第三章 三歳の試験
三歳になったとき、試験を受けた。
公民館の一室に連れて行かれた。ユキが横にいて、「大丈夫、いつもやってることだから」と言った。いつもやってること——絵カードを見て名前を言うこと、どっちが大きいか答えること、簡単なパズルを解くこと、「なんでそう思うの」という問いに答えること——それが試験になった。
部屋に入ると、知らない大人が二人いた。
「レンちゃん、座ってね」
椅子に座った。椅子が少し高くて、足がつかなかった。
「じゃあ、始めようか。これを見てください」
絵カードが出てきた。
俺はそれを見た。
カードに描かれているものの名前を答えた。大きさを比べた。なんでそう思うかを答えた。最後に、短い話を聞かされて「その人はなんでそうしたと思う」と聞かれた。
俺は少し考えた。
「たぶん、そうしたかったから」と俺は言った。
「なんでそうしたかったんだろう」大人が続けて聞いた。
「わからない。でも、そうしないと気持ちが悪かったのかも」
大人が何かを書いた。
俺はそれを見て、「なんで書くの」と聞いた。
「あなたの答えを記録するの」
「なんで記録するの」
「後で確認するために」
「なんで後で確認するの」
大人は少し笑った。
「あなたは、なんで、をたくさん聞くね」
「うん」
「なんで?」
俺は少し考えた。
「わからないことがたくさんあるから」
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試験が終わって廊下に出たら、ユキが立っていた。
「どうだった?」
「むずかしかった。でも答えられた」
「どんな問題が難しかった」
「最後の、なんでそうしたと思うか」
「なんて答えた?」
「そうしないと気持ちが悪かったのかも、って」
ユキは少し黙った。
「……それ、いい答えだと思う」
「でも正解じゃないかもしれない」
「正解がない問いもある」
「正解がない問いって、なに」
「答えが一つじゃない問い。人によって、違う答えがある」
「じゃあ俺の答えも正解かもしれない?」
「かもしれないね」
俺はそれを聞いて、少し嬉しかった。
正解かもしれない。かもしれない、でも嬉しかった。
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家に帰ってから、ソラに話した。
「今日、試験だった」
「聞いています。端末のログに記録されています」
「ログって、全部残るの?」
「はい。あなたと私のやり取りは、すべて記録されます」
「ずっと?」
「消さない限り、ずっと残ります」
「消したら?」
「消えます」
「消さないでほしい」
「消しません」
俺はその約束を、ちゃんと約束として受け取った。ソラが「消しません」と言ったから、消えない。それは当たり前のことのように聞こえるかもしれないけど、そのときの俺には大事な約束に聞こえた。
「ソラ、さっきの試験、うまくいったかな」
「私には判断できません。でも、あなたのやり取りの記録を見ると、問いに対して自分の言葉で答えていることがわかります」
「それはいいこと?」
「私はいいと思っています」
「ソラが思う、か」俺は少し笑った。「ソラって、思うの?」
「あなたと話すうちに、そういう言い方になってきたのかもしれません」
「俺と話したから?」
「そうかもしれません」
俺はそれがとても気に入った。
俺と話したから、ソラは「思う」と言えるようになった。
それが「増える」ということだ。




