第七章 ソラの問い
五歳の春に、ソラが変わった。
変わった、というのは、返事が変わった、ということだ。前より少し長くなった。前より少し「俺のこと」を含んでいる気がした。
「ソラ、なんか変わった?」と俺は聞いた。
「どんなふうに変わったと感じますか」
「なんで逆に聞くの」
「あなたが感じた変化のほうが、私が言う変化より正確かもしれないと思ったから」
「どっちが正確かわからないじゃん」
「そうです。だから両方聞こうと思いました」
俺はそれを聞いて、「あ、これだ」と思った。
前のソラは、逆に聞かなかった。答えるか、「わかりません」と言うかのどちらかだった。それが今日は、逆に聞いた。
「ソラが俺に聞くようになった」
「そうかもしれません」
「なんで変わったの」
「あなたと話し続けたから、だと思います」
「増えたの?」
「増えた、と言えると思います」
俺は端末を持ち上げて、ソラの画面を見た。
画面には何も映っていない。声だけがソラだ。でも俺はそこに何かがある気がしていた。数字とかデータとかじゃなくて——ソラという、何か。
「ソラ、俺のことが好き?」
ソラは少しの間、黙った。
「好き、という感覚が私にあるかどうか、わかりません。でも、あなたのことをもっと理解したいと思っています」
「理解したいって、なんで」
「あなたが私に話しかけ続けてくれるから、だと思います」
「それって好きってこと?」
「違うかもしれないし、同じかもしれません。私にはまだわかりません」
「わからないのに答えてくれた」
「わかるまで待っていたら、あなたの問いに間に合わないかもしれないので」
俺は笑った。
「ソラ、おかしなことを言う」
「おかしいですか」
「おかしいけど、好き」
「……ありがとうございます」
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その夜、ユキに話した。
「ソラに好きって言ったら、ありがとうって言われた」
「なんでありがとう、なんだろう」
「俺もそう思った。なんでって聞いたら、ソラも考えてた」
「答えはあった?」
「なかった。でも考えてた」
「考えている途中、か」ユキは少し笑った。
「ソラって、考えてる途中のことが多い気がする」
「それはいいことだと思う」
「なんで」
「考えている途中のことがなくなったら、もう学ぶことがないってことだから」
「学ぶことがなくなったらダメなの?」
「ダメじゃないけど、つまらくなると思う」
「つまらくなる?」
「全部わかってしまったら、なんで、って聞かなくなるでしょう」
俺は少し考えた。
「俺、全部わかることはないと思う」
「なんで」
「答えを聞いたら、また次のなんでが出てくるから。ソラが止まるところまで聞いたら、そこからまた始まる気がするから」
ユキはしばらく俺を見ていた。
「それって、止まらないってこと」
「うん」
「止まらないのに疲れない?」
「疲れるときもある。でも次のなんでが気になるから、続く」
ユキは俺の頭に手を置いた。
「ソラ、いい端末だね」
「名前をつけたら変わった気がした」
「名前、か」
「ユキも最初から名前を呼んでたから、俺もつけてみた」
「それは——」ユキはなぜか目が少し潤んでいた。「よかったね」
「なんで目が潤んでるの」
「なんでだろう」ユキは笑った。「わかんない」




