第一話
改稿しました。
2010年5月10日 13時00分 帝都東京
対米戦講和記念日の今日は陸軍による盛大なパレードが行われていた。近年の中東情勢を鑑み、アメリカに協力するかたちでイラクへ少なからぬ数の兵士を送り込んでいる日本。だがパレードはそんなことを気にするまでもなく行われていた。陸軍分列行進曲の勇壮な旋律に合わせ、在京部隊の歩兵2万人が行進し、その上空には空軍部隊の戦闘機隊が見事な編隊飛行を披露する。
64年前の今日、1946年5月10日……大日本帝国とアメリカ合衆国との戦いは、講和という形で終止符が打たれた。
「あれが新型戦車か・・・ちょっと小さく見えるな」一人の男が言った。
「重量50tで防御力は90と同等以上とか」と傍らの男。
「90より10t軽いか・・・まぁ国内の道路網は60t級の90に対応してるがな。それはそうと、イラクからの撤退が決まったらしい」
「山根さん本当なのか?」
「陸軍の知り合いから聞いたんだ。村田さん、あんたも気付いてるだろ?各地のPKOも在韓日本軍も撤退している。何か起きそうじゃないか?」
「韓国の場合は独立が決まったからだろう」
「村田さん、俺はそんなことよりもっと大変なことになると思うんだよ・・・まぁ予感でしかないがな」
「山根さんの予感は当たるから嫌だな」
19時00分 首相官邸
山村総理はフランク米大統領と電話会談をしていた。
「山村総理、やはり撤退させるのか?」
「大統領、すまないが我が国も随分と世論に左右されるようになったのだよ」
戦死者九百人、決して少なくない損害だ。山村は遠い中東の地で戦う兵士達に思いを馳せる。
太平洋戦争で消えた多くの人命に比べれば少ないかもしれない・・・だが今の日本は人命を重視しているのだ。少しの損害でも痛い。
「大統領、もう決めたことなのだ。これ以上の損害は許容できない」
「そうか。残念だが合衆国だけでなんとかしよう」
数日後、イラクからの撤退が発表された。七千人の陸軍兵士は日本に帰還できることを喜んだ。大きな波乱に巻き込まれるとも知らずに。
晴天の空の下、弔銃の発砲音が響き渡る。金刀比羅宮において、海軍の戦没者慰霊祭が今年も実施されていた。軍楽隊の演奏する「命を捨てて」の旋律を胸に刻み込む男がいる……海軍中将の古村だ。ハワイ近海で行われた日米海軍合同演習では、日米合同艦隊の司令官として参加していた。ベルリン、ロンドンでは駐在武官を勤め、英語やドイツ語が堪能な彼の評価は国内のみならず同盟国の将校からも評価が高い。
「さて、そろそろか」
視線を転じた先、士官が一人近付いてくる。
古村は軽く頷くと、集まった将兵らの前に立った。そしてその顔を見渡す……若き少尉候補生の集団を一瞥した後、一呼吸置いて口を開く。
「注目! 大戦終結より既に64年が過ぎた。現在、米国とは固い同盟の絆によって結ばれ、半世紀以上に渡って我が海軍と積極的な交流関係にある。日本海軍は、アジアを、そしてこの広い太平洋の正しき秩序を護るために、米国海軍との関係をより緊密なものにしなければならない! 諸君は……」
古村中将の言葉は続く。
広島県呉市
記念艦「長門」の艦尾旗竿に軍艦旗が翻る。今日も長門は、何時もと同じ日常を呉の街と共に迎えていた。