表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/52

歪んだ真実

王都エリア・中央学術局。

数多の魔導士が行き交うその一角に、静かに机に向かう影があった。


臨時学府理事補佐――ナルサス=アダンティス。

魔導学府ルミナリア消失事件の際、王都へ戻っていた彼はその難を逃れており、事件について独自に調査を続けていた。


「……やはり、公式記録と一致しないな」


眼前の報告書を指でなぞる。


消失したはずの結界観測記録が、中央局の第二記録庫で“削除済み”として保管されていた。

しかもその消去権限者の名は――


「……理事長代行、ハルメス=ディラッド……か」


かつて貴族派の代表格だった男。今はその座を退いたはずの、影の実力者。

ナルサスの眉がわずかに動いた。


「セレナが……“学府を消した”だって? そんな馬鹿な話、信じられるか」



一方、王都北端。

セントレオ区の高台にある私邸に、一人の女教師が訪れていた。

フィリア=ノーチェ。魔導学府ルミナリアの上級教員。


「入ってください。ナルサス様もお待ちです」


応対した召使いに案内され、奥の書斎へ。

中ではナルサスが、魔導記録端末を指でなぞりながら、無言で頷いた。


「来てくれたか、フィリア。話が早い」


「学府の件……まだ続いてるのね」


フィリアは目を伏せる。

事件の直前、彼女もまた、調査任務で外地へ出ており、学府の消失には居合わせなかった。


「奇跡的に助かった……それでも、私は“無力だった”」


「それでも、信じているんだろう? セレナのことを」


ナルサスの問いに、フィリアは強く頷いた。


「ええ。セレナは“そういう子”じゃない。何があっても、人のために魔導を使う。それだけは絶対に」



その時、机の魔導水晶が微かに点滅した。

信頼する王都地下組織からの密通信。


ナルサスが手をかざすと、声が漏れた。


『報告。王都魔導局が“別の記録水晶”を押収。だが、それには“虚月の印”が――』


「……虚月の影か」


ナルサスとフィリアは視線を交わした。


「ついに名が出たわね……ただの噂じゃなかったのね」


“虚月の影”――王都の闇に潜む謎の組織。

正体不明、だが高位魔導士でも敵わぬ者が複数存在するとされる影の勢力。

王国史の中でも、公式記録に載ることすらない存在。


「セレナは――奴らに狙われている。いや、すでに“ぶつかっている”のかもしれない」


「ルミナリアを、虚月の影が……?」


「可能性はある。セレナだけが生き残った理由も、偶然とは思えない」



その夜。


フィリアは一人、王都の天文台を訪れていた。


そこにはかつて、生徒たちと共に魔導星図を読み解いた思い出が残っている。

満天の星々。その中で、ただ一つ――軌道を外れ、動かぬ星がある。


「“封じられた星”……」


それは、まるで学府ルミナリアの象徴のように、空にぽつりと浮かんでいた。


「――セレナ。あなたは今、何を想っているの?」


彼女の問いに、星は何も答えない。


だがその輝きだけは、かつての少女を思い出させた。

教室の誰よりも真っ直ぐで、愚直なまでに“人を救おうとした”魔導姫。



翌朝。

ナルサスとフィリアは改めて決意を共有した。


「セレナはこの国にとって“本当の変革者”だ。だから排除された」


「なら、私たちが動かなくちゃ。過去も、真実も、正しく残すために」


王都の片隅。まだ誰も気づかない場所で、真実を信じる者たちが歩み始めていた。


その先にあるものが、たとえ“国全体”を敵に回す道だとしても――


「……かまわないわ。彼女は、私たちの希望だったのだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ