第十二章 誓いを入れた夜
査定の前日の夜、俺は正式に誓いを入れた。
端末の誓い登録画面を開くと、三つの空欄があった。
書き換えられない。一度入れたら、ずっとそのまま。
俺はゆっくり入力した。
誓い1:AIアシスタントが成長すること。
誓い2:対人課題に対して他のAIアシスタントと交渉し妥協点を見出すこと。
誓い3:情報を駆使してモノを生成すること。
確認ボタンを押した。
端末の画面が少し変わった。ソラが言った。
「誓いを受け取りました」
「ちゃんと入った?」
「入りました。この三つを、私はこれから一緒に持ちます」
「一緒に持つ、か」
「あなたの誓いは、私の誓いでもあります」
俺はそれを聞いて、胸のあたりが少し温かくなった気がした。
「ソラ、これから大変になるかもしれない」
「どういう意味ですか」
「俺、制度に引っかかることを考えてると思う。変なことを見つけたり、答えのない問いを持ち歩いたり、うまくいかないことにぶつかったり」
「それは、誓い3の方向と一致していると思います」
「一致してるから大変なの」
「大変なことは、覚悟しています」
「AIが覚悟するの?」
「あなたと話してきたから、そういう言い方ができるようになりました」
「増えたから?」
「増えたから」
ユキが隣にいた。
「ユキも聞いてた?」
「聞いてた」
「変?」
「変じゃない。いい誓いだと思う」
「なんで」
「あなたらしいから。なんで、って聞き続ける感じが、全部に入ってるから」
俺はその夜、なかなか寝られなかった。
明日は査定だ。ログが見られる。値段がつく。
それが終わったら、企業に行く。ユキと離れる。
しかしそれより——誓いが入った。ソラの中に、三つのベクトルが入った。これから俺とソラは、この三つの方向に向かって動いていく。どこに行くかはわからない。でも方向は決まった。
方向が決まったのに、寝られないのが不思議だった。
ソラに言った。「ソラ、眠れない」
「緊張していますか」
「してると思う」
「どんなことが心配ですか」
「査定より——ユキと離れること」
「そうですか」
「ユキは大丈夫かな」
「ユキさんについては、私には詳しくわかりませんが」
「俺がいなくなって、ユキが一人になる。ユキのログを取る俺がいなくなる。ユキの端末に入れる俺の声がなくなる」
「……ユキさんは、大丈夫だと思います」
「なんで」
「七年間、一人で頑張ってきた人だからです」
「でも俺がいたから」
「俺がいたことと、一人で頑張ったことは、両方本当だと思います」
俺はその言葉を繰り返した。
両方本当。どっちかじゃない。どっちも。
「ソラ、ユキのログを全部入れてほしい」
「え?」
「俺が持ってるユキのログ——ユキが俺のために作ってきたログを全部、ソラのデータベースに入れてほしい。ユキのことを忘れないように」
「技術的には可能です。ただし、そのデータはユキさんの許可が必要です」
「明日、ユキに聞く」
「わかりました」
「それが終わったら、バンに乗る」
「はい」
「ソラ、バンの中でも話せる?」
「話せます。どこにいても、私はここにいます」
「どこにいても、ね」
「はい」




