第三部 七歳 第十一章 査定の前
七歳の夏が来た。
「秋に査定がある」とユキが教えた。
俺はそれを聞いて、少し前から知っていることだと思った。でも「秋」という言葉を聞いて、急に近くなった感じがした。
「査定って、どんなことをするの」
「企業の人たちが、あなたのAIログを見て、あなたをどんな力があるか確認する。それで値段をつける」
「俺は何かするの?」
「ログはすでにあるから、あなたがするのは——ただそこにいること、かな」
「ただいるだけ?」
「そう。あなたが七年間積み上げてきたものが、ログになってる。それを企業が見る」
俺はそれを聞いて、なんか変な気がした。
俺がするんじゃなくて、今まで俺がしてきたことが、俺を代わりに話す。
「ソラ、ログって今まで全部入ってる?」
「はい。三歳の最初の試験から今日まで、すべて記録されています」
「それが全部、査定で見られるの?」
「重要なポイントが抽出されて見られると思います」
「重要なポイントって、どれ?」
「それは私には判断できません。企業の担当者が、何を重要とするかによります」
「俺が重要だと思うのとは、違うかもしれない?」
「違うかもしれません」
俺はそれを考えた。
ソラの熱の夜の話。ユキと空の色について話した夜。公平について考え始めた日。誓いを決めた夜。
それが重要かどうかは、企業の担当者が決める。
なんか、変な感じだ。
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ある夜、ユキが難しい顔をして端末を見ていた。
「なんの計算してるの」と俺は聞いた。
ユキは少し驚いて、俺を見た。
「計算してるのわかった?」
「顔が計算の顔だったから」
「計算の顔?」
「そう。算数の問題を解くときみたいな顔」
ユキは少し笑った。
「査定の結果がどうなるか、計算してた」
「どうなりそうなの」
「……ギリギリかな」
「ギリギリって、いいほうのギリギリ?」
「うまくいけば、そう」
「うまくいかなかったら?」
ユキは少しの間、俺を見た。
「赤字、かもしれない」
「赤字ってなに」
「費用より、売れた金額が少ないこと」
俺はその言葉を頭の中で繰り返した。
費用より売れた金額が少ない。
「俺が安く売れたら、ユキが損するってこと?」
「……制度の計算上はそうなる」
「なんで俺はそんなに高く売れないの」
「ログが——」ユキは少し止まった。「ログが、もう少し厚かったら、高くなったかもしれない」
「薄いの?」
「薄くはないんだけど、もっと有料のカリキュラムを入れられてたら、もっと厚くなってたと思う。それができなかったのは——」
「ユキのせいじゃない」
ユキが黙った。
「ユキのせいじゃない」俺はもう一度言った。「だってユキはいつも頑張ってた。見てたから知ってる。夜中まで端末見てたし、カリキュラム全部試してたし、毎晩ログ取ってた」
「レン」
「俺のログが薄いのは、ユキのせいじゃなくて、お金がなかったから。お金がなかったのは、持ち点が低かったから。持ち点が低いのは——」
俺はそこで止まった。
なんで持ち点が低いのか。
それはソラが止まった場所だった。
「それは——制度が、そうなってるから」と俺は続けた。「ユキが頑張らなかったからじゃない。制度が、そういうふうにできてるから」
ユキは少しの間、黙っていた。
「……そこまで、考えてたの」
「ソラと話してた」
「ソラと」
「うん。六歳のときから、なんとなくそういう気がしてた」
ユキの目が、少し潤んだ。
「ありがとう」
「また、ありがとう」
「また?」
「熱の夜も、ありがとうって言った」
「覚えてるんだ」
「忘れないよ。ソラのログにも入ってるし、俺の中にも入ってる」




