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警視庁陰陽課特命係・対極院禊―浮気され禁足地に異動させられた警察官―  作者: 華洛


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21話 vs.土御門茉莉花



 先に飛び込んだのは哪吒だった。

 火尖槍の穂先が震えると、次の瞬間、爆ぜるような炎が放たれた。

 まるで空間を貫通するレーザーのように、周囲の空気が焼け、軌道に沿って白く光が走る。


 茉莉花は即座に反応した。

 騰蛇の権能――炎。

 彼女の掌から奔流のような真紅の炎が伸び、哪吒の火尖槍の炎と正面から衝突する。


 ――空が割れた。


 激突点を中心に衝撃波が何度も膨らみ、空気が震え、耳鳴りが響く。

 炎と炎が押し合い、絡み合い、互いを喰らいながら、紅と赤の光柱が空中に弾け飛んだ。


 (互角……!)


 だが哪吒は攻勢を止めない。

 火尖槍をくるりと回すと、乾坤弓を構え、震天箭を連射した。


 弓が軋む音と同時に、無数の鏃が空を裂く。

 空気が尾を引き、白い線が蜘蛛の巣のように広がる――避ける隙などない。


 茉莉花は玄武の亀盾を構え、前へ押し出した。

 次の瞬間、連続で衝撃音が響き、震天箭が盾を穿つ。


 ――大きな音が響いた。


 最硬の盾に、信じられないほど大きな亀裂が走る。


「うそっ。最硬の盾を射抜くなんて――」


 茉莉花の声は驚きと焦りで震えていた。

 亀盾の防御力は疑いようがないが、所詮は式神の能力。術者の限界を超えられないのだ。


 休むことなく、次に孫悟空が動いた。

 髪を千切り、ふっと吹き飛ばす。


 直後、周囲に煙が散り――十数体の孫悟空が出現する。

 どの顔も同じ笑みを浮かべ、全てが筋斗雲に跨がった。


 四方八方。上からも下からも、逃げ場はない。

 一斉に如意棒を構え、茉莉花めがけて突進する。


「いくら分身したところで、所詮、本体は一体だけ! 天空の力は透明化だけではないですよ!!」


 茉莉花の身体が青く発光し、波動が放たれる。


 瞬間、分身たちは次々と煙に戻った。

 一本の毛に還って地に落ち、ただ一体だけ――本物の孫悟空だけが前へ迫る。


 天空の権能は術式無効。透明化はそこから派生したものに過ぎない。

 茉莉花が私に出会う前から使役していた十二天将の一柱、その本領だ。


 孫悟空の如意棒と茉莉花の青竜偃月刀が激しく打ち合う。

 火花が散り、鉄が唸り、衝撃で雲が吹き飛ぶ。


 だが茉莉花の背後。

 そこに、もう一体の孫悟空がいた。


 斬撃が触れ合う一瞬、茉莉花が気配を察した。

 しかし遅い。

 それは変化の術で孫悟空に化けた楊戬。

 三尖刀が、震天箭で傷付いた亀盾を音もなく貫き、そのまま茉莉花の肩を――斬り落とす。


「――ッッッ!!!! 癒しの炎!!」


 肩から先の肉が黒く炭のように燃え、皮膚が再生を始める。

 激痛に息が詰まるはずなのに、茉莉花はそれすら戦意に変えようとしていた。


(だめだよ茉莉花……! 再生に意識を割くのは――)


 致命的な隙を生む。

 その瞬間を、哪吒が逃すはずがない。

 縛妖索が蛇のように伸び、茉莉花の胴に絡みつき、締め上げる。


「そん、な! なんで――天空の、透明化がッ!」


 縛妖索は妖を捕縛するための紐であり、透明化する妖にも物理干渉できるようにする効果がある。

 骨が軋む音。翼の羽ばたきが止まり、茉莉花が空中で完全に拘束された。


(これで終わらせる――!)


 私は地面を蹴った。

 空気を裂いて跳躍し、茉莉花の目前まで一気に迫る。


 彼女の瞳――痛みと困惑と、消えかけた歓喜が揺れていた。


「対極を司る者が命じる。

 土御門茉莉花と十二天将。

 ――対極と成せ!! 急々如律令」


「なっ!! あっ、ああああああァァアアアア!!」


 茉莉花の悲鳴が、戦場全体を震わせた。

 茉莉花の身体から十二枚の符が音を立てて剥がれ、光となって四方へ飛び散る。

 空中に渦が巻き、十二天将の力が強制的に引き離されていく。

 痛みのためか、茉莉花は意識を失ったようだった。


 朱雀の翼を失い、落下する茉莉花を抱きしめて一緒に落ちた。

 全身を硬化して落下ダメージを最小限にする。

 そのおかげで、地面に落ちても思った以上の痛みはなかったが、体が僅かに発光を始める。


「……ああ……呪力の限界――」


 私は中学生の姿だった陰陽少女・祓の状態から、元の姿へと戻る。

 祓はあくまでスキル。発動に必要なエネルギーがなくなれば解除される。

 また呪力が切れたことで、式神三体も姿を消した。


『おのれ――対極院。一度ならず二度も我を引き剥がすか!!』


 空中に浮かぶのは、貴人・安倍晴明。

 その周りには、残りの十一の天将が舞っている。

 憎悪を込めた眼差しが私を射貫く。


『汝ら対極院一族は――滅してくれる。まずは貴様から、』


≪私の娘を滅する? 禊の式神との戦いで呪力を使われ消耗したその状態で? 永く封印されて客観的状況も把握できなくなったようね≫


 晴明の言葉に被せる形で、母さんは言った。

 そして私を護るように前へ立つ。


『魔神……ッ。消耗といえば汝もそうだろ。我の母――葛の葉と戦った時ほど力は感じぬ!! 我にはまだ十一の天将を操れる呪力は残っているぞ』


≪そう。――でも、所詮は消耗して万全な状態じゃあない天将程度。問題無いわ≫


『何?』


 晴明が訝しげに表情をする。

 何かを感じた晴明は、玄武を召喚した。

 茉莉花がしたような盾ではなく、亀の甲羅を模した360℃の防御。

 そこに十束剣の形をした天羽々斬が甲羅に突き刺さる。

 あれは対極院家の当主が使用できる三貴神の式神の一柱・素戔嗚。

 使用者は私のお父さん――対極院両儀


『これは素戔嗚ッ。なぜ道満の式神が!!』


 茉莉花との戦いで負ったダメージが回復していない状態で、最硬とは言い難い防御力だったのだろう。

 甲羅が砕け散り、天羽々斬が晴明の体を貫通する、僅か手前で空間が歪む。

 歪みから女性が現れた。

 同性の私から見ても美しさを感じてしまうほどの美貌を持っている。


 素戔嗚の天羽々斬が、突如顕れた女性ごと、晴明を貫いた。

 晴明は驚き、今までのような憎悪ではなく、戸惑うような声を出した。


『はは……うえ――』


 母上。つまり葛の葉!?


≪まさか私との戦いを放棄してまで、我が子の元に行くなんてね……。狐。お前の事は嫌いだけど、子を思う気持ちは分からなくはないわ≫


 空間を捻じ曲げて現れたのは、母さんだった。

 でも、目の前にも母さんがいるのだから、現れた母さんは、前の時間軸の母さんだ。

 ――よかった。ちゃんと来てくれたんだ。




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