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8.公爵令嬢ディアナは祝福する

上機嫌なお父様が、



「喜べ、ディアナ。フェリシアがリルブロルの領有権を求めているそうだ!」



と、仰られたとき、ようやく私たちの闘いが終わったのだと実感できた。


フェリシアはひとつ年上の従姉で、幼い頃から本ばかり読んでいた。


私の父は公爵の弟。爵位を持たない。


どうにか貴族の結婚相手を見付けないと、貴族のままではいられない私が、物心ついた頃にはオシャレに話術、男性に気に入られる努力を積み重ねてきたのとは大違い。


余裕のある態度が、いつも鼻につく。


別の公爵家か、あまよくば王家に嫁ぎたいと考える私を見下すように、フェリシアはさっさと第3王子殿下との婚約を決めてしまった。


それもこれも、ただ父親が違うというだけのことだ。


自分の努力ではどうしようもない身分の壁に、ひとり悔し涙を流した。


伯父様が事故で亡くなられた時、不謹慎ではあるけれど、チャンスだと思った。


フェリシアはまだ12歳。


ストゥーレ公爵家領の統治は、私の父が代行することになった。


翌年、お父様に頼み込んで、異例の早さで社交界にデビューさせてもらった。


フェリシアが来る前に、社交界に私の味方を増やしておきたい。できるだけ多くの場に顔を出し、淑やかに可愛らしくふる舞った。


次の年、宰相閣下に多額の贈り物をしたお父様がストゥーレ公爵を継承した。


フェリシアが18歳になるまでの期限つきだったけれど、これは最初の一歩だ。


慎重にふる舞い、フェリシアをストゥーレ公爵家から追い出すための。


そして、私は念願の〈公爵令嬢〉になった。社交界ではより一層に持て囃してもらえるようになって、私は有頂天だった。


だけど翌月、フェリシアが社交界デビューしたとき、私はまたしても深い悔しさを味あわされた。


瓶底眼鏡を外したフェリシアは凛と美しく、ヒョロっとした身体をドレスに包んだら、凛々しく優雅な公爵令嬢が現れた。


しかも、話題が豊富で、難しい政治や経済、外交、産業、さらには文化芸術や娯楽に関することまで知識が幅広く、どんな方とも打ち解けられる。


殿方のされる話に、どうすれば可愛らしい相槌が打てるかばかり考えてきた私とは、社交の場における存在感が段違いだ。


王都社交界はフェリシアの噂で持ちきりになった。


この敗北感を共有できたのは、意外にもフェリシアの婚約者である第3王子マティアス殿下だった。



「……ボクがフェリシアの隣に並んだら、見劣りするよね」



しおらしい言葉を吐かれているけど、本心は違う。


ヒョロガリメガネと侮っていたフェリシアが公爵位を継承したら、公爵家は実質的に自分のものにできると算段していたのだ。


だけど、フェリシアの本性が美貌で聡明、女公爵に相応しい知性と能力を備えていると知って、身勝手な落胆をしていた。



「私でしたら、殿下の能力を存分に発揮していただけましたのに……、残念ですわ」



と、指を絡めた。


3番目に生まれたというだけで、国王にはなれないマティアス殿下をお慰めし、励ました。


お父様とも入念に打ち合わせを重ねながらことを運んで、再び宰相閣下に多額の贈り物をし、マティアス殿下の婚約者を私に差し替えてもらうことに成功した。



――これで王家も、お父様が公爵家の当主になることを後押ししてくださるはず。



先代の国王陛下は、先々代の国王陛下の王弟でいらした。


激しい宮廷闘争の末、群臣を味方につけて能力の乏しい甥の王太子を廃し、国王の座に就かれたのだ。


そのご子息である現国王陛下もきっと、我がストゥーレ公爵家の兄弟継承に理解を示してくださるに違いない。


そう考えていたところに、フェリシアがリルブロルの領有権を求めているとの報せ。


公爵家領の一部を求めるということは、自分は公爵家から分家するということだ。


婉曲ながら、フェリシアからの敗北宣言に等しい。


お父様はただちに同意され、王宮に届け出られた。


フェリシアはきっと、私を敵だと思ったことはない。私のことなど、一度もフェリシアの眼中にはなかった。


だけど、私は勝った。


お父様は公爵位を正式に継承され、やがては私が継承する。ううん。面倒な統治なんかマティアス殿下に押し付けて、爵位は殿下に譲ってもいい。


しばらくして、リルブロルの領有権がフェリシアの手に渡り、その式典に出席するため王宮へとのぼる。


きっと、フェリシアは凛と美しく、悔しそうな顔なんか見せてくれないだろう。


だけど、私は心から祝福してあげる。本家の当主令嬢としてね。


私は浮き立つ心と、深い安堵とを感じながら、マティアス殿下がフェリシアに婚約破棄を告げた大広間へと入った。


明るい未来の幕が開くのだと、気分は高揚していた。


それが、あんなことになるだなんて――。

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