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警視庁陰陽課特命係・対極院禊―浮気され禁足地に異動させられた警察官―  作者: 華洛


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18話 狂気



「十二天将の一柱、南の守護者・朱雀。現れ、傷を癒やし給え! 急々如律令!」


 五色(青・赤・黄・白・黒)に輝く羽を持つ神秘的な孔雀のような鳥が顕れた。

 一鳴きすると、先程、鵺さんが斬った箇所が炎に包まれ、不死鳥が再生するかのように元に戻る。

 茉莉花は再生した手首をグーパーして問題ないか確かめる。

 そして茉莉花はもう一枚、符を取り出して、妖人・安倍晴明へ向けて掲げた。


「十二天将の一柱、筆頭たる貴人よ。永き偽りの姿を解放し、真の姿を取り戻せ。急々如律令!」


 黒い呪符は、茉莉花の手から、晴明の元まで飛んでいくと、体内へ侵入した。


≪そういうこと……。どうやら妖人の思念に染まっていたのは、貴人だったみたいね。貴人は十二天将筆頭。他の十二天将も従わざる得ない≫


 妖人・安倍晴明の眼が開いた。

 母親である九尾の狐の影響だろうけど、獣のように獰猛な瞳をしている。

 黒が濃く、空気が重く、心臓の鼓動が押さえつけられる。

 ただ立っているだけで、まるで重力を操っているかのような強力な圧力を受けた。


『……久方ぶりの外の空気だ。我を封じる一端を担った賀茂は殺したかったが――。まあいい。それよりも』


 晴明は私を睨みつけてきた。


『貴様だけは許さん。対極院六道の子孫よ。我を躰から引き離し、封印した事を死をもって償え』


「残念だけど、私は殺されるつもりはないよ」


≪ええ。愛しの我が子を殺せるなんて思わないことね≫


 母さんが私の前に立ち、妖人を睨み返す。

 その瞳には、世界を滅ぼしかねない怒気が宿っていた。


「晴明さま」


 茉莉花が、まるで恋人に語りかけるような甘い声で呼びかける。


「ここまで労を割いて復活させたのですから――私に従っていただきます」


『……ほう』


 晴明の口元が、わずかに歪んだ。

 それは笑みなのか、それとも侮蔑なのか。


『意気がるなよ、小娘が。貴様程度の術師が我に命令するか』


「ええ。今の晴明様は貴人と一体化した存在。謂わば貴方は私の式神――そういうことです」


『……』


 茉莉花の声には、一片の迷いもない。

 その目は、晴明を――道具として見ていた。

 晴明と茉莉花は睨み合う。

 先に口角を上げたのは晴明だった。


『……面白い。我を従えるというのなら、条件を出す』


「断れば?」


『貴様を乗っ取るだけだ』


 茉莉花は肩を竦める。


『小娘。――貴様は、我の転生に協力せよ』


「分かりました。それで――方法は」


 一切の迷いなく茉莉花は、晴明の条件に同意する。


『簡単なことだ。貴様が子を産め。そして、その子に我が転生する』


 つまり安倍晴明は肉体を得たいため、茉莉花に子供を産めと言っている。

 でも、分からない。

 どうして茉莉花に子供を産ませる必要があるのか。


≪母体の腹の中で調整して、最適化した肉体を得るためね。――九尾が晴明を産んだのと同じ手法ね≫


『そうだ。魔神よ。貴様が母を真似、六道の子孫――禊だったか。それを産んだのと同じ手法よ』


≪ふん。……狐の自分の子供を持ちたいという願いは、今ならわからなくないわ。けど、その手法で転生するなんて≫


 母さんは晴明の言葉に嫌悪感を示す。

 九尾の狐が、人の姿で晴明を産んだ。

 その時、晴明の肉体は妖怪の力を扱えるように調整された。

 ――そして。

 母さんも似たような方法で、私を産んだ。

 【スキル】を扱えるように最適化された肉体として。


「わかりました。でしたら、子の親は――禊さんにしていただきます」


「はぁぁぁ!?」


 茉莉花のとち狂った言葉に、思わず声を出してしまった。


『なぜ忌々しい対極院の者の血を混ぜねばならん』


「分かりませんか? 禊さんは魔神によって【スキル】を十全で使用できる最適な肉体を持っています。子供にも同じ力の継承が期待できます」


「ふざけないで! 私は女だけどっ」


「クスクス。陰陽術の中には、陰陽を入れ替えて一時的に男性になれる術があります」

――禊さんを男にして、私が子を産む。その子に晴明様が転生する

――ああ、なんて最高なんでしょう」


 光悦した表情で茉莉花は言う。

 同時に寒気と吐き気がした。

 言葉の意味が、ゆっくりと理解できる。

 私を男にして。

 茉莉花と――。

 そして、その子供に晴明が転生する。


「センスのない冗談だね。全く笑えないよ」


「冗談なんかじゃありません」


 茉莉花の瞳が、昏く、禍々しく、狂気に彩られている。


「禊さん。貴方の全てを奪います。

尊厳も、誇りも、自由も――全て。

そして貴方を、私の支配下に置く。

ずっとずっと死が二人を分かつまで、常に私の下で、いいなりになって過ごしもらいます」


 その声は、どこまでも冷たく。

 そして、どこまでも狂っていた。


「晴明様。問題はないですよね」


『あの対極院の肉体を使うというのも、六道への意趣返しになるか。

よかろう。ここに契約は成立した――我の力を存分に使え』


 茉莉花は貴人を除いた十一枚の符を掲げた。

 十一枚の符は、円を描きながら回転をする。


「六合。青竜。天后。大陰。大裳。騰蛇。勾陳。朱雀。玄武。天空。白虎。そして貴人・安倍晴明

――土御門茉莉花が、十二天将に命じる。

――人魔一体。私に全ての力を寄越しなさい!」


 茉莉花の命令に従い、十二天将は茉莉花の躰へ吸収されていく。


≪禊。前にも言ったけど十二天将は私の力で権能を得ているわ。それを得るということは、魔神である私に近い力を得たと考えなさい≫


「つまり――お母さんと同等ってこと?」


≪新しくスキルを創り出すことはできないでしょうけど――。それ以外は、私とほとんど同じね≫


 ずっと一緒にいたので母さんの凄さは誰よりも私が理解している。

 その母さんと一緒の力――。

 でも、負けるわけには絶対にいかない。

 ここで茉莉花を倒して、晴明を祓ってみせる。


 私は祓棒を構えると、地を蹴り、茉莉花に向かって跳んだ。



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