第4話「永遠の孤独」
城の廃墟に、夜の闇が染み込むように落ちていた。
赤黒く焦げた石垣、血で染まった広場——かつての人々の声は、風にかき消される。雪乃はその中心に立ち、冷たい風に揺れる黒薔薇の花弁を手のひらに集めた。
「……もう、誰もいない」
胸の奥で、空虚が広がる。蒼も、領主の女将も、避けられぬ惨劇に巻き込まれて死んだ。子供たちの笑顔も、信徒たちの祈りも、すべて遠い記憶の中に沈む。
黒薔薇——顔のない異形が、静かに雪乃の背後に立つ。
“見よ。お前は生き残った。だが、永遠に孤独となる――誰も報われぬ、完璧な代償だ”
雪乃はゆっくりと振り返る。冷たい微笑みを浮かべながら、胸の奥で何かを誓う。
「……これが、私の祈り。救えなかった者たちのため、私は生き続ける……」
その瞬間、黒薔薇の触手のような花弁が雪乃の体を包み、血と闇が交錯する。
痛みでもなく、喜びでもなく——ただ、永遠に続く命の実感が、彼女の全身を満たす。
不死の血は強烈で、しかしその代償は明確だ。誰かを喰らうことでしか力を維持できない。
雪乃は視線を上げ、燃え残る城の方向を見る。かつて守ろうとした民たちはいない。残るのは焦土と、赤く散る薔薇の花弁だけ。
胸の奥で、微かに人間らしい感情が震える——愛する者を守れなかった痛み、救えなかった無力感、そして孤独。
“薔薇は血で満開になる。お前の祈りは届かぬ”
黒薔薇の囁きが響く。雪乃は静かに頷いた。
「……わかっています。それでも……私は生きる」
風に舞う黒薔薇の花弁が、雪乃の足元で渦を巻く。永遠に朽ちない彼女は、島に残された最後の存在。
血と祈りの香りが夜の闇に溶け、島全体を呪いの静寂が包んだ。
祈りは、届かない。
誰も救われず、誰も報われない。
ただ、血の薔薇が永遠に咲き乱れる——雪乃の孤独と共に。




