落華
精肉機は生命の裁断機だ
バラバラになれば、私も綺麗になれるのだろうか
赤茶けた部屋だ
眼下に視下ろす機械の中では、幾層もの刃が回っている
その一つ一つ総てが、私の生命を奪える程のものなのだろう
私は最期にコートを脱ぐべきなのか迷っていた
息を切らして貴女が駆け付け、私を後ろから取り押さえようとする
私が身を躱すと、貴女は機械に落下しそうになり、言葉を上げる事も出来ず、血の気の引いた白い顔で腰を抜かした
「先輩……」
「『どうして』と言いたいの?」
恐怖で舌すら回らない貴女は、私の眼には淫靡に映った
最後にこの娘と寝る事が出来たらとも思ったが、叶わない話だ
「…………視て」
隠していた手の甲を、首筋を、曝け出して貴女に視せる
貴女が震えながら「解らない」といった顔をしたので、私は続けた
「老いる事に耐えられなくなったの」
本心だった
現実に、私は生きれば生きるだけ老いていく
幼い頃から美の顕現のように扱われ、泣きながら必死でそれを保ち続けてきた私には、もう耐えられなかった
「先輩は、まだ……」
「───貴女には解らない」
『まだ美しいです』とでも言いたいのだろう、愚かな娘だ
あれだけ私の事をいつも視ていたのに、あんなにも私の肌に深く触れたのに、解ってくれないのか
私は、若い時の己を知っている
もはや私は老いて、さらばえた
「───どきなさい」
私は貴女の頬を平手で張った
貴女は弱い
貴女は泣き虫だ
それなのに、頬をしたたかに張られながら、貴女は一歩も引かずに私に飛び付くと、しがみついて私を取り押さえようとした
「離さないと貴女まで………」
揉み合いになりながら文句を言おうとした時、私は足を滑らせた
私達は絡み合ったまま、刃の回る底へと堕ちていく
私の人生のようだ、と不意に思った
貴女の顔を視る
貴女はこんな時だと言うのに、恐怖を押し殺したつらそうな顔で、私に向けて微笑んだ