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記憶の墓標

王国が存在を隠している魔導遺跡——記録の墓標。


「きっと、ここに虚月の影の本拠がある……」


写本の断片、魔導式の遺稿。

それらをつなぎ合わせた座標を信じ、セレナは転移陣を起動させた。

蒼い輝きが辺りを包み、空間がゆっくりと捻じれていく。


たどり着いた先は、深い霧と冷たい風が吹く峡谷地帯だった。

魔力が濃すぎて、呼吸さえ重たく感じる。


「……ここだ。空気が違う」


かつての魔導文明が繁栄し、やがてその全てが封印された“知の墓場”。

この先には、王都も触れることを禁じた最終領域がある。


セレナは防御結界を展開しながら前進する。


「記録の墓標が眠るのは……この結界の先」


巨大な岩の門に刻まれた封印術式。

その構造は、現代の魔導言語とは異なっていた。

けれどセレナは迷わない。魔術師としての直感が、構造の意味を理解させていた。


「開け——八重封結・零式展開」


青白い魔法陣が七層、空中に浮かび上がり、セレナの詠唱に共鳴していく。

そして八つ目の光が閃いた瞬間、岩の門が静かに崩れ落ちた。


と、その瞬間——


「ようこそ、“災厄の姫”。その手で封印を解いてくれるとは、実に助かる」


濁った声が空中から響いた。

現れたのは黒いローブをまとった複数の影。

その先頭にいたのは、セレナのよく知る顔だった。


「……理事長代行、ハルメス=ディラッド」


王都の元理事長代行、そして過去にはルミナリア魔導学院で教官をしていた男。

かつては魔導統制派に属していたが、突如として姿を消した人物——


「王都も魔導学府も口うるさすぎてね。才能ある者が自由に研究できる場を奪うとは、つくづく罪深い」


「あなたも……虚月の影に堕ちたの?」


「“堕ちた”? 違うな。私は、真理の側に立っただけだ」


ハルメスの周囲に浮かぶのは、異型の魔導兵器。

それは現代の法典では禁止されている構造を持ち、明らかに“異端”の技術によって生み出されていた。


「だがまあ、ここまで来た君に免じて、死ぬ前に一つだけ忠告しよう。墓標の奥には、君の求めるものなどない」


「私は、確かめに来たのよ。“真実”を、私の目でね」


セレナは杖を掲げた。

風が渦巻き、霧が弾けるように裂ける。


「ならば——その意志ごと、ここで葬ってやろう」


ハルメスが放つ漆黒の魔弾と、セレナの氷槍がぶつかり合う。

轟音と共に地が揺れ、魔導結界が何層にも重なり拡張される。

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