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2.公爵令嬢フェリシアの婚約破棄(2)

屋敷に戻ると、叔父夫妻が大仰に詫びてきた。



「伝達に不備があったようで、フェリシアには申し訳ないことをした」


「いいえ。叔父様は王宮にもご出仕されるお忙しいお身体。こういうこともごさいますでしょう」



にこやかに微笑み合い、叔父夫妻を別邸に追い返す。


本邸のメイドたちは口々に叔父夫妻と従妹のディアナを罵り、わたしを慰め、励ました。


だけど、客観的に見れば勝負アリだ。


叔父は来年、わたしに爵位を返すつもりなど毛頭ない。


まあ、お祖父様の血筋は継承される訳だし、わたしがジタバタ騒げば、かえって亡きお父様の名に傷を入れることにもなりかねない。


いや、むしろ叔父はそれを狙っていると考えた方がいいだろう。


なんとかお父様の血筋を守ろうと、この3年は好きだった趣味も封印し、社交の場に勤しんできた。


できる限りのことはやったという自負がある。


わたしの戦いは、いったん終わった。あとは、最後の結果を見届けるだけだ。



翌朝、叔父を本邸に呼び出した。



「……リルブロルに?」


「ええ、叔父様。リルブロルはわがストゥーレ公爵家発祥の地。ご遺言によりお父様とお母様のお墓も200年ぶりに設けられました。この先はリルブロルに移り住み、ふたりの死後の安寧を祈って暮らしたいと思いますの」



叔父はにやけそうになる顔を、必死で引き締めている風情だ。


リルブロルの地は、はるかな辺境。


南方の乾燥地帯にポツンとあって、ちいさな村とブナ林のほかにはご先祖様を祀る聖堂しかない。


すでに、我が家の墓地は本拠地ストゥーレに移っていて、お母様の埋葬は200年ぶりのことだった。


叔父は、つとめて厳粛な声でわたしに応えた。



「実はフェリシア……、お前に縁談が来ているのだ」



手回しのいいことで。


と、鼻白む思いだ。


お相手は大地主、バネル家の嫡男。


バネル家は爵位を持たず領主でもない。いわゆる在地貴族に分類される家柄だけど、王国内外に広大な土地を所有している。


王都の4分の1はバネル家の土地だし、ストゥーレ公爵家領の半分以上もバネル家のものだ。


領主ではなく地主なので徴税権こそ持たないけれど、家格ばかり高くて経済力に乏しいストゥーレ公爵家に比べたら、はるかに裕福な資産家だ。


叔父にしては、なかなか気が利いている。


なにより、バネル家が150年前に貸本屋から身を興したところが、とても良い。



「バネル家は対等婚姻を望んでいる。……つまり、フェリシアはストゥーレ公爵家に籍を残したままということになる」


「よい、お話ですわね」



要するにバネル家は、わたし自身というよりは公爵家の権威を取り込みたいのだ。


そして、叔父はバネル家からの援助を受けたく、かつ、別の貴族をわたしの後ろ盾に持たせたくない。


わたしはリルブロルに在住することを条件に出し、縁談はトントン拍子に決まった。


貴族の結婚など、こんなものだ。



「叔父様? 来年までは本邸をご使用になられない方が、叔父様の名声をより高めますわよ?」



と、わたしが笑うと、叔父は甲高い笑い声をあげた。


負けるときは鮮やかに負けておく。


そうでなければ次がないのも、貴族というものだ。


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