第5話「血薔薇の讃歌」
島は静まり返っていた。燃え尽きた城、血に染まった広場、そして散らばる黒薔薇の花弁——すべてが死と絶望の象徴だった。
雪乃は一人、廃墟の中で立っている。永遠に朽ちない体、そして胸の奥にずっと重くのしかかる罪と孤独。
「……これが、私の祈りの末路」
声にならない呟きが、夜風にかき消される。蒼も、領主の女将も、避けられぬ悲劇に巻き込まれ、今はただ思い出の中にだけ生きている。
背後で黒薔薇が静かに姿を現す。顔のない異形、その存在は変わらず冷酷だ。
“お前は生き残った。だが誰も報われぬ。これが、お前の永遠の代償だ”
雪乃は静かに頷く。痛みも、怒りも、もうない——残るのはただ、救えなかった者たちの記憶と、自らの孤独。
「わかっています……それでも、私は生きる」
黒薔薇は微かに笑った。その笑みには慈悲も赦しもない。
“薔薇は咲く。血で満開になる——お前の祈りは、世界を染めた。誰も救われぬままに”
雪乃は空を見上げ、風に舞う薔薇の花弁に手を伸ばす。赤と黒が混ざり合い、血の香りが夜を覆う。彼女は知っていた——この力で救えるものなど、最初から存在しなかったのだと。
島は永遠の夜に沈む。黒薔薇は雪乃の周囲で静かに咲き乱れ、悪魔の囁きだけが響き続ける。
“永遠に……お前は孤独でいる”
雪乃は微笑んだ——悲しげで、凛として、そして救われぬ者の痛みを全て背負った微笑み。
赤と黒の薔薇が彼女の足元で舞い、島は血の讃歌に包まれた。
祈りは届かない。
誰も救われず、誰も報われない。
ただ、血の薔薇が、永遠に咲き続ける——雪乃の孤独と共に。
風が吹き、花弁は夜空に舞った。島に生き残ったのは、彼女一人——永遠に、朽ちることのない孤独。
そして、物語は終わらない。私の胸に、深く刺さる痛みだけを残して。




