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『辺境の魔導姫』〜婚約破棄された悪役令嬢ですが追放先で神々に愛されて最強魔導姫になりました〜  作者: ピラビタ
魔導学府編

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19/52

魔導学府へ――

オルトレアの静かな朝。

山に囲まれた辺境の村は、すっかり春の陽気に包まれていた。魔物の影も盗賊の騒ぎも遠ざかり、平穏な日々が戻っている。


村の広場に咲く花の傍らで、セレナ=アルヴェリスは静かに空を見上げていた。

元・王都の令嬢。元・王太子妃候補。

今は――


「……村の畑、耕してるだけの人ね。ふふ」


少しだけ、肩をすくめて笑う。


ミリアンヌの“処分命令書”を逆に暴露し、レオンハルトを失脚させ、ガルフォードすら政界から追放させた大逆転劇から数ヶ月。

王都を離れ、彼女は再びこの地に戻っていた。


村人たちは彼女を“魔導姫”と呼び、敬意と感謝の眼差しを送る。

けれど、セレナ自身はどこか物足りなさを感じていた。


(私は……これから、どう生きるの?)


そんなある日。村に、見知らぬ訪問者がやってきた。


彼女の名は――フィリア=ノーチェ。

淡い桃色の髪と明るい瞳を持つ、どこか浮世離れした雰囲気の女性だった。


「あなたが……セレナ=アルヴェリスさん、ですね? 初めまして。魔導学府ルミナリアの教師をしている、フィリア=ノーチェと申します」


「魔導学府……?」


その響きに、セレナは思わず眉を上げた。


「ええ。ここから遥か東方、ゼルメア地方の大都市“フリューゼン”にある、王都とは無関係の独立機関です。魔法を志す者のための、学び舎。そして……私は、あなたに“ぜひ来てほしい”と言われて来ました」


「……誰に?」


「学府の理事長代行。詳細は入学してからお話するとのことでした」


その場では即答できなかった。

だが、そんなセレナの様子を見て村人たちは皆、笑顔で背中を押してくれた。


「セレナ様はもう、“閉じた世界”の人じゃありませんよ」

「せっかくだから、もっと広い世界、見てきてください!」


少し悩んだ末、セレナはその誘いを受けることにした。


「じゃあ――行ってみようかしら。ちょっと、見てみたいし」


そうして、彼女は再び旅に出る。

フリューゼンの大地へ。未知の地へ。



――そして、数日後。


「ここが……ルミナリア魔導学府」


丘の上にそびえる広大な白亜の建築群。空には魔導飛行船が行き交い、魔力の気配が街全体を包んでいる。

王都とは違う、しかしどこか自由で開放的な空気がここにはあった。


学府の門をくぐると、すぐに案内役として現れたのは――


「君が……セレナ=アルヴェリスか。話は聞いている。僕はアーデル=ロヴァン。君のような“特例入学者”が来るとは思っていなかった」


切れ長の瞳、整った顔立ち、そして高慢とも思える口調。しかしどこかその眼差しは真剣で、言葉の端々には皮肉以上の感情が混じっていた。


「……私に何か言いたいことが?」


「いや。ただ、期待しているんだ。君がどこまでやるのか。それを見てから、共に立つ価値があるかを判断しよう」


――この男、ただの高飛車ではない。


セレナは直感的にそう理解した。


(この人……私と似てる)


そして学内を少し案内される中、もう一人の“奇妙な人物”と出会うことになる。


「フィリア先生の推薦で来たって? うわー! セレナ先輩だよね!? 本物!? うわー! 本っっ物だ!!」


無邪気に跳ねるように近づいてきたのは、下級生の少女――ティナ=フェルゼ。

小柄で癖のある金髪、魔力制御は超一級だが性格は暴走気味、という型破りな少女である。


「ねえねえ、どんな魔法使うの!? 闇?氷?爆裂? え、でもやっぱり恋愛系!? 憧れるー!」


「ちょっと、落ち着きなさいってば……!」


初日から振り回されながらも、セレナは静かに笑った。


(きっと、ここでなら……新しいものが見つかる)


そう思えたのだ。


だが、そんな彼女の期待を裏切るように。


王都とは無関係――とされたこの学府にも、また一つの「陰り」が迫っていた。

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