表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/52

貫く者

魔導学府ルミナリア――中庭の円形劇場。


そこは本来、模擬裁判や公開討論の場として用いられる“教育のための施設”だった。

だが今日ばかりは、違った空気が流れていた。


模擬審問劇『魔導と責任倫理』。

その被審問者として名を挙げられたのは――


セレナ=アルヴェリス。


元侯爵令嬢。王都から“政治的”に追放された過去を持ち、辺境にて突如として強大な魔導を開花させ、今や学府内で強烈な存在感を放つ少女。


明らかに、“見せしめ”を意図した審問劇だった。


壇上に立つのは、上級講師ヴォルク=ラズフェル。

元副学長派で、保守的貴族思想の論者として知られる人物。


「では始めよう。セレナ=アルヴェリス君――君は、かつて王都の地において、“非正規な魔導行使”を行い、混乱を引き起こしたという噂がある。これについて、弁明はあるか?」


ざわめきが広がる。だが、セレナは眉一つ動かさず、静かに口を開いた。


「事実ではありません。私は王都にいた頃、魔導を扱ってもおらず、何かを混乱させた覚えもありません」


「だが、その後――辺境で突如として“強大な魔導”を手にし、王都の要職者を撃退したという記録がある。これは“力による体制批判”と捉えられても仕方ないのでは?」


セレナは、わずかに目を細める。


「私が戦ったのは、“力によって人を支配しようとした者たち”です。私が魔導を得たのは、誰かを屈服させるためではなく、守るためでした」


「――君の“守りたいもの”は、王都の法と秩序よりも上にあると?」


「もし“秩序”が一部の者による“独占”であるなら――私の答えは、はい、です」


場内に緊張が走る。


ティナ=フェルゼは椅子を握りしめ、アレン=カイルが隣で呟いた。


「……これ、模擬劇って体裁だろ。中身、完全に私刑じゃねぇか」


観客席の一角、フィリア=ノーチェは眉をひそめながら睨みつけていた。


(……やっぱりね。セレナを“学府の悪”に仕立てたいのよ)


だがセレナは怯まない。


「講師殿。私に“倫理”を説くのなら、問いましょう。王都で貴族たちが、私に“処分”の署名をしたとき――それは倫理に適っていたのですか?」


ラズフェルの顔が強張る。


「……それは――」


「“強くなった私”が今、こうして皆さんの前に立っていることこそが、あの“処分”が誤りだった証拠です」


その言葉に、観客席から拍手が起こる。


「セレナ先輩、かっこいい!」


「言ってやれー!」


ラズフェルの顔が引きつる。


「……たとえそうであっても。貴族社会には“秩序”というものがある!」


「ええ、ありますね。“都合のいい秩序”が」


セレナは壇上に立ち、堂々と群衆を見渡す。


「でも、それに縛られ続けたら、魔導はただの道具です。私は、それを変えるためにここにいます」


沈黙。


やがて、ラズフェルが敵意を剥き出しに口を開く。


「ならば証明してもらおうか? 君の“正しさ”とやらを」


「証明は、もう済んでいるわ」


セレナは、彼に微笑を向ける。


「ここに、私がいる。それが、答えよ」


***


その夜。


フィリア=ノーチェは、学府長代理に密かに報告を上げていた。


「彼女は、やはり“学府に必要な存在”です。保守派の攻撃は、今後さらに激しくなるでしょう」


「……だが、それだけ彼女が“変化の核”になっている証拠だな」


理事長代行が小さく頷く。


(王都が、再び牙を剥くのも時間の問題か……)


フィリアの視線は、遠くにある“魔導の未来”を見据えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ