「なにつくろうかなーって、歩きながら考える帰り道」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
土曜の夕方、スーパー帰りの買い物袋を片手に、ちょっとご機嫌。 「なにつくろうかなー」って考える時間が、一日の中で一番クリエイティブかもしれない。 ――誰かと一緒に食べたいって思ったとき、その料理はご馳走になる。
荻野目 蓮
陽葵の買い物後のテンションの上がり方、知ってる。 レシピは決まってないのに、すでに“おいしそうな空気”ができあがってるのが面白い。 ――その横で歩いてるだけで、なんか幸せになるのが土曜の夕方。
【こんかいのおはなし】
土曜日の夕方。 スーパーの袋が左右に揺れてる。
「なにつくろうかなー」
空を見上げながら、ぽつりと言った。
「まだ決めてないの?」
「うん。でも、お野菜たくさん買ったから……なんかあったかいのがいいなぁって」
「鍋?」
「んー、鍋もいいけど……あ、ミネストローネとか!」
「なるほど」
「で、パンあっためて、チーズのせて……」
「それ、けっこう本格的じゃん」
「うふふ、ご馳走にしたい気分なの」
「誰に?」
「……わたしと、今日一緒に歩いてる人に」
「……それ、俺?」
「うん。っていうか、他に誰がいるのさ」
陽葵が笑って、袋の中のじゃがいもがゴトッと揺れる。
「ご飯って、食べるより“なに作ろうかな”って考えてる時間が幸せかもね」
「わかる。においが想像だけでうまい」
「今のうちから“おいしかったー”って気持ちになっておくと、ほんとにそうなる気がする」
「前向きすぎて未来ごと調理してる」
「そう、今日は未来ごと味つけしていきます!」
足音が、帰り道にトコトコ響いた。
西日がやわらかく差し込んで、袋の影が長くのびる。
「じゃがいもはほっこり系で、トマトは元気系で……」
「うん、それ陽葵の料理、間違いなくエモご馳走になるやつ」
「ほめすぎ」
「期待してる」
「はいはい、プレッシャーも調味料にするから」
風がふわっと香って、歩くたびに、夕方の空気が“これから”のにおいになってく。
――今夜のメニューは、きっと“帰り道から始まってるご馳走”。
【あとがき】
“なにつくろうかな”って考える時間は、いちばんあたたかい魔法。
誰かを想って選ぶ具材、未来のごはんを想像してワクワクする感じ。
食卓の前からもう、幸せって始まってるんだなぁって思います。