第五章 イツキのこと
四歳になって、公民館の集まりに行くようになった。
そこに、イツキがいた。
イツキは背が高くて、声が大きかった。いつも先頭にいて、先生によく話しかけた。お父さんの持ち点がとても高い、という話を、自分でしていた。
「うちは評価点がたくさんもらえる」とイツキは言った。「お父さんがいっぱいもらってるから」
「なんで?」と俺は聞いた。
「持ち点が高いから。高い人が高い人に評価点を贈って、どんどん増えるんだって」
「どんどん増えるの?」
「お父さんが言ってた」
俺はそれを聞いて、何かが引っかかった。
「じゃあ、最初から低い人は?」
「何が?」
「最初から持ち点が低い人は、評価点がもらいにくいってこと?」
イツキは少し首をかしげた。
「そうじゃない人もいると思うけど」
「でも増えにくいってこと?」
「……そうかもしれない」
俺はその「かもしれない」を持って帰った。
夜、ソラに話した。
「ソラ、持ち点が低い人は、ずっと低いままなの?」
「必ずしもそうとは言えませんが、持ち点が上がりにくい構造は、あります」
「なんで?」
「持ち点が高い人は、より大きな評価点を贈ることができます。高い評価点をもらうと得点が上がりやすい。高い得点の人同士がつながって評価し合うと、そのグループの中で得点が上がりやすくなります」
「じゃあ、最初から外にいる人は?」
「グループの外の人は、そのサイクルに入りにくい」
「ユキも、そのサイクルの外なの?」
ソラは少しの間、答えなかった。
「ユキさんの状況については、私は詳しく把握していませんが——持ち点が中程度より少し低い状況では、大きな評価点を受け取りにくい傾向があります」
「なんでユキの持ち点は上がらないの」
「仕事で評価を受けること、評価点を贈り合えるつながりを作ることが、時間的にも難しい状況があるのかもしれません」
「ユキが頑張ってないから?」
「そうは思いません」
「じゃあ、なんで」
「それは——」ソラは止まった。「私には、正確に答えられない問いです」
ソラが止まった。
止まる前の「なんで」。それが今夜も、どこかにあった。
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次の日、公民館でイツキに会ったとき、俺はもう一つ聞いた。
「イツキのお父さんの持ち点は、最初から高かったの?」
「わからない。昔から高かったって言ってた」
「なんで高くなったのかな」
「いっぱい頑張ったんじゃない?」
「頑張ったから高くなったの? それとも最初から高い人が、もっと高くなりやすいの?」
イツキは少し考えた。
「……どっちもじゃない?」
「どっちも、か」
俺はその答えを、しばらく頭の中で持ち歩いた。
どっちも。どっちかじゃない。どっちもが正しくて、どっちもが足りない。
なんで、の答えがいつも一つじゃないのは、世界がそういうふうにできているからかもしれない。




