


 「このヤマトは本当に巨大だ……そして外界の音すら遮断する分厚い装甲に覆われているようだ」     


 「この艦は数々の戦場を見てきました。それらを生き抜き、今も現役でやっているのです」


 「ヤマトは古いのか?」


 「えぇ。大和は就役から既に七十年以上が経過しています」


 「七十年!? 常識的に考えれば耐用年数を大幅に……」


 「幾度となく近代化改装が行われています。さて、到着しましたよ」


 二人は第一艦橋に足を踏み入れる。


 「さすがに高いな」


 そこからは艦隊の陣容を容易に把握することができる。バルアス海軍の巡洋艦では味わったことがない感覚……


 「素晴らしい眺めだ。感謝する」


 「タリアニア到着まではまだ時間があります。それまではゆっくりしてください」


 「あぁ」


 ドレイク中将は外を眺めながら、遠い祖国に思いを馳せる。


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