表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/52

招かざる再会

春風が緩やかに吹き抜ける魔導学府ルミナリアの中庭。

副学長の粛清から数日が経ち、学府内は一時の静けさを取り戻していた。


その日、セレナ=アルヴェリスは、朝の講義に向かうために白壁の講義棟へと歩いていた。


(……新任教師の着任。内部通達で見た名前には、見覚えがなかったけれど)


事前に貼り出された掲示板には、新たな魔導史担当講師の就任が告げられていた。


「セレナ!」


小走りに駆けてくるのは、仲良くなった後輩――ティナ=フェルゼ。


「今日から新しい先生よね! どんな人かな〜? 若かったりして?」


「さぁ、どうかしら。見た目に騙されないようにしないとね」


セレナは微笑みながらも、どこか胸の奥に引っかかるものを感じていた。


***


講義室に入ったセレナとティナは、空いている席に腰掛けた。


ざわつく教室。生徒たちの視線は前方へと集中していた。


そして、時間ぴったりに扉が開く。


コツコツ……と規則正しい足音。現れたのは、まだ若いが冷静さを漂わせた黒髪の男だった。


彼の名は――


「初めまして、今日から魔導史の講義を担当する、ナルサス=アダンティスと申します」


その瞬間、セレナの瞳がわずかに揺れた。


(……どうして、彼が)


目の前に立つ男――ナルサス=アダンティスは、かつてセレナの実家であるアルヴェリス家に仕えていた、元・近侍。

セレナの追放が決まったあの日、最後まで何も言わず姿を消した人物だった。


「本日は導入として、“魔導制度と貴族の関係史”について話そうと思う。……少し、生臭い話になるかもしれないがね」


黒板に魔導王国の系譜図を描きながら、ナルサスは淡々と講義を進めていく。


その話しぶりは冷静で、理路整然。だが、時折――あまりにも“鋭い”視線がセレナへと向けられていた。


(……気づいている。私がここにいることを、知っていた)


セレナは目を伏せたまま、ペンを握りしめた。


***


講義が終わった直後。


「セレナ。少し、いいか?」


静かに告げられた一言に、セレナは肩をすくめた。

周囲の生徒が興味津々に見守る中、セレナは頷き、教師控室へと歩いた。


扉を閉めた瞬間、ナルサスが低い声で言った。


「……まさか、君がここにいるとはな」


「私も。あなたが学府に来るとは思ってなかった」


沈黙が流れる。


やがて、ナルサスは少しだけ息を吐いた。


「“あの日”……お前の処分命令が出たとき、俺は何もできなかった」


「知ってたんでしょ? 誰が命じたか、どんな経緯だったのか」


「……知っていた。だが、声を上げたら、俺も“処分”される側だった。あの頃の俺には、まだ守るものがあって――」


「あなたは私を見捨てた。それだけのことよ」


セレナの瞳は、凍るように冷たかった。


ナルサスは少しだけ目を伏せた。


「……変わったな、お前」


「変えられたの。王都じゃない、“ここ”で」


セレナの声には、一切の迷いがなかった。


「魔導が“誰のためにあるか”を教えてくれた人たちがいた。……だから、私はもう、二度と踏みにじられたくないの」


ナルサスは、黙って頷いた。


そして――まるで、何かを確かめるように問いかける。


「……それでも、もし俺が“お前の敵”になったら?」


「そのときは……魔導で、あなたを止めるわ」


***


夕暮れの中庭。


控室を出てきたセレナを、アレン=カイルが待っていた。


「なんか……顔、怖ぇぞ」


「そうかしら?」


「まぁ、ちょっと凛々しくなったって言えば、そうかもだけど」


「……ありがと」


セレナは微笑む。


(再び、過去が動き始める予感。だけど――今の私は、もう負けない)


その胸の奥で、静かに魔力が脈打っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ