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第六章 熱の夜

 五歳の冬に、熱を出した。


 朝、起きたら頭が重かった。ユキに言ったら、おでこに手を当てて「高い」と言った。端末で体温を測ったら三十九度だった。


 医療センターに連れて行ってもらった。


 待合室は広くて、他にも子どもが何人かいた。俺より小さい子も、俺より大きい子も。みんな少し元気がなかった。


「この子たちも熱なの」と俺はユキに聞いた。


「みんなそれぞれ、具合が悪いんだと思うよ」


「なんで病気になるの」


「ウイルスとか細菌が体に入るから。あとは疲れとか、寒さとか」


「なんで体に入るの」


「隙間があるから、かな。完全に防ぐことは難しい」


「隙間を全部塞げばいい?」


「塞ぐと、いいものも入ってこなくなるから」


「いいものも入ってくるの?」


「そうね。外からのものが全部悪いわけじゃないから」


 俺はそれを考えた。


 悪いものを防ごうとしたら、いいものも防いでしまう。


 それは病気だけじゃない気がした。でもなんでそう思うか、うまく言えなかった。


---


 家に帰ってから、薬を飲んで、横になった。


 ユキが隣にいた。


「仕事は?」と俺は聞いた。


「休んだ」


「なんで」


「あなたが具合悪いから」


「でも仕事行かないと、評価点が下がるんじゃないの」


 ユキは少し黙った。


「どうして知ってるの」


「ソラが教えてくれた。休むと評価が下がるって」


「……そうね。でも今日はいる」


「なんで」


「いたいから」


 なきゃ、じゃなくて、だ、のほうだ、と俺は思った。


 絵本の夜に話したことを思い出した。外から来るルールじゃなくて、内から出てくる感覚。


 ユキは今夜、内から出てくる感覚でそこにいる。


「ユキ、ありがとう」


「何が」


「いてくれるから」


 ユキは俺の手を握った。


 その手が温かかった。俺も熱で体が熱かったけど、ユキの手の温かさは違う種類の温かさだった。


「ユキ、眠れる?」


「いいから寝なさい」


「眠れたら評価点下がっても大丈夫なの?」


「あなたのそばにいることのほうが、今は大事だから」


「なんで大事なの」


「あなたがいるから」


 俺はその答えを聞いて、目を閉じた。


 あなたがいるから、大事。


 俺がいなくなったら、大事じゃなくなるのか——そう聞こうとしたけど、眠くなって言えなかった。


 翌朝、聞こうと思ったら忘れていた。


 でも多分、聞かなくてよかったと、今は思う。

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